マーケティング/マーケティング事例

家電量販店戦争でヤマダ電機が仕掛ける次の一手とは?

家電量販店業界は、業界トップのヤマダ電機が郊外店から都心店への戦略転換を行い、ターミナル駅を中心に激しい争いが展開されています。業界初の3兆円を目標に掲げるヤマダ電機の次の一手は? マーケティング戦略の観点から読み解いていきます。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

競争が激化する家電量販店業界で存在感を増すヤマダ電機

競争が益々加熱する家電量販店業界。

競争が益々加熱する家電量販店業界

家電量販店業界は、2010年4月に業界3位のヨドバシカメラの本拠地である新宿へヤマダ電機が切り込んだことで、競争が益々激しさを増しています。

ヤマダ電機は、2010年3月期決算で業界初の2兆円の売上を達成。2005年に1兆円の大台に乗って、わずか5年足らずで売上を倍にする驚異的なスピードで成長を続けています。

そんなヤマダ電機が次に狙うのは、売上高3兆円、マーケットシェア30%を実現して、家電量販店業界でリーダーとしての地位を確固たるものとすること。ただ、いかに快進撃を続けるヤマダ電機といえども、ビジネス環境が混迷を極める状況では、そう易々と1兆円の売上を上積みできるとも思えません。

それでは、ヤマダ電機にはどのようなマーケティング戦略の秘策あるのでしょうか? 今回はヤマダ電機が今後高い目標を達成するためのマーケティング戦略を読み解いていくことにしましょう。

「アンゾフのマトリクス」を活用した事業拡大戦略 

ヤマダ電機はここ10年、郊外型の大規模店舗を多数出店して売上を加速してきました。その直営店舗数は全国で実に500を超えます。ここまで出店すれば、出店余地がなくなり市場が飽和して成長が鈍化することは避けて通れません。

市場が飽和すれば、ヤマダ電機の次の一手としてどのような戦略が考えられるでしょうか? アンゾフのマトリクスを活用すれば、その答えを導き出すことができます。

アンゾフのマトリクスとは、事業拡大を2つの軸で捉えて企業の取るべき戦略を示したものです。

1つの軸は製品軸で、もう1つの軸は市場軸になります。横軸を製品軸とすると、製品軸は既存製品と新製品という分類ができます。一方で、縦軸を市場軸とすると、こちらも既存市場と新市場に分類することが可能です。ここで横軸と縦軸の組み合わせで『既存製品を既存市場に』、『既存製品を新市場に』、『新製品を既存市場に』、『新製品を新市場に』という4種類の組み合わせ(4つのセル)ができることから、アンゾフのマトリクスと呼ばれるのです。

アンゾフのマトリクスは製品と市場を軸に戦略を立てる際に有効。

既存製品もしくは既存市場を軸にすればリスクを低くして事業拡大ができる。


ヤマダ電機がリスクを少なくして事業を拡大しようと思えば、アンゾフのマトリクスから既存製品を新市場で販売する新市場開拓戦略か、新製品を既存市場で販売する新製品開発戦略が取るべき戦略ということになります。

新市場開拓戦略ということであれば、これまで郊外の市場を開拓して規模を拡大してきたヤマダ電機はそのスケールメリットを活かして、コスト的には高くなります。多くの顧客を引きつけることができるターミナル駅周辺の都心に打って出る戦略が考えられます。実際に、ヤマダ電機はビックカメラの牙城であった池袋やヨドバシカメラの牙城である新宿に次々と大型店を出店し、ライバルの市場を切り崩しにかかっています。今後はビックカメラの本店と隣接した西武百貨店が退去する有楽町マリオンに出店するかどうかも注目に値するところです。

国内の新市場ばかりでなく、海外進出も大きな鍵を握ります。リーマンショック以降の世界経済の混迷期の中でも、BRICsと呼ばれる新興国は確実に経済成長を遂げています。なかでも特に成長著しい中国での店舗展開は、今後の成長を加速させることができるかどうかの鍵を握ることになるでしょう。

一方で新製品開発戦略はどうでしょうか? 最近、ヤマダ電機では、家電を販売するばかりでなく、子会社化したダイクマと店舗を併設して日用品を販売したり、書籍を販売したりしています。家電のみでは成長にも限界がありますので、このように家電と相乗効果を発揮できる商品を併せて1つの店舗で販売。既存顧客に新たな製品を販売し、売上に弾みをつけることができるというわけです。今後の新製品開発戦略の展開としては、家電と親和性の深い家具販売などを視野に入れM&Aを仕掛けてくることも十分考えられるのではないでしょうか。
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