マーケティング/マーケティング事例

写真を変えた富士フイルムがエボラ熱を倒す日は来るか(2ページ目)

今、富士フイルムの開発する未承認薬「アビガン錠」が、エボラ出血熱のウィルス増殖を抑える効果があるとして世界から注目されている。もはや富士フイルムは「写ルンです」や「チェキ」の会社ではない。医薬品や化粧品、サプリメントなどのヘルスケア事業でも存在感を示している。同社の事業戦略についてマーケティング視点で解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

富士フイルムは医薬品でもトップになるのか

2008年、富士フイルムは富山化学工業を買収し医薬品分野に本格参入した。現在は医療機器、医薬品、化粧品・サプリメントがヘルスケア事業の3本柱となっている。2014年3月期のヘルスケア事業の売上高は3820億円(前年同期比13%増)、富士フイルム全売上の20%弱を占める。さらに将来的には大きな期待が込められている。ヘルスケア事業の売り上げは2019年3月期で1兆円にする計画だ。1兆円ともなれば、富士フイルムの事業の中でもっとも重要な事業となる。

現在、X線画像診断装置や内視鏡など医療機器がヘルスケア事業の収益源であり、研究開発に先行投資が必要な医薬品分野は赤字が続いている。しかし、その医薬品分野こそ、今最も注目されている分野なのだ。なぜなら子会社である富山化学工業が開発した医薬品「アビガン錠」がエボラ出血熱に効果があるのではないかと国内外から期待されているからだ。

海外では試験が行われ、日本でもエボラ対策専門家会議が始まった。未曾有の危機になるかもしれない事態に備えて、未承認薬であるアビガン錠を容認する方向となっている。世界を救うかもしれない富士フイルムの薬に世界から注目が集まっているのだ。

これだけではない。富士フイルムはカメラメーカーであるにもかかわらず、いつの間にか、医薬品、健康のためのサプリメント、中島みゆきや松田聖子などが広告にも出演した美容化粧品分野に大きく進出している。人々が驚く富士フイルムの事業展開は、富士フイルムにしてみれば当然のことなのだろう。カメラで新しいカテゴリーを作り、新しい客層を獲得してきたのと同じように、医薬品や美容化粧品でも、新たなカテゴリーを作り、新しい客層を獲得しようとしている。これら事業展開に共通するのは、時代の先を見る正しい目と、それに向かって仕事ができる環境の良さだ。


スマホ写真撮影大国「日本」を築いた

現在、スマホで撮影した写真をソーシャルメディアでアップすることが盛んだ。老若男女を問わず、食事、気になった小物、旅行、友達などあらゆるシーンで撮影を楽しみ、ソーシャルメディアに公開している。

日本人がこれだけ写真を撮影するようになったきっかけを作ったのは、富士フイルムと言っても過言ではない。それまで特定の人向けの嗜好品として扱われていたカメラ市場に、「写ルンです」「チェキ」で女性中心の新しい分野を開拓した。その後、デジカメブームが起き、多くの人々がコンパクトデジカメを日常的に持ち、撮影するようになった。その流れが、現在のスマホでの撮影習慣に繋がっているのではないか。言い換えれば、富士フイルムがカメラ市場に新風を送り込まなければ、スマホでの写真撮影文化は今とは違ったものになっていただろう。

既存市場に、新しい客層を呼び込み、新しい市場を作る。これは簡単なことではない。しかし、富士フイルムはカメラに限らず、さまざまな分野で、開拓を行って来た。既存の考え方に縛られず、ユーザーのニーズを感じ、時代の先を読み、挑戦し続ける社風こそ、富士フイルムの最大の強みなのだろう。
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