たとえ話で聞き手が受け入れやすくなる
1つめの効用は『「聞き手がすでに知っていること」につなげることで、よりすんなりと受け入れられる』でした。たとえば、前に触れた「器に湯を注ぐ」話をとりあげてみましょう。人から「まず自分の考えを捨ててから、私の言う新しい考え方を受け入れなさい」と言われたとして、どうでしょうか? 一瞬、イラッとするかもしれません。まず感情的に受け入れにくいというのが1つ。そしてもう1つが、話が抽象的なので、どうしたらいいのかわかりにくい。
そこで先ほどの「器に湯を注ぐ」話をたとえとして持ってくるわけです。水の入った器にお湯を注いでも、注いだお湯よりもぬるくなってしまうことは、既知の事実です。「それと同じなんですよ」と言われることで、なんとなくわかったようになる。この“なんとなくわかったような”というのが、すごく大切なところです。
別の例を1つ。日本で最も有名なたとえ話の1つとして君臨するのが「クリープの入っていないコーヒーなんて、星のない夜空のようなもの」です。あなたも何度も耳にしているのでは?
これだって、「クリープを入れないコーヒーは味気ない」というよりも、イメージしやすいし、心に入り込んでくる感じがするのではないでしょうか。
たとえ話で自分の信念を伝える
もう1つの効用が「(使い方によっては)自分の信念を伝えやすい」ということでした。これについては最近のドラマを例にとってお話したいと思います。この記事でも取り上げた前月9ドラマ「CHANGE」。キムタクが総理大臣を演じるということで評判でした。キムタク演ずる朝倉啓太は、政治家になる前は小学校の先生で、その関係で朝倉啓太の演説のなかでは小学校がよく出てきます。
たとえば、米国との交渉のシーンでは「僕がいた小学校でも、生徒同士がけんかをしたりすることがありました。そんなとき僕は、とことん話し合うように言ってきました。とことんまで話し合うことで……」といったトークが出てきます。詳細はビデオで見たい方のために述べずにおきますが、まさにこれはたとえ話の1つです。
ここで視聴者が感じることは「朝倉総理は、この交渉において、自分の信念に基づいて話をしている。その場の思いつきなどで話しているのではない」というイメージです。小学校の先生のころから、一貫した考えでやってきていて、それと同じことをこの場でもやっていると感じるのです。
もちろん、すべてのたとえ話がそうなるわけではありません。クリープのたとえ話も別に、信念を感じるわけではないですしね。でも、それすらも伝えられるようになったら、あなたのプレゼンは聞き手の心を揺さぶると思いませんか?
話が長くなってしまいましたが、たとえ話というのは非常にパワフルなテクニックです。もしプレゼンで意識的に使っていないとしたら、すごくもったいないこと。ぜひ活用してみてください!