マンション購入術/マンション購入の失敗・トラブル

追加1300万!苦渋の選択「耐震偽装」第二幕

苦悩に耐え、沈黙を続けていた偽装マンションの被害者が動き出しました。建替え計画をまとめ、また、損害賠償訴訟の提起などを始めたのです。そこで、“第二幕”を迎えた耐震偽装の最前線を追ってみました。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド


昨年11月に発覚して以来、7カ月が過ぎた耐震偽装事件。「犯罪」としての責任追及が司法に委ねられ、真相解明への道のりを突き進むなか、今まで沈黙を続けていた被害マンション住民が、ようやく行動を起こし始めました。渦中の姉歯被告はもとより、施工業者や元請け設計業者、さらに地元自治体をも相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こすことを決めたのです。

今年4月に起こった一連の逮捕劇は、建築士法や建設業法違反、また、詐欺容疑などによる、耐震偽装を直接の原因としない内容だっただけに、こうした損害賠償を罪状とする訴訟提起は事件の“本質”にメスを入れ、“真”の犯人を特定する契機となることが期待されます。そこで今回は、今後の動向が注目される被害住民の訴訟および建て替えに向けた取り組みを追ってみました。

追加負担は平均1300万円 被害マンションの建て替え


希望に胸を膨らませて手に入れた「夢のマイホーム」を追い出され、仮住まいを余儀なくされている被害マンションの住民。再建に向けた取り組みは思うように進展しない中、先手をきって建て替え計画をまとめたのが、神奈川県川崎市の「グランドステージ溝の口(24世帯)」でした。同マンションは耐震強度が基準の39%しかなく、国交省からの要請を受けた都市再生機構による再建試案を検討してきました。強度50%未満の被害マンションに対しては、政府が解体あるいは建て替え費用などの一部を支援することから、こうした特典の恩恵を受けるべく、機構による素案を議論したのです。

ところが、政府の支援策では1世帯あたり2000~2700万円もの追加負担を強いられることが判明し、行政には頼らない民間主導による「自主再建」の道を選択しました。建て替えには多額の追加費用が必要となるだけに、被害住民の苦悩は尽きることがありません。それでも、こうした逆境を乗り越え、東京都大田区の「グランドステージ池上(24世帯)」は今月、建て替えの2例目として名乗りを上げたのです。耐震強度が基準の45%しかない同マンションは、NPO法人の協力を借りて住民負担を560万~1770万円(平均では約1300万円)の範囲に抑えた再建案を可決・成立させたのです。

その根底には、「費用負担は容易でないが、いたずらに時間を費やしても不安や心配は改善されない」といった心理がありました。早期再建の精神が、住民の一致団結を促した模様です。当事者ではない我々が、被害者の心象を察するには余りありますが、迷っていても解決の糸口は見つかりません。問題点を1つ1つ処理し、一歩ずつ着実に前進することが重要と言えるのでしょう。

自らの手で「不備」を正す 7億円の損害賠償訴訟


このように、被害住民の機運が高まるのに時を同じくして、川崎市の「グランドステージ川崎大師(23世帯)」では、姉歯被告・太平工業(施工業者)・スペースワン建築研究所(元請け設計業者)、さらには、川崎市をも含めて総額7億円余りの損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こすこととしました。「刑事事件」としてしか扱われていなかった今回の騒動を、「民事事件」として被害マンション住民が自ら起訴することにしたのです。最もないがしろにされていた被害マンション住民の救済が、ようやく本格化し始めたのです。

提訴後の会見で、当該マンションの住民代表は「追加ローンの負担を少しでも軽くするには訴訟しか残されていなかった。訴訟を通じて民間に建築確認事務を任せた制度の不備を明らかにしたい」(読売新聞6月27日より引用)と述べており、泣き寝入りせず、機能喪失した建築確認制度を抜本的に改善する意欲をにじませています。

“第二幕”は開かれるも、課題は山積


こうして、耐震偽装事件の解決に向けた“第二幕”がスタートしたわけですが、その一方で、耐震強度が不足した「姉歯マンション」全体では、建物の改修や建て替えの意見統一が図れたマンションは、まだまだ多くありません。費用面を含め、これから最終局面を迎える物件ばかりです。

たとえば、A棟とB棟の2棟からなる東京都世田谷区の「グランドステージ千歳烏山」では、A棟とB棟で耐震強度が異なることから、「両棟とも建て替える」のか「1棟は建て替え、もう1棟は強度補強で対応する」のか判断を困らせた例がありました。また、住民が建て替えを希望しても、建て替え事業に参画してくれる施工業者が見つからないという問題も表面化しています。というのも、偽装マンションの多くが世帯数の少ない小規模物件のため、建て替えプロジェクトとして収益が出にくい案件ばかりだからです。ここに来て、新たな「壁」が立ちはだかった格好です。

さらに、最大の懸案事項である「住宅ローン」をめぐる動きについて、金融機関に債権放棄を要請する声はあるものの、いまだ“のれんに腕押し”状態が続いています。まさに一進一退といった印象ですが、世間の目は被害者を温かく見つめています。どうぞ前向きな姿勢を忘れないでください。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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