おとぎ話のような「おときき山」
さて、同店の焼き菓子のファン待望の新作「おときき山」。おとぎ話にでも出てきそうな愛らしい名前ですが、これは景勝地として知られた「音聞山」(現在の名古屋の東郊八事付近)に因むもの。ひと口大で、小高い山の形を模しています。柔らかな山肌を思わせる肌目の細かい皮。手に取り2つに割ってみると、しっとりとした皮と白餡との一体感があります。同店の和菓子職人歴15年で、現在は広報担当の中嶋さんによれば、ここが一番難しかった点。白餡を中に包んだ焼き菓子を、小豆餡のものと同様に作ろうとすると、皮と餡とに隙間が開いてしまうのだとか。言われてみれば、確かに、白餡を包んだ焼き饅頭の類は、食べるときに餡が皮からポロリと取れてしまった経験がありました。
割った瞬間ふわりと立つのは甘いミルクのような香り。口に含むとコクのある卵生地と滑らかな白餡が溶け合います。風味のある白餡は、もたつかずスッと溶け、洗練された印象です。
前出の3種類の焼き菓子と比べると「おときき山」はモダンな印象。口溶けの良さとミルクの香りがそう感じさせるのでしょうか。他の3種類同様、餡と皮とをじっくり噛み締めて味わおうとしたところ、その間もなく口の中でさらりと溶け、消えていきました。
後に残るのは、ミルキーな香りの余韻。優しく包み込まれるような幸せな気持ちになります。もし、誰からも愛される味、というものがあるとしたら、それはこういう味のことをいうのかもしれません。
老舗のラインアップに新たに加わった「おときき山」は、一見どこにでもありそうな焼き菓子でありながら、実は出会い難い逸品。奇抜さや斬新さに頼らない、職人魂が垣間見えます。
「音聞山」ではかつて、今ではまず聞こえることのない、遠く鳴海潟の波の音が聞こえたといいます。やはりおとぎ話のよう。素敵な菓銘を付けたものです。
◆「両口屋是清」
「おときき山」販売店;直営店および主要百貨店(名古屋・東京・大阪・福岡他)
※一部店舗は取り扱いなし。取り寄せ可能。
お問い合わせ番号;0120-052062(受付時間;8:30~17:00)