多くの場合、技術開発は小型化や軽量化といった手法となり、どこかで技術的な「限界」を迎えてしまう。その都度、開発者たちは頭を悩ませるわけだが、従来の思考の連続でなく一足飛びにこの「限界」を打ち破ることがある。
これは“発明の醍醐味”と言える発想法のひとつで『水平思考』と呼ばれる発想法である。斬新なヒット商品にはこうした『水平思考』が使われていることが多い。
水平思考で既成の枠を取り払え!
犯罪がとても多い国にみなさんが住んでいたとしよう。被害を免れるために、みなさんはどんな策をとるだろうか・・・防犯対策を万全にするだろうか?それとも、スゴ腕のボディーガードを雇うだろうか?先に紹介した水平思考で考えた一例を挙げると、こうなる。
『犯罪のとても多い国では自分が刑務所に入るのが一番安全』
もちろん、罪を犯して刑務所に入るわけではない。ひとつの問題に対して、正面から深く掘り下げていく『垂直思考』はひとりよがりになったり、壁にぶち当たると問題解決が難しくなる。既成の枠を取り払い、多くの視点や多角的な発想で考えることで、新しい解決策を見出す方法が『水平思考』といわれるものである。
そもそも水平思考とは、エドワード・デボノ博士が提唱し、1970年代に流行した言葉だが、その発想法はこれからの時代にも通用するものだといえる。
レンズがせり出さない光学3倍ズーム!
光学3倍ズーム付きでワイシャツの胸ポケットに入るデジタルカメラがヒットした。ミノルタの世界最小・最薄デジタルカメラの『ディマージュX』である。
通常ズームレンズはカメラ本体の前面に突き出ており、ズーム倍率に応じてモーターの駆動により、レンズが前後に伸び縮むものである。
光学3倍ズームを搭載した世界最薄のデジタルカメラ「ディマージュXt」写真提供:ミノルタ株式会社
カメラの小型化にはこのレンズの小型化が必須であり、多くのメーカーがこの課題に取り組み開発競争が激化していた。しかし複数のレンズがモーターにより前後するレンズ群をカメラ本体の前面に設ける従来の方式では、小型化に限度があった。
ミノルタはシャツのポケットでかさばらない薄さを20ミリと導き出し、これを目標に開発を進めた。
試行錯誤の結果、斬新な発想が生まれたのだ。それは8群9枚のレンズ群をカメラ本体の高さ方向に内臓するものである。撮像素子のCCDはレンズ群の下部に配置し、前面からの映像は、プリズムにより光を90度屈曲させ、このレンズ群の上部に導くという方式である。
つまり、「ズームレンズは前にせり出す」という垂直思考的枠組みを取り外し、「ズームレンズはカメラ本体の高さ方向に伸ばす」という水平思考的発想で世界最薄を実現させたのである。
2002年2月に発売以来、『ディマージュXi』、『ディマージュXt』とシリーズを追加し、ヒット商品になっている。
このような新発想が次のタンクレストイレにもあった。