フォロワーシップとは「部下が発揮する力」ではない
フォロワーシップとは?
皆さんは「フォロワーシップ」という言葉を知っていますか? あらためて、フォロワーシップとは何でしょうか? その答えに近づくために、まずは下の質問に答えてみてください。
Q1:あなたが組織やチームのリーダー(課長、チームリーダー、キャプテンなど)だとします。さて、あなたに必要なのはリーダーシップでしょうか? フォロワーシップでしょうか?
Q2:あなたは組織やチームのなかのフォロワー(部下、一メンバーなど)だとします。さて、あなたに必要なのはリーダーシップでしょうか? フォロワーシップでしょうか?
もちろん、フォロワーシップという言葉を知らなければ答えようもないのですが、多くの人は、Q1にはリーダーシップ、Q2にはフォロワーシップと答えるのではないでしょうか。「リーダーが発揮すべきは部下に対するリーダーシップ」「フォロワーが発揮すべきはリーダーに対するフォロワーシップ」と、一般的にも整理されています。
私が2009年に『リーダーシップからフォロワーシップへ』(阪急コミュニケーションズ)という本を著したとき、まだ、日本でフォロワーシップという言葉はほとんど浸透していませんでした。その後、ずいぶん浸透しましたが、「フォロワーシップ」の概念はリーダーシップと対比され、このように言及されることが多いようです。
しかし、このとらえ方は、フォロワーシップの本質を見誤る原因になると私は考えています。これだと、リーダーが行ったことはすべてリーダーシップであり、フォロワーの行動はすべてフォロワーシップということになってしまうからです。つまり、その本来の意味がきちんと整理されているとは思えないのです。
現場が強い組織は、フォロワーシップが強い組織とは言い切れない
そもそもリーダーは「リード(Lead)する」という動詞から来ているのですから、組織をリードする、つまり便宜上は「上に立つ人」であり、フォロワーは「フォロー(Follow)する」という言葉に由来する「追随する人」、組織上はリーダーの下に位置する人です。上に立つリーダーが強く指示を出したとき、それはリーダーシップの発揮に違いありませんが、フォロワーが強くチームを引っ張るような発言をしたら、それはフォロワーシップを発揮したことになるのでしょうか?この誤解は、「日本企業の強さの源泉は、フォロワーシップ」という企業の方々からよく聞く言葉に潜む誤解にもつながっていきます。そういう人の話をよくよく聞いてみると、カリスマリーダーがマネージするトップダウン型の欧米企業とは異なり、現場のフォロワーの力が日本企業は強いから、という意味のようです。あるいは、現場が強い組織のことを、「フォロワーシップの強い組織」と表現する人もいます。
すると、日本企業にはリーダーシップは存在しなかったのか、そこにはリーダーは必要なかったのか、という話になってしまいます。現場が自律的に動く組織を束ねるリーダーシップを「サーバント型(従者型)リーダーシップ」という言葉まで登場して説明しようとしますが、これは明らかに矛盾がありますよね。では、どうとらえるべきでしょうか?
リーダーシップは「引っ張る」、フォロワーシップは「支える」
リーダーシップを「リーダーが頑張ること」、フォロワーシップを「現場にいるフォロワーが頑張ること」と、立場と結びつけた現象でとらえると、このように混乱を招きます。ではどうとらえるか。私は、リーダーシップとは「引っ張ること」、フォロワーシップとは「支えること」と、「アクション」として説明することにしています(下図参照)。こう考えると、組織にはリーダーが発揮するリーダーシップ(リーダーの「引っ張る」)とフォロワーシップ(リーダーの「支える」)、フォロワーが発揮するリーダーシップ(フォロワーの「引っ張る」)とフォロワーシップ(フォロワーの「支える」)という4種類のアクションが存在することになります(下図参照)。
したがって、リーダーはビジョンを持って引っ張る、フォロワーはその方針に従って支えるというのが一般的な組織のイメージではありますが、同時に、フォロワーが組織を引っ張る、リーダーがそのフォロワーを支えるという組織も、その混在型組織も十分にあり得ます。先に出てきた「強く指示を出す」というアクションは、リーダーがやっても、フォロワーがやってもリーダーシップに違いありませんし、「現場が強い組織」とは、フォロワーがフォロワーシップと同時にリーダーシップも発揮して、自らやメンバーを引っ張る組織というとらえ方のほうが自然ではないでしょうか。
リーダーは、24時間、引っ張るべきではない
ご自身の毎日を思い浮かべてみてください。あなたがリーダーだとしましょう。仕事の時間の100%すべてが「引っ張る」行為でしょうか? もちろん、戦略を決めたり、それを現場に落とし込むために指示を出したり、フォロワーの行為に対して修正を求めたりする「引っ張る」瞬間は多いと思います。一方で、円滑なコミュニケーションのための場づくりや、部下の学びを促すための対話にも時間を割いているのではないでしょうか。また、部下のプロジェクトをじっと見守り、困ったときに手を差し伸べることもあるでしょう。これらは、明らかに「支える」フォロワーシップです。フォロワーの場合はどうでしょうか。フォロワーも、上司の指示通りに動いたり、自分の与えられた役割を完遂したり、上司や先輩のサポートをしたりするは、確かに「支える」行為に違いありません。そんなフォロワーでも、ミーティングをリードしたり、他のメンバーとともに上司に意見をしたり、気落ちした部署のムードを変えるために皆を鼓舞したりと、「引っ張る」側に回ることもあるはずです。
ですから、あなたがリーダーであっても、フォロワーであっても、誰にでもフォロワーシップは大切なものなのです。そして、もっと言えば、「リーダーが育たない」と言われる日本の社会において、私は「フォロワーシップがきちんと機能していないからではないか」と思うことすらあります。リーダーシップとフォロワーシップは、実は不可分の存在なのです。
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