フィンランド/ヘルシンキの観光・お土産

ヘルシンキの記念碑・彫刻アート探訪〈シンボル編〉(3ページ目)

ヘルシンキ市街を歩いていると、至るところで気になる彫刻作品やモニュメントが設置されているのに目がいくのではと思います。屋外作品が進んで作られるようになったのは1800年代後半からで、現在では市立美術館が把握するだけでも400作品を超えているといいます。前回の〈偉人編〉に続き今回は、待ち合わせ場所としてもよく使われる〈シンボル編〉。街のランドマーク的存在のアート作品を一挙紹介します!

こばやし あやな

執筆者:こばやし あやな

フィンランドガイド


大学学生会館の入口で出会える、躍動感あふれる『カレヴァラ』の英雄

学生会館

ヘルシンキ大学の学生会館は、1800年代後半に建てられた帝政様式の由緒ある建物

ストックマン百貨店北側の、マンネルヘイム通りに面したヘルシンキ大学学生会館の入口の両隣には、2人のリアルな人物像が、まるで壁から飛び出すだまし絵のごとく埋め込まれています。

ヴァイナモョイネン

『カレヴァラ』の主人公の1人であるヴァイナモョイネンは、生まれた時から老人の姿をしている

この2人はいずれもフィンランドの民族叙事詩『カレヴァラ』のなかに登場する英雄で、向かって右側の民族楽器カンテレを手にした老人が不滅の賢者と謳われるヴァイナモョイネン、左側の斧を振りあげる青年が幸福をもたらすサンポを鋳造した鍛冶屋のイルマリネン。

1880年代に、これらの叙事詩での両者の特徴や役割をよく捉えた写実的な像を制作したのは、ロベルト・スティゲル(Robert Stigell/1852-1907)という彫刻家でした。人物をモチーフにしたスティゲルの彫刻作品は他にも、ヘルシンキの街に残る古い建物の柱や装飾部分でたくさんお目にかかれます。

またこの学生会館自体が、1800年代の由緒ある帝政様式の名建築として知られており、たとえば天井下の繊細なフリーズ装飾は、国歌の作詞者J.L.ルーネベリの息子であるワルター・ルーネベリによって施されました。

■設置場所:ストックマン百貨店(Stockmann)北側
■アクセス:ヘルシンキ中央駅から南方向へ徒歩約5分


建物の壁に棲みついた、『カレヴァラ』世界へと誘う摩訶不思議な子鬼たち

ポホヨラ

ポホヨラ・オフィスビルには、不気味だけれど憎めない、不思議な表情や姿をした精霊や子鬼たちがたくさん埋め込まれている

ヘルシンキ大聖堂前からストックマン百貨店へと東西に伸びる買い物通りのアレクサンドル通り(Alekusanterinkatu)沿いには、いかにもヨーロッパを思わせる重厚な歴史的建築がいくつも現存しています。そのうちのひとつに「ポホヨラ・オフィスビル(Pohjolan toimitalo)」と名のついた、ユニーク石造りの建物があるのでぜひ注目してみてください。

ポホヨラ2

アレクサンドル通りに面した正面口の周りは、いろんなキャラクターがいてとりわけ賑やか

ポホヨラとは、かつてここをオフィスとしていた保険会社の名前なのですが、その言葉自体は民族叙事詩『カレヴァラ』に出てくる恐ろしい魔女が住む北の果ての地をさします。その語源にあやかってか、この建物の外壁には奇妙な精霊や悪魔、動物たちをモチーフにした装飾が至るところに施されているのです。

特に目を引くのが、アレクサンドル通りに面したメインエントランスの両脇に待ち受ける、不気味だけどどこか愛嬌のある子鬼たち。話の中の具体的なキャラクターとは特定しにくいのですが、しばり目線を合わせていると、多くの謎や不条理に満ちたカレヴァラ・ワールドへと誘われる気がしてきます。

建物自体は、エリエル・サーリネンらが立ち上げた建築事務所によって1901年に完成されましたが、とりわけこの奇妙な装飾作品の数々は、ヒルダ・フロディン(Hilda Flodin/1877-1958)という彫刻家が制作を手がけました。同じくメインエントランスの上部には、『カレヴァラ』に出てくるわけではないものの、国の象徴動物として昔から崇められている熊のモチーフも見受けられます。

■設置場所:Aleksanterinkatu 44
■アクセス:ヘルシンキ中央駅から南東方向に徒歩約5分


天地創造の瞬間を表した、大気の乙女とカモの像

イルマタル

カモが温めていた卵が割れて、その破片が陸や天体となった……という特異な天地創造物語から『カレヴァラ』は始まる

シベリウス公園のモニュメントの裏手側の小高い丘に、もうひとつ別の記念碑がひっそりと佇んでいます。これは、『カレヴァラ』において、ヴァイナモョイネンの母でもある「大気の乙女」と呼ばれたイルマタル(Ilmatar)が、まさに天地を創造する瞬間のエピソードを表現した作品なのです。

そもそも原始のカレヴァラ世界には陸地も動植物もなく、水と空気だけしか存在しませんでした。この孤独な世界で暮らす大気の乙女イマルタルが、海の波に揺られて漂っているうちに、海風とのあいだの子(のちのヴァイナモョイネン)を身ごもります。やがてどこからか巣を作る場所を探しているカモが現れ、イルマタルの膝の上で巣をかけて卵を生み、それらを温め始めました。ところが、ひざの皮膚がこげているかのような痛みを感じて、イルマタルが思わず膝を動かしまったために卵は海にころげ落ちて砕け散り、このかけらからできたのが陸や空、太陽、月、星、雲など天地のすべてであった…というのがカレヴァラ世界での創世の瞬間なのです。

この銅像の作者は、アレクシス・キヴィ像などを手がけたヴァイノ・アールトネンのいとこにあたるアーッレ・アールトネン(Aarre Aaltonen/1889-1980)という彫刻家。彼は、第二次世界大戦開戦前に開かれたカレヴァラをモチーフにした作品の設計競技で選ばれ、戦後1946年に完成作品を公開しました。花崗岩の土台には、叙事詩の最初に出てくる「Tuuli neittä tuuitteli」という1節が刻まれています。

■設置場所:シベリウス公園(Sibeliuksen puisto)内、シベリウス像の背後方向へ徒歩約3分
■アクセス:ヘルシンキ中央駅から北西方向に徒歩約25分、トラム3T,4,7,10「Töölön halli」下車徒歩10分


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