マンション購入術/マンション購入関連情報

億ションの施工ミスから考えるマンション購入の成功術(2ページ目)

景気は緩やかな回復を続け、大手不動産業者の決算がいずれも営業増益となるなか、販売を途中で中止し、契約者には売り主側から契約解除を申し出るという分譲マンションが発覚しました。初歩的な施工ミスにより、マンションの安全神話が揺らぎ始めています。マンション検討者には、知名度やブランド力に振り回されない「選択眼」を養う努力が求められます。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド


手付金を倍返しし、売り主側から既契約者に解除要請するのは極めて珍しい 

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売り主側から契約解除を要請する場合には、買い主側に対して手付金を「倍返し」しなければならない。

2007年11月、千葉県市川市の45階建て高層マンション「ザ・タワーズ・ウエスト・プレミアレジデンス」(総戸数573戸)で、工事中に128本の鉄筋不足が判明するというトラブルがありました。ゼネコン最大手の「清水建設」を中心としたJV(企業共同体)が施工受注、「三井不動産レジデンシャル」と「野村不動産」が事業主および販売を担当していました。

住宅性能評価機関「日本建築センター」が、住宅性能表示制度にもとづく現場検査により鉄筋の本数不足を発見。故意や過失といった恣意(しい)的な悪意性はなかったにしろ、チェック体制が十分に機能しなかったことによる人為的ミスが原因となりました。この不祥事の発覚により、解約希望者が出たと聞いていますが、その後、不具合箇所は手直しをして、マンション自体は予定通り2009年1月に完成しています。建物を完成させて引き渡しをしなければ、売り主は売上を計上できないからです。

にもかかわらず、途中で販売を中止し、既契約者には売り主側から契約解除を申し出るという分譲マンションが発覚しました。三菱地所レジデンスが販売、鹿島が施工する「ザ・パークハウス グラン南青山高樹町」(総戸数86戸)がそうです。

私ガイドは、かつてマンション販売の営業マンをしておりましたが、売り主側から契約解除を要請した新築分譲マンションの実例は1棟しか知りません。当該マンションは設計・施工面での問題ではなく、価格設定(値付け)に失敗して全然売れませんでした。そこで、手付金を倍返しして全契約者と契約解除したのち、価格改定して再び売り出しました。いずれにせよ、新築の分譲マンションで既契約者全員を対象に売り主側から解除要請するのは極めて珍しいことです。

建設業界の悪しき慣習 下請け業者への丸投げが施工ミスの温床か

グラン南青山高樹町の施工ミスは、ネット掲示板に不具合に関する書き込みがあったのが発覚のきっかけと報じられていますが、「実は昨年末に友人の建築関係者から、この工事ミスの情報は得ていました」というのが、建築家として30年弱かなりの数のマンションの設計・工事監理をしてきた一級建築士の碓井民朗氏です。

同氏に今回の原因をうかがうと、「総工事費はわずか25億~30億円程度(推測)ですので、根本の原因は鹿島も設備工事会社の関電工も、ほとんど下請け業者に丸投げ状態だったのではないか」と分析しています。「昨年8月に設備工事者より鹿島に工事ミスを伝えたそうですが、その時点で鹿島は重大視せず、何の対策も取らずに工事を進めてしまったことが、事態を悪化させました」(同氏)。

さらに、碓井氏は「三菱地所設計の工事監理もズサンだった」可能性を指摘します。「あくまで推察ですが、三菱地所設計に支払われる工事監理費が安かったため、準社員か派遣社員、あるいは下請けの設計事務所に監理を丸投げしていたことも考えられます」。

この点に関しては、マンション管理のコンサルティングを長年手がける(株)シーアイピーの須藤桂一社長(一級建築士)も同様の意見を述べており、「コストダウンを理由とするアウトソーシングが一因」と分析しています。「設計業界では、三菱地所設計の設計・工事監理料は高いので有名」(碓井氏)なのだそうです。

「三菱」に「鹿島」―― 大手という優位的地位を武器に、下請け・孫請け業者に無理を押し付けている可能性が両者の推察から垣間見られます。

会社の知名度やブランド力に振り回されない「選択眼」を養う努力が不可欠 

では、なぜグラン南青山高樹町は販売中止を余儀なくされたのでしょうか?――

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大手優位による下請け業者への威圧的な上下関係が施工ミス誘発の一因といえる(イメージ写真)

当該マンションでは配管やダクトを配置するため、コンクリート壁や梁を貫通させて通す穴(スリーブ)の数が大幅に不足していたり、位置が間違っていました。「唖然とするほど、あまりにも初歩的なミス」(碓井氏)にもかかわらず、是正工事には少なくとも1年はかかるようで、先行きが見通せないことが解除要請の主因と考えられます。

最多価格帯は1億4000万円台、平均100平方メートル超のゆとりある間取りにするなど、「ザ・パークハウス」の最高水準・最高品質のマンションであるはずが、初歩的な工事ミスにより「ブランドを失墜させた」(須藤氏)ことになります。三菱地所レジデンスが都心のフラッグシップマンションと位置付ける「ザ・パークハウス グラン」シリーズの名を自ら汚(けが)してしまいました。

再発防止策として、碓井氏は「マンション工事が始まったら直ぐに全ての住戸タイプの住戸平面詳細図の施工図を1/20位のスケールで作り、その図の中に大梁・小梁やダクト、給排水管などを同じ1/20の縮尺で書き込んで『各住戸タイプ総合図』にし、まずは納まりの検討をすべき」と説明。そして、「この施工図が承認された後に建物の躯体施工図にスリーブの位置を書き入れ、鉄筋の補強筋なども記入した躯体施工図が承認されてから型枠を立てて配筋し、その後、コンクリートを打設すれば工事ミスは防げます」と提言します。

三菱地所レジデンスでは、基本性能のしっかりした設計と施工上の厳しい品質管理を徹底すべく、「チェックアイズ」という独自の品質管理・性能表示システムを採用しています。しかし、グラン南青山高樹町に関しては十分な役割を果たせませんでした。「さらなるチェック体制の充実が求められ、また、消費者サイドの視点に立てば、ブランドを過信しないことも必要」と須藤氏はアドバイスします。
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いくら景気が回復しても、大手と下請け業者の良好な関係が構築されないかぎり、施工ミスはなくなりそうにありません。建設現場では職人不足が深刻化し、賃金の高騰は避けられない状況です。

姉歯事件を思い出し、「性悪説」に立った目線でマンションを選ぶことも時として必要でしょう。会社の知名度やブランド力に振り回されない独自の選択基準を持つことが、今後、マンション検討者には求められます。
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