紳士靴のウェルトとは?「目付け」の種類
グッドイヤー・ウェルテッド製法などの靴には不可欠なパーツである細い革=ウェルト。アッパーとアウトソールとの境界線に、靴の外周に沿うような形で付き「出し縫い」が施されるアレですが、前回はその「巻き付け方」の違いを解説致しました。半周で済ませるのか全周させるのかで、靴の見栄えだけでなくその用途も多少変化することがお解かりいただけたかと思います。今回はそのウェルトの表面に付く模様=「目付け」の違いについて詳しく見て行こうと思います。車輪状の特殊な焼きゴテ等でその表面に細かい凸凹を付ける目付けは、英語ではその方法からかウィール(Wheel)とかウィーリング(Wheeling)と呼ばれます。ウェルトに表出する出し縫いの糸を目立たなくしたり、時には出し縫いのピッチの目安としての役割までも果たす意匠ですが、これにも種類が色々ありまして……
上の写真のように、ウェルト表面に凸凹を全く付けないものを「平目付け」と称します。原点と言うべきか基本形であるこれは、言わずもがな出し縫いの糸がダイレクトに表出するのが特徴で、素っ気なさもあるものの底周りをスッキリ見せるのには非常に効果があります。
例えばジョン・ロブ(パリ)の通常ラインの既製靴は以前からこの意匠を採用していますが、恐らくそれは前出の視覚的効果のみならず、出し縫いのピッチのブレの無さを何気なく主張することも狙ったものでしょう。
(プレステージラインのものは、後述する「細目付け」です)
主流の細目付けと粗目付け!
ウェルト上に目付けを付ける場合は、そのピッチが靴の性格を左右してしまうと申し上げても過言ではありません。具体的にはドレス系の靴には通常、「細目付け」と呼ばれる凸凹のピッチが比較的細かい仕上げを施します。上の写真はそのピッチが非常に細かいもので、全体が見えなくてもここだけで相当ドレッシーな靴ではないかと容易に察しが付く訳です。なお、一般的な「細目付け」はそれを施しても出し縫いの糸の存在までは隠すことが出来ません。せいぜい目立たなくさせる程度です。 一方、カントリー系やカジュアル系の靴、それにアメリカ的な雰囲気を持たせた靴では、ウェルトの仕上げには凸凹のピッチが広めの「粗目付け」を採用するのが一般的です。この場合出し縫い糸を太くすると共に、その色とウェルトのそれとを敢えて違えるケースも多く見られます。そのコントラストで視線を下に向けさせ易くし、足元の安定感や迫力を強調する訳です。凝りまくりの「面取り目付け」と「ブラインドウェルト」
前出の「平目付け」と「細目付け」の合いの子のようなものも、実は存在します。「面取り目付け」と呼ばれるもので、ウェルトに表出する出し縫い糸より外側の角を落とし、その部分にのみ目付けを入れるものです。ウェルトの出っ張りを小さく見せるのには極めて効果的な意匠で、有名なところでは1990年代後半以降のエドワード・グリーンの靴では、これが主流になっています。 ここまでご紹介したものは全て、出し縫い糸がウェルト上に表出するものばかりでしたが、それを見えなくさせる特殊な目付け(?)も存在します。「ブラインドウェルト」とか「ブラインドステッチ」と呼ばれるもので、誂え靴(ビスポーク)のドレスシューズでしばし見られる意匠です。掬い縫いをした後、ウェルトの出し縫いをかける領域の上部を一旦蓋状に切り開いてからそこに縫いを掛け、再びそこを閉じてから細目付けを施します。
そうすることで、出し縫いそのものは太目の糸で大きなピッチで頑丈に縫い上げる一方で、ウェルトは繊細な表情に仕上げると言う、正に一挙両得な芸当が可能になります。出し縫いのステッチ自体が細か過ぎると、ウェルトが「切り取り線」状になり破れるリスクが一気に高まるため、それを防いでいる訳です。 最後に、簡易バージョンをご紹介しましょう。
それがこの写真のもので、ウェルトの中央にグルッとあるのは糸ではなく、一種の切り込み線です。出し縫いの直前の工程に一種のメスのようなものを設置し、それでウェルトの断面を僅かに開削した直後に出し縫いを施すため、糸がその中に隠れて見えなく出来る訳です。
実はこの技法、日本のリーガル、特に高級グレードのものでたまに見ることができます。その製造技術に何らかの特許を持っていた筈です。
ということで、単に全体のスタイルやアウトソールの厚みだけでなく、この「目付け」の違いでも、靴の表情に結構違いが付けられてしまうことに気付いていただけましたら幸いです。
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