やらないことを決める
行動を起こすとき、人は「やること」に目を向けがちです。しかし、どんなにやりたいことでも、また素晴らしい計画を立ててもできないとき、そこにはエネルギー不足、余裕不足が考えられます。そんなときには、逆に「やらないこと」に目を向けることで行動が起こることが少なくありません。
あれもこれもと抱え込んでいるのは、ハードディスクに不要なファイルがあるせいで動きが遅いパソコンのようなものです。不要なファイルを整理し、空き容量を増やすことで快適な動作環境を手に入れる、その取り組みが人にも必要です。
このアプローチは、物事を抱え込んで動けない相手を軽やかにさせるだけでなく、
- 新しい仕事を任せるとき
- 昇格など責任範囲が広がるタイミング
具体的には、たとえば、「たくさん仕事を抱え、余裕がないように見えます」というように、まず相手の状態がどう見えるかフィードバックします。
その上で、「棚卸しをして、やること、やらないことをはっきりさせるのはどうでしょう?」と提案します。
相手がそれに同意したら、抱えている仕事をリストアップします。そして、改めて「やること」「やらないこと」を選びます。このとき、次のような質問が助けになるでしょう。
「仮に半分捨てるとしたら、どれを捨て、どれを残しますか?」
「どのような基準で、やる、やらないを選びましたか?」
「改めてリストをみて、やること、やらないことを決めるとしたら?」
責任を引き寄せる
たとえば、- うまくいかない理由を環境や他者のせいにしているとき
- 「~たら」「~れば」という仮定の表現を頻繁に使っているとき
- 自分を正当化しようとしているとき
このようなときは、まず今起こっていることをどのように捉えているか相手に聞く機会を設けましょう。他責な相手に叱咤激励したり、そのことを反省させたりしたくなる気持ちが出てくるかもしれませんが、そこはぐっと抑えましょう。
そしてまずはうまくいっていないことに対しては共感し、そのことを伝えます。特に相手が共感を求めているときにはまずは十分に共感をしましょう。責任を引き寄せるのはそれからでも遅くありません。
その上で、相手が現状をどのように捉えているように見えるかを伝えます。このプロセスで相手が自分の責任に気づいたら、これから何をするかについて話し合います。
気楽にさせる
大きな仕事や挑戦を前にすると、人は深刻に捉えすぎたり、気持ちや行動が重くなったりします。そんなときの「がんばれ!」の励ましは却ってプレッシャーの上乗せになってしまう可能性があります。- 初めての案件や大きな商談を控えているとき
- ものごとを大げさに捉えすぎているとき
相手が心配やプレッシャー、重責などによって「重く」なっていると感じたらまずそのことを率直に相手に伝えましょう。
そして、何がそうさせているかを聞き、そのことと少し距離を持てるようにサポートします。具体的には次のような質問が有効です。
「何があなたの気持ちや行動を重くさせているのでしょう?」
「遠くから今の自分を眺めたら、どんな風に見えますか?」
しかし、「気楽させる」とは、相手の状況を軽く見るということではありません。ここでもやはり尊敬と共感を持って行なう必要があることを意識してください。
関心を持つことが最大の支援
さて、今回はここまでですが、大切なポイントは「的(動けない理由)」を特定し、その的を狙ったアプローチをすることです。的を特定するためには、相手をよく観察すること、つまり相手への関心が必要です。このプロセスは、「自分を気にかけてくれている」、「十把一絡げなく自分の物語に目を向けてくれている」と相手が感じることにもつながり、結果としてこのこと自体も行動への大きな支援になります。
動けない部下に気づいたら、「どうしたら動かせるか」を考える前に、まず、「目の前のこの人は今どんな状況にあり、何が動けない理由になっているんだろう」と想像を巡らせることからぜひ始めてみてください。
次回も引き続き、動けない理由別に相手の行動を促すアプローチを検討してみます。