美しき廃墟ヴィッラ・アドリアーナ

島のヴィッラとテアトロ・マリッティモ

島のヴィッラ。島の中にあるのが直径43mのテアトロ・マリッティモ(海の劇場)で、ハドリアヌスはしばしばここにひとりこもっていたという

養魚場ペシエラ

コリント式の柱が林立する養魚場ペシエラ

ローマ帝国中の美を集めて建築したといわれるヴィッラ・アドリアーナだが、いま訪れても当時の姿はない。2世紀に完成した別荘は3世紀には打ち捨てられ、主だった彫刻や石材が持ち去られてしまったからだ。

現在見られるのは廃墟。壮大な建物も飛び抜けて美しい建築物も残っていないが、その廃墟が美しい。

最大の見所は運河跡カノープスだ。エジプトのふたつの古代都市、アレクサンドリアとカノープスをつないでいた運河をイメージしたもので、運河の周囲にはギリシア神話の神像や女神を象った柱・カリアティードが並べられている。

 

カノープス

フォトジェニックなカノープス

運河というか、ただの池なのにとてつもなく美しく、そしてもの悲しい。屋根を失ったカリアティードが諸行無常を感じさせるからなのか、カノープスがナイル川で水死した最愛の美少年アンティノウスに捧げられたものだからなのか。

そして島のヴィッラ。ストーンヘンジのように柱を円形に並べ、中央に池を造ってその中に島を浮かべた劇場跡だ。島の中にはテアトロ・マリッティモ(海の劇場)があり、ハドリアヌスはしばしばここへ渡り、自分が島に入ると橋を上げさせてひとりになったという。

 

オリーブの木

所々に植えられているオリーブの木

廃墟が悲しみをまとうのは、そこに人間の栄枯盛衰や生老病死が刻み込まれるからだろう。ヴィッラ・アドリアーナに漂う空気には、パックス・ロマーナを支えた偉大な皇帝の姿というよりも、ひとりの人間の小さな思いが閉じ込められているような気がしてならない。

ヴィッラ・アドリアーナはひと目で楽しめるような世界遺産ではない。でも、カノープスとテアトロ・マリッティモは大好きな空間だ。

 

ヴィッラ・アドリアーナの4つの見所

ヴィッラ・アドリアーナの復元模型

ヴィッラ・アドリアーナの復元模型。ローマからルネサンス、そして現在に至るまで、時代時代の建築家たちがここを訪れ、そのデザインを研究した

ヴィッラ・アドリアーナには30強の建物があり、主に4つの地区からなっている。簡単に紹介しよう。

■エントランス周辺
大浴場

大浴場。天井の穴は換気のためのもの

ドーム状の天井が特徴的な大浴場と小浴場、古代エジプトの都市からその名を取った小運河カノープスと、隣接するセラピス神殿、アテネの彩色柱廊(ストア・ポイキレ)を模したポイキレ競技場、兵舎等がある。

■丘陵地帯
ロカブルーナの塔やアカデミー、リリーの池、地下ギャラリー等がある一帯。ロカブルーナの塔からはティヴォリの街はもちろん、ローマまで見渡すことができる。 

■ヴィーナス神殿とギリシア劇場

エントランスからもっとも離れた地区。神殿も劇場も円形だが、ヴィッラ・アドリアーナのあちらこちらに見られる円や半円、楕円を多用したデザインは、ルネサンスやバロック建築に少なからぬ影響を与えたという。ヴィーナス神殿にはドーリス式の柱と破壊されたヴィーナス像が残されている。

 

■王宮周辺

エクセドラのある建物

エクセドラのある建物

ヴィッラ・アドリアーナの中心部分。ドーリス式の柱に囲まれたピアッツァ・ドーロ(黄金広場)やドーリス柱の間、コリント式の柱がある養魚場ペシエラ等は、柱とレンガ造りの遺跡が美しい。他にも島のヴィッラと直径43mの円形劇場テアトロ・マリッティモ、ラテン語図書館、ギリシア語図書館、ホスピタリア(客間)、哲学者の間等がある。