マーケティング/マーケティング事例

写真を変えた富士フイルムがエボラ熱を倒す日は来るか

今、富士フイルムの開発する未承認薬「アビガン錠」が、エボラ出血熱のウィルス増殖を抑える効果があるとして世界から注目されている。もはや富士フイルムは「写ルンです」や「チェキ」の会社ではない。医薬品や化粧品、サプリメントなどのヘルスケア事業でも存在感を示している。同社の事業戦略についてマーケティング視点で解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

注目を集める富士フイルムの「アビガン錠」

ヘルスケア事業でも存在感を示す富士フイルム

ヘルスケア事業でも存在感を示す富士フイルム

今、富士フイルムが話題となっている。エボラ出血熱のウィルス増殖を抑える効果があるとして、同社の未承認薬「アビガン錠」が世界から大注目されているのだ。

私は日本を代表するカメラメーカーの広報宣伝を統轄していたこともあり、富士フイルムをライバルとして見ていたことがある。また別の会社に在籍した際には、富士フイルムの本社を訪れたり、足利工場を訪れたりしたこともある。現在も、富士フイルムは私の中で意識している存在だ。やはり、マーケティングや経営でも長けている。写真の世界を変え、エボラ熱から救うかもしれない富士フイルムの力とはいったい何なのだろうか。その秘訣について、同社の写真事業の変遷から説明を始めたい。


「写ルンです」の衝撃

カメラメーカーの2強と言えば、ニコンとキヤノン。オリンピックでも、ワールドカップでも、多くのプロカメラマンがこの2つのメーカーを愛用している。しかし、富士フイルムの立ち位置はそことは少し違う。彼らの基本的なコンセプトは、カメラあるいは写真を、消費者にとってより身近なものにして楽しんでもらおうというものだ。

そのコンセプトを象徴する製品が1986年に発売されたインスタントカメラ「写ルンです」だろう。同社は、これによりレンズ付インスタントカメラという新しいカテゴリーを切り拓いた。現在のようなデジタルカメラが登場するのはまだずっと先の話で、当時はカメラにフィルムを入れ替える必要があった。写真を撮るということは、今よりも敷居が高かったのだ。それが「写ルンです」の登場によって、今までカメラに馴染みのなかった層が手軽に写真を撮るようになった。「カメラ=高級品、嗜好品」という構図を崩し、老若男女を問わずだれでも使える気軽な道具に変えたのだ。


「チェキ」で見せた開発の先見性

富士フイルムが世の中に与えた衝撃は「写ルンです」に終わらない。1998年に発売されたインスタントカメラ「チェキ」。撮影したらすぐにプリントできるというものだ。プリントした画像にみんなで寄せ書きをする姿がいたるところで見られた。発売以降、大ヒットを記録し、店頭での品薄状態も続いた。

中心ユーザーは女子中高生から20代女性といった女性層だ。その後、コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)全盛期が到来し、チェキ人気は一段落する。しかしポラロイドなど競合の生産終了などもあり、近年また人気が高まっている。2014年11月21日にも新製品4機種を発売する予定であり、2014年度は過去最高の売上げを記録することがほぼ確実視されている。


デジカメにも富士フイルムの成功の理由が

先に述べたように、カメラ2強はニコンとキヤノン。ただこの2強がコンパクトデジカメ市場でも強いかというとそうとは限らない。時代の移り変わりによって、ソニー、パナソニック、リコーなど数々の競合が現れる。そうしたなか富士フイルムは……。最高の写真を撮るためには、コストも、手間も、時間も惜しまないというユーザーを取り込む2強に対して、富士フイルムが取った作戦はいたってシンプルだ。それは「画質の明るさ」だった。

ニコンやキヤノンのカメラは、仕上がりの写真ができるかぎり実際の世界に近い姿に見えるよう開発されている向きがある。一方で、富士フイルム製品では、撮影した写真やプリントした写真が他社より明るい傾向。その理由は、明解だ。コンデジユーザーが求めているものは、プロのような忠実な写真撮影ではなく、多少忠実とは言えなくても明るく見栄えのする写真を撮影したいということを調査から分析していたといえる。この発想は一見して邪道なのかもしれないが、写ルンですやチェキを開発し、ユーザーニーズの重要性に気づいている富士フイルムとすれば当たり前のことだったのだ。
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