マーケティング/マーケティング事例

広い海原で宝を探し当てる宝島社流マーケティング

ファッション誌業界で一際輝きを放つ宝島社。わずか200人ほどの出版社がなぜ次々にNo.1誌を生み出せるのか?宝島社流マーケティング戦略の極意に迫ります!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

宝島社

数々のファッション誌でNo.1(※)に輝く宝島社。(※日本ABC協会調べ)

今、出版業界で際立つ存在感を示す企業といえば宝島社だ。同社は“一番誌戦略”を打ち出すや、実際に『sweet(スウィート)』や『InRed(インレッド)』など数々の女性ファッション誌でマーケットシェアトップを現実のものにしてきた。

出版業界では社員わずか200人という宝島社が次々と一番誌を生み出し続ける秘密はどこにあるのだろうか?

今回はマーケティング戦略の観点からその秘密を解き明かしていくことにしよう。


 

より大きなマーケットにフォーカスする 

マーケティングでは、まず「誰に売るのか?」というターゲット顧客を明確化していくプロセスが重要になる。このプロセスにおいて、宝島社のターゲットの設定方法は実にユニークだ。宝島社の場合、「雑誌を読まない層」を対象にマーケティング戦略を組み立てていくのだという。

その理由は明快だ。雑誌を毎月購読する人よりも読まない人の方が圧倒的に多いからだ。今現状雑誌を読んでいるわずかなマーケットを対象に、ライバル企業との激しい競争を戦い抜くよりも、雑誌を読んでいない多くの人々を対象にしてビジネスを展開する方が限りなく大きなチャンスが広がっているのは誰の目にも明らかだろう。

普段雑誌を読まない消費者にいかに購入してもらうかという意味では、宝島社にとって出版業界のライバル企業との競争だけを意識することはない。重要なのはマーケットの中でいかにシェアをアップしていくかということではなく、一人ひとりの消費者の予算の中から、自社出版物の購入に充ててもらうかという“ウォレットシェア”を高めていくことになるのだ。

そのような視点に立てば、出版社が発行する同様のファッション誌だけが競合商品ではなく、カフェでのコーヒーやアクセサリー、コスメティックなど、ターゲット顧客が関心を持つ同価格帯のすべての商品が競合といえる。つまり、自社の商品を購入してもらうためには、一見すると競合商品には見えない他業界の様々な商品をも上回る魅力的な商品を提供し、顧客の関心度や満足度を高めていくという高いハードルを越えていかなければならないのだ。

ここで難しいのは、これまで自社のことを知らなかった人々にどのようにして自社製品を認知させ、他の同価格帯の商品以上に興味を引いて購入してもらうかという仕組みを築くことだ。

もちろん、宝島社が快進撃を続けてきた背景には、これまで雑誌を読んだことのない多くの人々を魅了するマーケティング戦略に成功してきたわけだが、続いてはそれぞれの戦略について見ていくことにしよう。


 

積極的な広告展開

宝島社では、より多くの潜在読者に自社の存在や雑誌を認知してもらおうと積極的なプロモーションを展開している。

たとえば、『sweet』や『InRed』、『GLOW(グロー)』などといったファッション誌のテレビCMを、メインターゲットである女性がよく見る番組以外でも流している。通常、ビジネスマン向けには『ワールド・ビジネス・サテライト(WBS)』 など、ターゲット顧客がよく見ている番組でCMを提供することが、効率的にターゲットにリーチするためのプロモーション戦略の定石といえる。ところが宝島社の場合、ターゲティングの段階で“逆転の発想”でターゲットを定めているために、利用するメディアも意図的に逆転の発想で選択しているのだ。

また、商品のプロモーションとは異なるが、特徴的なのは主要全国紙で展開する企業広告にある。この企業広告で掲載されるメッセージには非常にインパクトがあり、毎年大きな反響を呼んでいる。たとえば、1998年には『おじいちゃんにも、セックスを』というセンセーショナルなメッセージで世間の注目を集め、読売出版広告賞や朝日広告賞、毎日広告デザイン賞などを受賞。その後も数々の広告賞に輝いている。

東日本大震災に見舞われた2011年は、マッカーサー元帥が空港に降り立つ写真を背景に『いい国つくろう、何度でも。』というメッセージが、新聞紙面を大きく飾ったことは記憶に新しい。

1998年からほぼ毎年実施されているこれらの広告は、企業として今伝えたいメッセージを発信していくことが目的であり、商品や企業のプロモーションは意図していない。しかし、このようなメッセージを発信していくことが、結果的に宝島社の企業としての存在を浸透させていくことにつながっているのだ。


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