世界の美を詰め込んだハドリアヌスの別荘=ヴィッラ・アドリアーナ

カノープスとカリアティード

カノープス。左に並ぶのが女神を象った柱・カリアティード。完成当時は運河の周囲を部屋が取り囲んでおり、カリアティードが屋根を支えていた

古代ローマからルネサンスを経て現在まで、王や貴族たちはローマ郊外の景勝地ティヴォリに別荘を建て、つかの間の休息を楽しんだ。第14代ローマ皇帝ハドリアヌスもそのひとり。旅先で目にした美しい建物を参考に築き上げた別荘ヴィッラ・アドリアーナは時代時代の建築家に影響を与え、各地の庭園のモデルとなった。

今回はハドリアヌスの夢、イタリアの世界遺産「ヴィッラ・アドリアーナ(ティヴォリ)」を紹介する。

ローマ皇帝ハドリアヌスと世界遺産

カノープスとセラピス神殿

120×20mの運河を中心とするカノープスと、運河の対岸に見えるのがセラピス神殿

ローマのパンテオン

ハドリアヌスが再建したローマのパンテオン

1~2世紀にローマ帝国を支配した5人の皇帝を五賢帝という。18世紀、イギリスの歴史学者ギボンはこの時代を「人類がもっとも幸福だった時代」とたたえ、「パックス・ロマーナ(ローマによる平和)」と呼んだ。

五賢帝のひとり、トラヤヌスの時代にローマ帝国の版図は最大となる。イギリスから北アフリカ、ポルトガルやモロッコからペルシア湾やカスピ海に迫る広大な領土を支配した。

 

ヒエラポリスの円形劇場

パムッカレの上にあるヒエラポリスの円形劇場 ©牧哲雄

トラヤヌスの跡を継いだのがハドリアヌスだ。ヨーロッパや中東、北アフリカを旅しているとローマ時代の遺跡をよく見かけるが、「ハドリアヌスの○○」という遺跡をよく目にしたものだ。

ハドリアヌスは旅と芸術を愛した皇帝。しばしばローマを離れ、各地を視察して歩き、詩を作っては建物の設計を行ったという。彼が関係した代表的な世界遺産をざっとあげてもこれだけある。ハドリアヌスの旅人ぶりとローマ帝国の広さがよくわかる。

 

■ローマ帝国の国境線/イギリス、ドイツ
ハドリアヌスの長城

ハドリアヌスの長城

イギリス中部、イングランドとスコットランド国境にある城壁はローマ帝国がケルト人の侵入に対して築いたもの。ハドリアヌスの長城は当時100kmを超えていた。

ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂/イタリア、バチカン市国
ローマ帝国の中枢フォロ・ロマーノにあるウェヌスとローマ神殿はハドリアヌスが建てたギリシア式の神殿。パンテオンはハドリアヌスが再建したもので、彼が自分の霊廟として建てたのがサンタンジェロ城だ。またピンチョの丘に建つオベリスクは恋人アンティノウスに贈ったもの。

アテネのアクロポリス/ギリシア
ハドリアヌスの門

アテネにあるハドリアヌスの門

ハドリアヌスはアテネの隣に新市街ハドリアノポリスを建設し、ハドリアヌスの門を建ててアテネとの境界を示した。ゼウス神殿やハドリアヌス図書館も彼の建築。

ヒエラポリス - パムッカレ/トルコ
パムッカレは石灰棚が美しい天然温泉。ハドリアヌスもここを訪れて、温泉都市ヒエラポリスに円形劇場やアポロ神殿を築いた。

 

パルミラの遺跡/シリア
パルミラのローマ記念門

パルミラのローマ記念門 ©牧哲雄

「バラの街」と呼ばれるオアシス都市パルミラの美しさに感動したハドリアヌスは、パルミラに自治権を与えたという。ローマ記念門は彼の来訪を記念したものともいわれる。

エルサレムの旧市街とその城壁群/ヨルダン申請
ハドリアヌスは第二次ユダヤ戦争を通じてエルサレムを破壊し、ローマ都市として改修した。たとえばエッケ・ホモ・アーチは彼のエルサレム征服を記念した凱旋門だった。

 

ペトラ/ヨルダン
ナバテア王国の都ペトラはトラヤヌス帝の時代にローマ帝国の版図に入る。そしてハドリアヌスの来訪を機にペトラ・ハドリアヌスに名前を変えた。

■レプティス・マグナの古代遺跡/リビア
レプティス・マグナはローマ帝国に支配されるとローマ都市として改築され、ハドリアヌスも温泉施設であるハドリアヌス浴場を建築した。

■カルタゴ遺跡/チュニジア
ローマ帝国は各地に水道橋を造って大都市を築いたが、中でも最長の水道橋といわれるのが全長132kmに及ぶカルタゴのハドリアヌス水道橋だ。

そしてハドリアヌスは世界各地で見た美しい建物のデザインを取り入れ、ティヴォリに広大な別荘を造り上げた。それがアドリアーノ(=ハドリアヌス)のヴィッラ(=別荘)、ヴィッラ・アドリアーナだ。