マーケティング/マーケティング事例

放送業界が変わる!録画再生率導入とテレビ広告の今後(2ページ目)

視聴率を調査しているビデオ・リサーチ社は、2015年より従来の視聴率に加え、録画された番組を視聴したものをはかる録画再生率調査のサービスを開始すると発表しました。視聴率という言葉は視聴者の私たちにとっても聞き慣れた言葉ですが、そこに録画視聴が加わって何が変わるのか、解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド


録画再生率発表は、テレビ局、広告会社にはプラスとなる理由

録画再生率サービス導入はテレビ局にとってはプラスだ。視聴者のテレビ離れが叫ばれる中で、実際には従来の視聴率以上にテレビ番組が見られていることが証明できるからだ。また、テレビCM枠の代理店である広告会社にとっても同様の理由でプラスだ。

現在の視聴率を年代別で見てみると、高齢者の視聴率は大きく下がっていない。下がっているのは若者の視聴率だ。HDDやDVD/BDなど録画機器の進化で影響を受けたのは学生やサラリーマン世代の視聴。公私ともどもやることが増えている彼らにとってリアルタイムに番組を視聴することは難しい時代だ。現在の視聴率を見て、若者のテレビ離れと直接リンクさせるのはやや拙速だ。今回の録画再生率導入によって、現在よりははるかに正確な視聴率データが取れるのは確実である。その結果、世間で叫ばれている”若者のテレビ離れ”がどの程度のものなのかを確認することが出来るようになるだろう。

録画再生率のメリットを受けにくい広告主

しかし残念ながら、広告主にとっては必ずしもプラスとは言えない。録画再生率が計測できるようになることとCM効果が上がることはイコールではない。現在のようにリアルタイム視聴でさえCMが見られていない状況の中、録画視聴になった時には、CMが早送りされたりCMスキップの機能を使って録画されている、と考える方が普通だろう。つまり、録画再生率の計測によって、番組視聴率は現在よりも高くなるのだろうが、広告効果はあまり変わらない。つまりテレビ局や広告会社にとってプラスになる録画再生率は、広告主にとってはあまりプラスにはならないのだ。

結局、テレビを見る人はCMをスキップしたいのだから、そもそもCMのあり方自体を変化させるべき時期に来たのだ。そもそもテレビCMとは基本15秒か30秒でオンエアする。15秒や30秒で製品やサービスの詳細説明は無理な話だ。CMで言えることは、商品名やブランド名程度である。テレビ離れが進んでいると言われるが、これだけ効率よく情報を届けられるメディアという意味で、テレビは最高のメディアだ。ざっくり言えば、視聴率10%=1000万人へ情報が届いた計算になる。しかしCMがトイレタイムになったり、録画視聴時においてスキップされては、その意味も全くない。したがって、数年後にはテレビ広告のあり方自体が見直されるかもしれない。

新しい広告手法としては、番組の合間にCMを入れるのではなく、番組中に時計表示のように製品名や企業ロゴを長時間表示しておく方法がある。またデータ連動コンテンツとして企業からのクイズ等で、視聴者に能動的に情報へのアクセスを促す方法もある。録画再生率の聴取開始は、テレビ局と広告会社による広告主へのCM枠販売方法に変化をもたらすものだ。

テレビ番組制作にもたらす影響

最後に、テレビ局の番組制作に及ぼす影響についてお伝えしたい。冒頭のデータを考えれば、録画再生率が明らかになることで、テレビ局としてはドラマやアニメの制作本数を増やし、バラエティ番組を減らすことが予想されるだろう。この流れを証明するかのように、タモリの「笑っていいとも!」だけでなく、ダウンタウンの番組が終了した。そして明石家さんまの「からくりTV」も終了する。また、クイズやお笑い番組は、いつどれを見ても同じような番組ばかりが放映されて完全にマンネリ化している。番組の中で楽しそうにしているのは出演者ばかりで、視聴者からすればつまらない番組が増えている。

大物タレントのバラエティが終わり、同じような出演者の集まりばかりが増えるのは、製作費の問題も絡んでいる。コストが高い大物を避けて、タダ同然の若手や一発屋などの雛壇芸人をたくさん出演させる傾向が進んでいる。人生に笑いは必要な要素だとはいえ、今のようなバラエティはどんどん淘汰されていくことだろう。録画視聴の流れが進むことで、その傾向はますます顕著になる。

録画再生率が明らかになることで、より視聴者が望む番組が増えることは間違いない。ただし、現状ではサンプル数が1都6県300世帯(約800人程度)と日本全国約5000万世帯のうち、ほんのわずかな意見に限られている。視聴者の意見を本気で集めたいのであれば、テレビのデータ連動システムを利用するなど、もっと方法はあるはずだ。一歩一歩、テレビ局が視聴者が見たくなるような番組作りを進めることに期待したい。また、それとともにテレビ局を支えるCM販売システムも広告主のためになるようなものになることに期待したい。
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