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【連載】説得と交渉の営業心理学 第5回 手に入りにくいほど欲しくなる(2ページ目)

売り切れだと分かった途端に、ますます欲しくなる。私たちは、手に入りにくいものほど貴重なものだと考える傾向がある。「希少性の原理」と呼ばれるその心のカラクリを解き明かしてみよう。

執筆者:鹿俣 之信

どのクッキーが一番欲しい?

社会心理学者のステファン・ウォーチェルの実験を見てみよう。この実験は単純なものだ。被験者に瓶の中に入っているクッキーを食べてもらい、評定してもらうのである。ただし、半数の被験者には、クッキーが10個入った瓶を渡し、残りの半数の被験者には、クッキーが2個しか入っていない瓶を渡した。瓶の中のクッキーは、どちらも同じものである。

結果は、10個のうちの1個を与えられた被験者よりも、たった2個のうちの1個を与えられた被験者のほうが、より好意的な評価をした。同じクッキーでも、残り少ない中から与えられた場合のほうが、より好ましいと評定されたのだ。

さらに、はじめに10個入りの瓶を見せられ、その後「別の被験者がたくさん食べてしまった」と2個入りの瓶を渡される場合も検証された。この場合、被験者はたくさんあったクッキーが少なくなってしまうのを、目の当たりにすることになる。

その結果、最初からずっと少なかった場合よりも、たくさんあったのに少なくなってしまった場合のほうが、好意的な評価を得ることが分かった。つまり、ずっと手に入りにくかったものよりも、新たに手に入りにくくなったもののほうが、高く評価されたのである。

心理的リアクタンス

希少性の原理には、ある心理学の理論が深く関わっている。それは心理的リアクタンス理論である。

人は、ものごとをコントロールしているという感覚(統制感)を持ちたがる。これは、人は自由に行動することができると考えているからだ。もし、他人からある意見を強制されたり、ある行動を制限されたならば、行動の自由が脅かされ、統制感を失ってしまうことになる。

人は、行動の自由が制限されたり脅かされたりすると、その行動の自由を回復するよう動機付けられる。説得によって行動の自由が制限されたとき、心理的リアクタンス(反発)が生じ、その結果、自由を回復するために、説得への抵抗が生じるのである。これを心理的リアクタンス理論という。

例えば、勉強しようと思っていたところに、親から勉強するように言われた場合、勉強するどころか逆に反発して勉強しなくなる。これは、自分からすすんで勉強するという行動の自由を、親によって脅かされたためである。勉強しないという行動をとることで、脅かされた自由を回復したのである。

シェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」は、両家の親同士が敵対するという大きな障害の中で、2人が愛をより深めていくという話である。

心理学者のドリスコールは、この物語の心理を科学的に分析する実験を行なっている。ドリスコールは、カップル140組からアンケートをとり、2人の相性を「熱愛度」、両親の反村を「妨害度」として相関関係を調べた。すると、親の妨害度が高いほど、それに比例して2人の熱愛度も高くなる傾向があることが分かった。また、親の妨害度が高まった場合は熱愛度も高まり、妨害度が弱まった場合は熱愛度も冷めてしまうことも明らかになっている。

妨害されると愛が深まるという心理を「ロミオとジュリエット効果」という。恋愛の自由を親によって制限されたり脅かされた2人は、愛を深めることで抵抗し、失われた自由を回復しようとするのだ。

→ 次は、セールスの現場での活用法について

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【連載】説得と交渉の営業心理学
第1回 二度目は断れない
第2回 拒否させて譲歩する
第3回 一面呈示と両面呈示
第4回 結論を言わない暗示的説得
第5回 手に入りにくいほど欲しくなる

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