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修繕積立金不足は管理組合にとって「頭の痛い」問題だ
シリーズ第1回目で「マンション管理運営に影を落とす財政問題」について言及しましたが、今回は修繕積立金が「財政赤字化」する現状について、もう少し掘り下げていきたいと思います。前回、「日本のマンションの50%は、すでに財政赤字で大規模修繕工事の資金が不足しており、さらに40%は今後、20年以内に赤字化する。その理由は、分譲当初に設定された修繕積立金が少ないことが原因である」ことを説明しましたが、では、この修繕積立金はどのように設定されるのかご存知でしょうか?

前回同様、マンションコンサルタント会社のシーアイピーにご協力いただき、修繕積立金が売り主および管理会社によってどのように設定されるのか、その“裏”事情をご紹介します。


1.適当(=明確な根拠なく)に設定する


「分譲マンション業者や管理会社により様々ですが、おおむね以下の3パターンに大別できます」と解説するのは、シーアイピーの須藤桂一社長。以下、同氏に現状を語ってもらいました。

日本に分譲マンションが建ち始めた昭和40年代からバブル絶頂期の平成初期あたりまでは、

 ・高度経済成長の流れに乗り、建てれば売れ、資産価値も値上がりしていった
 ・現在のようにマンションを適正に維持管理する概念そのものの不足

といった時代背景があり、売る側に修繕積立金について重要性の認識がありませんでした。また、マンションは「仮の住まい」と考えられ、買う側にとっても長期的な維持管理に対する関心が低かったことが金額設定を“適当”にさせた主因、と須藤氏は分析しています。当該時期に建設されたマンションでは、修繕積立金の設定を「管理費の10分の1」あるいは「各世帯一律1000円」などとするケースも珍しくなく、インターネットで物件検索してみると、こうした実態を裏付けるかのように「管理費:月額1万8000円、修繕積立金:1800円」というパターンがしばしば目に付きます。

さらに、同氏は「売り主にこのような積立金を設定され、管理組合でも“言われるまま”に了承し、現在に至っているようなマンションは、所有者の維持運営に対する意識が低い」ことを指摘しています。修繕積立金は安ければ安いほどいいといった間違った認識が蔓延(まんえん)していることも、管理組合に誤った判断をさせてしまう原因と言えるのでしょう。


2.買い主の購入意欲をそがない程度の金額を設定する


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「マンション供給バブル」が積立金にも影響を与える(?)
さらに、購入者の“顔色”を伺いつつ修繕積立金の金額設定を行なっている様子も浮き彫りになってきました。

ここ数年、マンション供給バブルが続き、一部の人気エリアを除いて“買い手市場”となっているのは周知のことです。そうした中、分譲価格はもちろん、入居後のランニングコスト(管理費や修繕積立金・駐車場使用料など)が高いことも買い主の購入意欲をそぐと思い、分譲マンション各社はこうした月額負担を1円でも安くしようと考えています。「住宅ローンの返済額は減らせない」「毎日の光熱費も当然、減らせない」現状の中、購入者が支払うランニングコストを少しでも安く見せることで、買い主の購入意欲を増進させるべく、「修繕積立金の安さ」をセールスポイントとして乱用する分譲マンション業者が存在するということです。「住宅ローン以外に管理費や積立金がこの程度なら、何とか手が届きそうだ」と思わせるねらいがあるのです。

その背景には、売り主にとって修繕積立金だけは“別格”の位置付けとなっていることも関係しています。どういうことかと言うと、買い主にとって修繕積立金は建物を良好に保つための“必要経費”ですが、「引き渡したら、それで終わり」の分譲マンション業者にとっては“必要経費”ではありません。修繕積立金が十分足りていようがいまいが、売り主の利益(儲け)には直接関係しないからです。管理費を低く設定することは管理受託費の減少に直結しかねないだけに、管理会社をグループ内に持つ売り主にとっては“禁じ手”ですが、儲けに直結しない修繕積立金は、極論すればどうでもいいのです。従って、「どうでもいい」のなら販売促進に作用するよう、買い主の購入意欲をそがない程度の金額を設定しておこうという発想が導かれるのです。

この場合、注意しなければならないのは「建物維持のために積立金がいくら必要か?」が“実額ベース”で計算されていないため、将来的な財政赤字(修繕金不足)は避けられません。そのため、お心当たりの方は、早めの対応が求められます。


3.住宅金融公庫の「優良中古マンション評価基準」に基づいて設定する


最後に、住宅金融公庫が定める「優良中古マンション評価基準」に基づいて設定しているマンションも多くなっているようです。

優良中古マンション評価基準とは、マンションの維持管理の重要性がささやかれ始めた1994年に、「質の高いマンションストック」の形成を図ろうと長期修繕計画の作成や耐震性、さらに、修繕積立金や劣化状況など一定基準を満たした既存マンション取得に対し有利な融資条件を付与するための基準のことです。当該基準内に「修繕積立金の世帯平均月額」が定められており(下表参照)、規定額を上回っていれば「優良なマンション」として国から評価され、販売戦略上も有利になります。そのため、まずは5年目までの最低金額である「1戸あたり平均月額6000円」を積立金に設定する売り主あるいは管理会社が散見されるようになりました。

<修繕積立金の世帯平均月額>
経過年数1戸あたりの平均月額
5年未満6、000円以上
5年以上 10年未満7、000円以上
10年以上 17年未満9、000円以上
17年以上10、000円以上


こうした中、須藤社長は「確かに、上記1や2に比べると月額の積立金は高く、安心できるように見えますが、実際にこの積立金額で維持運営していけるかどうかはまったく別の問題です。将来的な修繕・交換に多額の費用がかかる設備(エレベーターや機械式駐車設備など)が多いマンション、あるいは、建物構造が複雑なマンションであれば、基準以上の積立金が必要になっても不思議ではないからです。しかも、経年に合わせ定期的に積立金を値上げすることが前提になっており、裏を返せば、将来値上げをしていかないと財政赤字になることを示唆しているも同然です」と警鐘を鳴らしています。

ひと口にマンションといっても、その規模も設備状況も様々。にもかかわらず、「1戸あたり6000円」を標準値に設定した根拠がはっきり見えないため、実態を伴わずに数字だけが“一人歩き”している点は今後の課題と言えそうです。繰り返しますが、日本では約9割のマンションで修繕積立金が不足しています。一刻も早く、こうした修繕積立金の「落とし穴」に気付き、管理組合として対策を講じなければなりません。今こそ、「意識改革」が重要視される時期にさしかかっているのです。


【シリーズ】管理組合のマネープラン
1.マンション管理運営に影を落とす財政問題
2.企業の「思惑」で決まる修繕積立金の“裏”事情(本コラム)
3.「無知・無関心」による管理費の“不正”流用
4.修繕計画を自社の「売上表」と見る管理会社
5.管理組合と管理会社の「格差」を埋めろ!!
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