マーケティング/マーケティング事例

広大な市場に挑むマクドナルドの戦略は成功するか?(2ページ目)

好調な業績を背景にマクドナルドが次々に新たな戦略を打ち出してきています。果たして真の狙いはどこにあるのか?そして、勝算はあるのか?マクドナルドの戦略を読み解いていきましょう。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

マクドナルドが「3つのプライス・ライン」や「マックカフェ・バイ・バリスタ」で切り崩しを試みる業界とは?
 

マクドナルド

マクドナルドは他業界から顧客を奪う戦略を次々に実行に移している

マクドナルドは5月7日から、3つのプライス・ラインでメニュー展開することを発表しました。

一つは「ハンバーガー」や「ドリンクのSサイズ」、「マックシェイクのSサイズ」などをメインメニューとした“100円マック”。特筆すべきはこの4月から100円マックに、40円値下げされた「プレミアムローストコーヒー」が仲間入りしたことでしょう。

続いて二つ目は「ハンバーガー」もしくは「ホットアップルパイ」、「チキンクリスプ」と「マックフライポテトのSサイズ」がセットになった“250円セット”です。このセットは食べ物だけで飲み物が付いていないことが特徴といえるでしょう。

そして最後の三つ目のプライス・ラインが「ダブルチーズバーガー」もしくは「フィレオフィッシュ」、「てりやきマックバーガー」と「マックフライポテトのMサイズ」、「ドリンクのMサイズ」がセットになった“500円バリューセット”です。5月18日からはここに「ジューシーチキンフィレオ」が加わる予定です。

この3つのプライス・ラインにはどのような戦略が隠されているのでしょうか?

■ “100円マック”でコンビニの顧客を狙う

ハンバーガー業界では、マクドナルドは圧倒的なシェアを誇るリーダーであり、ライバル企業から新規顧客を奪うことは難しいと言わざるを得ないでしょう。ただ、外食産業に目を向ければ現状24兆円近くの市場規模があり、外食全体でみればマクドナルドはまだまだ成長の余地が大きいといえます。

この外食産業においてマクドナルドが注目している市場は、手軽に利用できる食事を提供するIEO(Informal Eating Out)市場であり、その規模は7.7兆円にも達します。このIEO市場では、マクドナルドのシェアは10%にも満たない計算になります。

IEO市場での主要なプレーヤーはコンビニエンスストアであり、実に7.7兆円の3割ものシェアを握っています。この市場で、コンビニエンスストアのマーケットシェアを奪うことができれば、マクドナルドはハンバーガー市場を拡大することができます。

そこで、コンビニの牙城を切り崩すために重要な鍵を握るのが“100円マック”なのです。

最近、コンビニではコーヒーを戦略商品に据え、集客の切り札として活用しています。たとえば、ローソンは店頭で入れ立てのコーヒーを180円から販売する「マチカフェ」を展開。ファミリーマートも同様に店頭で「あじわいFamima Cafe」を展開し、120円からコーヒーの販売を強化しています。

このIEO市場で主要プレーヤーであるコンビニの戦略商品であるコーヒーに対抗するために、それまで140円だったプレミアムローストコーヒーを100円に値下げし、他の100円マックの商品と共にコンビニの顧客を取り込もうという戦略なのです。

■ “250円セット”で牛丼の顧客を狙う

二つ目の“250円セット”は、牛丼業界から顧客を奪う戦略商品といえるでしょう。

牛丼業界では、吉野家に取って代わった新盟主であるすき家を軸にして、激しい価格競争が繰り広げられています。この価格競争がマスメディアで取り上げられると牛丼に対する消費者の注目度が高まり、低価格と相まって牛丼各社は売上を伸ばしてきました。

そこで“250円セット”を投入して牛丼に流れた顧客を取り込もうという戦略なのです。

飲み物を含まずに「ハンバーガー」と「ポテトのSサイズ」をセットにして250円で提供すれば、価格的にもボリューム的にも1杯280円の牛丼と十分に戦えるメニューになるという思惑が背景にあるのではないでしょうか。

■ “500円バリューセット”でファミリーレストランの顧客を狙う

三つ目の“500円バリューセット”は、ファミリーレストランなど比較的単価の高い外食産業から顧客を奪うための戦略商品といえるでしょう。

ワンコインでメインのハンバーガーとポテト、そしてジュースのMサイズがセットになっていて、ランチとしても比較的ボリュームのある組み合わせといえます。

“500円バリューセット”は、ファミリーレストラン大手のガストが提供する日替わりランチの税込価格が523円ということをふまえれば、まさにファミリーレストランのランチ需要を取り込む戦略的な価格設定といえるでしょう。

■ 「マックカフェ・バイ・バリスタ」でカフェ業界を狙う

またマクドナルドは、今夏から専門知識を持つバリスタがコーヒーを提供する「マックカフェ・バイ・バリスタ」をオープンさせます。

今のところ、詳細なメニューは未定ながら、カフェモカやカプチーノなど新たなメニューを投入する予定。コーヒーを注ぐ容器も、紙コップではなく、マグカップやグラスを使用し、バリスタが表面に泡立てたミルクやチョコレートシロップで模様を描くなど細部までこだわりを見せます。

価格はプレミアムローストコーヒーと他のカフェチェーンの中間辺りに設定するという発表から、この「マックカフェ・バイ・バリスタ」では“お得感”を醸し出し、スターバックスやタリーズコーヒーなどカフェ業界からの顧客奪取を目指していこうという意図が読み取れます。

全方位戦略に挑むマクドナルドに勝算はあるのか?

成熟した市場において同業者との競争にこだわる“近視眼的な”ビジネスを展開していれば、売上アップに苦戦することは明白です。視野を広げ、大きな市場でこれまで利用したことのない顧客を取り込むためにはどうすればいいのかを考え、実行に移していく必要があるのです。

その際に戦場ごとに適切な商品を適切な価格で投入することができれば、顧客獲得率はアップすることは間違いないでしょう。そして、続いて新規顧客を飽きさせない仕組みを導入してリテンション・レートや来店頻度を高めていけばいいのです。

たとえば、マクドナルドでいえば、「Big America」キャンペーンで普段と違うメニューを投入したり、「チキンタツタ」などかつての人気メニューを定期的に復刻させたりして顧客が飽きるのを防いできました。

ハンバーガー業界という“小さな井戸”にとどまらず、全方位戦略でIEO市場全体に戦線を拡大していくマクドナルドに果たして勝算はあるのでしょうか?

今後の業績推移に注目していきましょう。


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