靴擦れの原因とは?
一度起こるとその日は気分が憂鬱にならざるを得ない「靴ずれ」。以前の記事で申し上げた通り、その原因は
1. 足の形状や状態そのものに、何らかの問題がある時
2. 足と靴との「相性」に、何らかの問題がある時
に大別されます。今回は、2.の足と靴との相性で起きてしまうケースをより具体的に見てまいります。
<目次>
靴擦れの原因1. かかとの形状が足に合っていない・馴染んでいない
以前考察した「足のサイズの左右差」が殆ど無い方であっても、かかと部に靴ずれを起こしてしまった経験は、多くの方があるのではないでしょうか。自分のかかとには不自然な突起もないし、靴のサイズも間違っていない筈なのに、どうして? このような場合に原因として考えられるのが、靴と足との「かかと部のかたち」の違いです。
履き心地のみならず靴の耐久性を大きく左右する場所であるが故、かかと部の成形に関しては、それ自体の形状や大きさだけでなく、中に入れる芯材(これを「月型芯」と言います)の材質・硬さ・形それに位置取りも含め、国の内外を問わず各靴メーカーが様々な工夫を凝らしています。足のかかと部への「喰い付き」を向上させるには、一般的には靴のこの部分をそれに近い形状で小さ目にかつ立体的に纏め上げるのが理想とされているものの、その分造形が難しくなるし、当然コストもより多く掛かることになり、靴メーカーの実力や設計方針が何気ないながらも如実に出てしまうエリアとも言えます。しかし、どんなに評判の良いブランドやメーカーのものであったとしても、あるいはどんなに高価なものであったとしても、ここの形状が履く人の足と合っていないと、靴ずれはいとも簡単に起きてしまうのです。
ただし、より厳密に観察すると、この場合の靴ずれについては「次に履く時にどうなるか?」には二通りあります。すなわち履きおろしの際にのみ生じそれ以降は二度と起こらないケースと、何度も頻発してしまうケースです。前者は靴ずれを伴いながらも足のかかと部の「クセ」を靴が一気に覚え込んだことを意味し、得てしてかかと部のホールド感に優れているとの評価の高いメーカーの靴に多いようです。対策としては、小生の個人的な経験から申し上げると、ライニングのかかと部周辺に、例えば蝋分の入っていないデリケートクリームやベビーローション等を予め塗り込んでから履きおろしをすると、この種の初期トラブルは大分防げます。同様に固形せっけんやワセリンをそこに事前に刷り込み摩擦係数を下げる民間療法も古くからあって、それはそれで有効だとは思いますが……。
一方後者は、靴のサイズ自体が合っていない場合も含め、足の靴双方のかかと部との形状が明らかに異なる時に起こりがちです。また、靴のその部分の造形が粗雑で大まかだったり、アッパーや月型芯に必要以上に硬過ぎる、あるいは柔らか過ぎる素材が用いられている際にも生じる傾向が高いです。この場合は前述の「事前のお手入れ」では限界もあるので、例えば靴のかかと部のライニングを厚目のもので一枚多く補強する等、リペアショップでの状況に応じた物理的な修正を検討する必要があります。
靴擦れの原因2. 靴のトップラインの形状が足に合っていない
以前にもお話ししましたが、靴を購入する際フィッティングで案外見落とされがちなエリアの典型が、このトップライン=履き口と足のくるぶしとの位置関係です。アッパーの革が硬過ぎてくるぶしに喰い込んでしまうと言った基本的な問題以外には、これに起因する靴ずれのメカニズムとしては主に三通り考えられます。
ひとつ目は、偏平足気味だったり筋肉が付き過ぎていたり等の理由で履く人の土踏まず部が靴メーカーが想定したより低い位置にあるため、靴全体が内くるぶし側に必要以上に歪み、その結果、特に外くるぶし側のトップラインが喰い込んでしまう場合です。「原因2」のみならず「原因1」の要素も多分にあるこれは、フィッティングの微調整が効かないローファー等のスリッポンの靴に多い現象です。
ふたつ目は、靴のかかと部が履く人のそれよりも大き過ぎる結果、トップライン全体も緩慢なものになり、歩行する際、張り出しのあるくるぶし部でのみそれが無闇に干渉してしまう場合です。こちらも紐靴よりはスリッポンの靴で多く起こりがちな靴ずれです。
そして3つ目は、靴メーカーが想定したより履く人のくるぶしの位置が低かった、若しくは前だった場合です。この場合はトップラインが大曲りするような危険信号が事前に出にくいので、ともすると室内を歩き回る等を通じて試着を十分に行った上で購入に至ってもこの種の靴ずれは頻発しがちなのですが、実はこの要因による靴ずれが10年20年前に比べ起こり易くなっているようです。視覚的にロングノーズに見せる効果を狙い、鳩目を通すレースステイを従来に比べ後ろかつ高い位置に設定するのを通じて、トップラインも同様につま先側から見て後方かつ高い位置から始まる靴が、ここ10年でかなりの勢力を占めるようになりました。その結果、このメカニズムが相対的に働きやすい環境になってしまったからです。
対策としては、ひとつ目の場合は、例えば土踏まず部に高さを出す為のパッドを備え付ける等して、靴を必要以上に歪ませない作戦が有効でしょう。ふたつ目の場合は、トップラインと言うよりもかかと部の補正を通じて、靴の後ろ半分の納まり具合を改善する必要があると思います。最後のケースでは、靴の後半分にクッション性の高い中敷きを装着し、足のくるぶしの位置を相対的に高くするのを通じてトップラインとの干渉を防ぐ等が考えられます。ただ、いずれの方法も土踏まずやかかとなど靴の他の部分のフィッティングに影響を与えかねないものですので、素人判断は禁物で専門家に見てもらった上で行うのが得策です。
靴擦れの原因3. 靴の「履きジワ」が足に喰い込む
実はトップライン以上に盲点なのがこの領域での靴ずれで、小生の所にも何度かご相談のお問い合せをいただいたことがございます。起こしてしまうのは足の甲から指の関節の上にかけての、要は歩く際に足が「まねき運動」を行うエリアで、きちんと歩いて試着を行い木型やサイズが間違っていないと確信して靴を購入した場合でも、出る時には出てしまうようです。「擦れる」と言うよりかなりの圧力で足のその部分に「突き刺す」状態になるので、ひょっとすると一番痛い靴ずれがこれかも?
一見、アッパーの素材が硬い場合に最も起こりそうな気もしますが、個人的にはむしろそれ以外の要素で引き起こすケースの方が多い感を持っています。例えばトウキャップとヴァンプ本体との境目にある段差や縫い目のような、言わば靴のデザインパターン上の境界線が、前述した足の「まねく」エリアに重なってしまい、しかもここの上下方向に僅かな余裕があった場合です。このような時は得てして「2枚の革が重なった厚目の履きジワ」が、足のその部分を見事なまでにグサッと直撃します。全く同じ木型でかつ同一サイズの靴を履いていても、プレーントウでは全く支障が無いのにフルブローグでは親指や小指の上部を突き刺されてしまうケースが往々にして存在するのは、殆どの場合これで説明が付くかと思います。
対処としては…… まず履きジワに靴の中と外の双方からデリケートクリームを塗って、革の軟化を通じてそのアタリ具合を少しでも緩和させる、と言うのがとりあえずは適切かと思われます。ただ、状況によっては靴の前半分にのみ中敷きを入れるのを通じて、前述した「上下方向の僅かな余裕」を無くしてしまう作戦が有効になり得るのも事実です。とは言えこの方法は、靴をある程度履き込んでインソールを自分の足形で沈み込ませてからでないと、同様の隙間を再び生んでしまう可能性もあるので、どのタイミングでしかもどの厚みで行うかが肝心になります。
あと、意外なところでは、靴のアッパーではなくソールが硬くて足にまだ慣れ切っておらず、その屈曲性が悪い分アッパーに履きジワが深く入ってしまった場合にも、この種のトラブルは起こり得ます。ダブルソールのような底が厚い靴や、硬めのラバーソールを装着した靴で起こりがちです。この場合は靴のつま先部とかかと部を手で持ってソールを弓状に何度もクネクネ曲げてしまい、それに履きグセを無理矢理作ってしまうのが最も効果的なようです。
絆創膏はもちろん意外なものも効果的
以前の記事でお話しした通り、「靴ずれ」とは足の一部と履いている靴の一部とが不自然な摩擦を継続的に起こした結果、その箇所の足の表皮に発した炎症で、以下のような段階を踏んで進行します。
Stage1:赤く腫れる
Stage2:水ぶくれが生じる
Stage3:水ぶくれが破裂しリンパ液等の体液が出てくる
Stage4:出血する(いきなりここに到達する場合もある)
Stage1の状態ならば患部を冷却すればほぼ収まってしまいますが、Stage2以降になると悪い細菌の繁殖を防ぐために、患部の保護をできる限り早急に行わなくてはいけません。
どの状態でも手っ取り早くかつ効果的なのは、やはり患部に絆創膏をあてることでしょう。最近では靴ずれ、それも起きた直後向けに特化した商品も登場しているので、靴を履き下ろす際に予め用意しておくに越したことはありません。また、この症状に効能を集中したクリーム状の局所麻酔剤も存在し、こちらも携帯に便利な小さなサイズです。どちらも街中のドラッグストアに行けば簡単に入手することが可能ですので、靴ずれが起きそうな時、既に起きてしまった時は我慢せずに購入してしまいましょう。
ただ、薬局が付近に見付からない時はどうしたら? そんな時案外役に立つのがポケットティッシュが入ったビニール袋です。ツルツルのこれを靴ずれが起きている箇所の足と靴の間に適当に折りたたんで挟むことで摩擦が緩和され、現状以上の炎症は大分防げるのです。見た目にはちょっと恥ずかしいのですが、個人的にもこれで何とかその場を乗り切った経験が何度かあります。上述した薬品を持ち合わせていない場合は、とりあえずこの応急処置をした上で薬局を見つけ次第掛け込みましょう。
なお、靴ずれが完全に治るまでは、それを起こした靴はなるべく履かないようにしたり、絆創膏だけでなく靴下で足を保護するのも忘れないで下さいね。
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