マーケティング/マーケティング事例

ステルスマーケティングは企業のブランドを傷つける!

インターネット時代になって、企業のマーケティングは大きく変化してきました。消費者にパワーがシフトしていく中で、口コミがプロモーションとして重要な鍵を握るようになったのです。この益々重要となる口コミに対して最近では利用もしていないのにいい評価を与えるステルスマーケティングという手法が取られています。果たして顧客を騙してまで売上を上げることが大事なのか?マーケティングの本質に迫ります。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

インターネットの発達で変化したマーケティング
 

ステルスマーケティング

インターネットの発達により消費者の行動にも大きな変化が表れている!

近年のインターネットの発達でマーケティング自体も大きく変化しています。

たとえば、これまでプロモーション戦略はAIDMAで組み立てられてきました。AIDMAとは、顧客の購買に至るまでの心理的な動きを表したものであり、顧客はまず注意(Attention)を引くプロモーションに触れると、興味(Interest)を持ち、さらに詳しい情報を手に入れて、どうしても欲しいという欲求(Desire)まで高まり、記憶(Memory)に留めておいて、最終的に店舗に訪れた際に行動(Action)を起こすという一連の流れです。

もともと、このAIDAMAは1920年代に実務家のローランド・ホール氏によって提唱された理論であり、最近の急激なライフスタイルの変化からプロモーション戦略を組み立てるうえでの効果は低下してきたといっても過言ではないでしょう。

そこで、インターネット時代に即した顧客の心理的プロセスは、AIDAMAをベースにしたAISCASに進化してきました。インターネット時代において顧客は企業のプロモーションに触れると、まずは注意(Attention)を引き、それから興味(Interest)を抱くと、インターネットで関連情報を検索(Search)します。そして、同様の他社製品と比較(Compare)を行って、納得したうえで行動(Action)を起こし、購入後はSNSなどを通じて購買体験を共有(Share)します。これがAISCASの購買プロセスなのです。

ここで重要なのは、AIDMAが一連の流れで終わるのに対して、AISCASは最後のSが他の不特定多数の最初のAにつながり、消費行動が連鎖していくポイントです。もし、いい口コミがSNSなどのインターネットサービスを通じてシェアされれば、爆発的なヒットも夢ではなくなります。そこで、企業は最近インターネット上の口コミに力を注いでいるのです。

益々売上を上げるために重要性が増す口コミ
 

口コミはプロモーション戦略の一つの要素であり、従来から企業によって活用されてきました。ただ、従来の口コミは1対1、もしくは1対少数であり、加えて口コミをコントロールすることも難しいために、なかなか意図的にプロモーション戦略として活用することは費用対効果の面を考えても難しい状況でした。

ところが、最近のインターネットの発達により、国民のほぼ全員がインターネットにアクセスできるような時代になり、1対多数の口コミが瞬時に行える環境が整うと、口コミ重要性が益々増してくることになります。

アンケートを取っても、消費者が何を基準に購買を決定するかに対して、口コミは他のどのメディアよりも影響力が高いという結果が出ていることを踏まえれば、その重要性は明らかでしょう。

実際に自分の消費活動を振り返っても、他人の意見で購入を決定した経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

“やらせの口コミ”=ステルスマーケティングは企業のブランドを傷つける
 

このような益々高まる口コミの重要性を踏まえて、最近では企業が口コミをコントロールしようというマーケティング上の試みがなされています。行き過ぎたところでは、利用したことがないにもかかわらず、架空のいい評価を与える“ステルスマーケティング”なるものまで登場しています。

ただ、このステルスマーケティングに関して、今年の1月に、飲食店の口コミ情報提供サイトである『食べログ』で、業者にお金を支払ってまでいい口コミを増やすという“やらせ”問題が発覚して世間を騒然とさせました。この問題に対して、食べログでは3月1日に、不正な口コミ投稿を防止するため携帯電話を使った認証システムを導入して再発防止に努めていますが、完全に“やらせ”をなくすことは難しいかもしれません。

確かにAISCASに基づけば、インターネット上でいい口コミが広がれば、売上の飛躍的なアップにつながるかもしれません。一方で、顧客の役に立つべく自社製品の改善に力を入れずに、テクニックだけで売上を上げようとすれば、1回は消費者を騙すことはできるかもしれませんが、「いい評判の割には実際は大したことがなかった」と、次は悪い口コミが広がって企業のブランドを損ねることにつながっていきます。

企業の信用は積み上げることは容易ではありませんが、失うのは一瞬です。特にインターネット時代は情報が伝達するスピードが恐ろしいほど早く、一瞬で何もかも失うこともあるのです。

マーケティングの本質を実践すれば“いいね”が必ずもらえる


マーケティングとは、ただ単に売上を上げるテクニックではありません。顧客との信頼関係を築いたうえで、お互いにWin-Winの関係が長く続く付き合いを模索していくプロセスです。いくら、売上が上がるからといって、嘘で塗り固められた始まりでは、良好な関係がそう長く続かないことは誰の目にも明らかでしょう。

いい口コミを偽装するステルスマーケティングを実行しなくても、真摯に顧客に価値を与えようと一生懸命に活動する企業は自然に応援されるものです。

インターネット時代は“偽装”よりも“誠実”な対応が成功を収めるキーワードであり、顧客との良好な関係作りというマーケティングの本質を愚直に実践し続ける企業には必ず“いいね!”の評価が与えられるのではないでしょうか。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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