住の安全に「雪解け」の季節は来るのか? |
となると、気になるのが「こうした一連の騒動を受け、マンション購入を取りやめた人がどの程度いたのか?」です。そこで、耐震偽装事件は一般消費者のマンション購入にどのような影響を与えたのか、各種データをもとに分析してみました。
3人に1人が住み替えを凍結 ネクスト調査
まずは、消費者心理から見ていきましょう。不動産ポータルサイト「HOME'S」を運営するネクストが、事件直後の05年12月に「マンション耐震強度偽装問題に関する緊急アンケート」(有効回答1033人)を行いました。その結果によると、90.3%が当該事件に「興味あり」と回答しており、事件性の高さを物語っています。一方、事件を「知らない」人も1.4%いました。
次に、当該事件を認知しており、かつ、住み替え(マンションに限らず一戸建て検討者、さらに賃貸への住み替えも含む)を希望している人に、今後の住宅検討について質問した結果が下記です。
|
04年10月の新潟県中越地震、05年7月の千葉県北西部を震源とした地震(東京・足立区で震度5強、横浜・川崎では震度5弱を記録)など、大型地震が続き、地震リスクに関心が集まっていた矢先だったこともあり、3人に1人が住み替えを凍結するという結果になりました。マイホームは高額な買い物だけに、“失敗が許されない”という側面を持っています。そのためか、「様子を見たい」という意見が3割を超えるまでになりました。
消費者の購入意欲は事件後も衰えていない
続いて、こうした消費者マインドを受け、実際のマンション販売(売れ行き)はどうだったのか、マンションの契約状況に話を進めましょう。
下図は、不動産経済研究所が毎月調査している首都圏および近畿圏の新築マンション契約率を時系列で表したグラフです。耐震偽装事件は2005年の11月17日に発覚しましたが、首都圏では翌12月と新年1月に一時的に下落するものの、2月以降は上昇に転ずる場面もあり、直近一年間をみる限りでは事件を直接のきっかけとするような局地的な落ち込みは見られませんでした。1年を通して全体的に下降トレンドを描いているのは、分譲価格や住宅ローン金利によるものと考えられ、事件による影響は極めて限定的だったと分析されます。
これに対し、近畿圏では06年1月に20.1%(前月比)の下落があり、偽装事件の影響とも受け取られる変化が現れました。ところが一転、翌月(2月)にはほぼ平均値に戻り、その後は契約率が改善する動きを示しています。こうしたことからも、首都圏同様、近畿圏も消費者の意識は冷え込まなかったことが推測されます。
事件が事件なだけに、いったん消費者が動きを止めれば、契約率も同時に急降下し、その後は下落基調が続くのが自然です。こうした変化が見受けられなかったということは、首都圏・近畿圏を問わず、前出のアンケート結果に見るほどの意識悪化はなかったと結論付けることができるでしょう。
むしろ、(被害者には申し訳ありませんが)“反面教師”と捉え、二の足を踏まないよう教訓として受け入れた人も少なからずいたと考えられます。今後、再び「住の安全」を脅かす事件や事故が起こるかどうかは何ら予断を持ちませんが、賢い消費者は一連の事件をしっかりと吸収し、プラス材料として生かしたことは間違いないといえるでしょう。“前向き”に受け止める姿勢が数値(データ結果)となって現れているのです。
【耐震偽装事件の関連コラム】
追加1300万!苦渋の選択「耐震偽装」第二幕
模索する再発防止案「姉歯」後の今を追う