売上の最大化を図る価格戦略……その重要性とは
価格は消費者に対する企業からの強力なメッセージになる
たとえば、差別化戦略を採用している企業であれば、自社の商品に高い価格を設定して自社のブランド力をアピールするでしょうし、コストリーダーシップ戦略を採用している企業は低い価格を設定してお買い得感を醸し出していきます。
価格設定方法3つのアプローチ
■コスト志向型価格設定価格は企業の事業活動に非常に大きな影響を与えるために、実に様々な方法で設定が成されます。最もシンプルな価格設定方法は「コスト志向型価格設定」です。コスト志向型価格設定の下では、製品の製造に要した費用に目標とする利益を上乗せして価格が決定されます。たとえば、製品1個当たり100円のコストがかかり、20円の利益を目標とする場合は120円という価格を設定することになります。
■需要志向型価格設定
また、市場での需要と供給によって、価格を決定する方法もあります。このタイプの価格設定は「需要志向型価格設定」と呼ばれています。この需要志向型価格設定では、市場調査を通して顧客の価格への認識を重視して価格設定を行ないます。たとえば、顧客に対して価格調査を行い、多くの顧客が高すぎないし安すぎないと感じる価格を設定していきます。
■競争志向型価格設定
さらに価格は競合企業の価格にも大きく影響を受けます。これは「競争志向型価格設定」と呼ばれ、現代では最も一般的な価格設定と言えるでしょう。競争志向型価格設定を行う際には、競合企業の価格と比較して自社製品の価格を設定していきます。たとえば、ライバル企業が牛丼を1杯320円に値下げしたので、自社は280円に対抗値下げを行うといった場合が競争志向型価格設定の典型的な事例と言えます。
新製品の価格はその後の販売動向に大きく影響する
通常価格というのはコストや需要と供給の関係、ライバル企業との競争などで決まってきますが、新製品の価格設定というのは、その後の製品の販売動向に多大な影響を与えるという意味からも非常に重要なものになります。
新製品の価格戦略を検討する際には、大きく分けて2つのタイプから自社に適切な戦略を選択していくことになります。1つは「ぺネトレーションプライシング」と呼ばれるものであり、もう1つは「スキミングプライシング」と呼ばれるものです。
■ぺネトレーションプライシング
ぺネトレーションプライシングは市場浸透価格戦略とも呼ばれ、新製品の発売時に相対的に低い価格を設定する戦略です。赤字覚悟の低価格を設定し、いち早く市場で高いマーケットシェアを獲得することを目指していきます。
この戦略は、低価格で新製品をマーケットに投入して販売量を急激に増加させ、単位当たりの生産コストを削減することによって、収益を拡大していくことを狙っています。ですから、このぺネトレーションプライシングは非常に大きな潜在市場が存在していると見込まれる場合や、価格の変化に対して消費者が敏感に感じる場合に有効に機能する戦略と言えます。
たとえば、ソフトバンクは携帯電話業界に参入する際に、同社間の通話料金は一部を除いて無料にするという当時では画期的なぺネトレーションプライシングを実行しました。携帯電話というのは今や私達の生活に無くてはならないものですから利用者は通話料をかなり意識していますし、携帯電話市場は言うまでもなく非常に大きなマーケットであり、この市場で大きなマーケットシェアを握ることは取りも直さず大きな収益に直結することが、ぺネトレーションプライシングを採用した理由と言えるでしょう。
■スキミングプライシング
一方でスキミングプライシングは上層吸収価格戦略とも呼ばれ、新製品の発売時に相対的に高い価格を設定する戦略です。高めの価格を設定することによって、当初から大幅な利益を計上し、早期に新製品の開発コストを回収することを目指していきます。製品のライフサイクルにおいて、新製品の導入期は価格にそれほどこだわらない熱狂的なファン客がターゲットとなりますので、これら初期購入者層向けに高い価格で新製品を提供して初期投資の回収を図り、場合によっては製品のライフサイクルが進むに従って価格の引き下げを行い、より大衆向けに消費の拡大を図る戦略です。
このスキミングプライシングは競合他社に対して、自社製品の差別化が優れている場合や価格によって需要が左右されない場合に有効に機能する戦略と言えます。
たとえば、自動車メーカーであるメルセデスベンツは新車価格を非常に高く設定するスキミングプライシングを採用しています。ベンツの主要ターゲット顧客は価格にこだわらない富裕層ですし、ベンツの車はクオリティが高くブランドが確立していますので、競合他社との差別化が明確なためにこのスキミングプライシング戦略を採用できるというわけです。
新製品の価格設定は、その後の企業の業績に大きな影響を与えるために慎重に検討しなければいけません。自社を取り巻く環境を適切に分析して、マーケットシェアをいきなり拡大するぺネトレーションプライシングを採用するのか、それとも早期に投資コストの回収を目指すスキミングプライシングを採用するのかを決定していくことになります。
機動的な価格戦略で売上の最大化を図るイールド・マネジメント
航空業界では需要期に合わせて価格を変化させ売上の最大化を図る
このイールド・マネジメントは、1970年代の非常に競争の激化したアメリカの航空業界で誕生しました。飛行機というのは座席が限られていて、もしそのフライトで空席のまま出発するということになれば、一般の小売業のように在庫として残して次の日に販売することができません。そこで航空会社は過去の需要を分析して、需要が低迷する時期は価格を低く設定して需要を喚起し、需要が高まる時期は価格を高めに設定して1回あたりのフライトの売上を最大化させる方法を開発したのです。このような観点から、イールド・マネジメントにおいては需要の正確な予測が成功の鍵と言うことができるでしょう。
今やこのイールド・マネジメントは航空業界のみならず、他の業界でも採用されるようになりました。たとえば、ホテルなどは飛行機と同じで、空室の場合は在庫を持ち越すことができないために、売上機会を失ってしまいます。そこで、過去の需要を分析して、需要が低迷する時期には価格を割り引いて客室の稼働率を高め、需要が高くなる時期には価格を高めに設定するイールド・マネジメントを行っています。通常の平日などは驚くほどの安いプランを提供して需要を喚起する反面、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など多くの需要が集中する時期は非常に高く料金を設定するといった具合です。
このようにイールド・マネジメントでは、需要に応じた価格設定を行うことにより、売上機会の損失を極力避けることが可能になり、売上を最大化させることができるようになるのです。
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