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輿水精一著『ウイスキーは日本の酒である』

この8月にサントリーの輿水チーフブレンダーの著書『ウイスキーは日本の酒である』が発刊された。チーフらしい謙虚な内容だが、読みながら、どうもいまの日本を見つめてしまう。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

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 特異な時代に遭遇したブレンダー

ウイスキーは日本の酒であるundefined輿水精一氏

 

サントリーのチーフブレンダー輿水精一氏(こしみずせいいち)の著作『ウイスキーは日本の酒である』(新潮新書/¥700)がこの8月に刊行された。帯には“ウイスキーを10倍愉しむ方法”と書いてある。
輿水氏がチーフブレンダーに就任したのは1999年。80年代後半からつづくウイスキー低調期ではあったが、シングルモルトウイスキーが人気を呼びつつあり、また飲み手が長期熟成、つまり熟成年数も気にするようになった、ちょうど転換期といえる頃である。
21世紀に突入し、海外でのジャパニーズウイスキーの認知の高まり、数々の世界的な酒類コンテストでの受賞、販売伸張となる。また国内では2007年頃からじわじわとはじまったハイボール人気により、ウイスキー復調のきざしをみせる。
これらの流れは、90年近い日本のウイスキーの歴史の中で、すべてが初という体験でもある。そういう意味では特別な時代に遭遇したブレンダーといえるだろう。

世の中、やんちゃもいなくちゃ、ねぇ

その輿水氏が、日本のウイスキーの歴史やスコッチとの違い、サントリーのつくりなどについて著したものだ。多少プライベートな部分も明かされ、輿水ファンにとっては嬉しいものだと思う。
ただ、とても謙虚に書かれているので、苦労なり悩みがもうひとつ深く見えてこないのが残念である。輿水チーフらしい、ともいえる。
ブレンダーという仕事を見ていると、ある意味、日々苦行であるとわたしは感じている。先人の遺産(熟成中のモルト原酒)を守り、いまに生かし、より高い頂きを目指して未来図(将来の原酒のあるべき姿)を描く仕事だ。過去、現在、未来を結ぶ仕事であり、いまをしっかりと見つめていなければ、次の世代にうまく繋げられない。
ブレンディング作業も含め、そのあたりの厳しさをもっと知りたいという読者は少なくないはずだ。

おそらく、ハイボールからウイスキーの世界を知り、これから深い世界に入り込もうという飲み手にも読んでもらいたいという気持ちがあるのではなかろうか。そのため総花的な内容になっている。次の著作のための入門篇であろうとわたしは勝手に位置づけている。
ただし、いまのジャパニーズウイスキーを知る上で、この本の価値は高い。

読みすすめながら、「優等生ばかりじゃ…….」という輿水チーフの言葉が浮かんできて、日本のいまに想いがいく。優等生を揃えても、安全神話の中にあぐらをかき、想定外と目をつむりつづけようとする。ウイスキーに限らず、世の中に認められ受け入れられようとするには、あぐらをかいちゃいかんのだ。
政治だって、企業だって、やんちゃもいなくちゃね。

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