「ハコミセラピー」という心理療法をご存知でしょうか? アメリカで1980年代に確立された繊細で柔和なセラピーです。2回にわたって、日本におけるハコミの紹介者である高野雅司さんにマネジメントに生かすポイントをお聴きします。
ハコミセラピーとは?「ハコミ」とは、「あなたは何者か?」を意味するホピ・インディアンの言葉です。ハコミセラピーでは仏教瞑想的な「マインドフルネス」という自分の中で起こることをありのままに気づける意識状態を活用しながら、自分はどんな人間なのかを発見していきます。仏教だけでなくタオイズムといった東洋思想の影響を強く受けつつ、現代西洋の各種セラピー手法を統合した包括的な心理療法です。1980年代にアメリカ人のセラピストであるロン・クルツによって確立されました。
(ハコミセラピーについての詳細は、
www.hakomi.netをご覧ください。)
《CONTENTS》
●コンサルタント出身の異色セラピスト(1P目)●転職、そしてアメリカでハコミセラピーと出会う(1P目)●カウンセラーは「気持ち」を受け止める(2P目)●ハコミセラピストは「存在」を受け止める(2P目)コンサルタント出身の異色セラピスト
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ハコミセラピスト・
高野雅司さん(略歴はページ末尾参照)
――高野さんはもともとはコンサルタントをされていたそうですね。コンサルタント出身のセラピストというのも珍しいと思いますが……。
高野:そうかもしれません。ただ、自分の中では、コンサルタントもセラピストも「社会変革」という共通のテーマでつながっています。「なぜ世界から戦争がなくならないのか」とか、「どうしたらもっといい社会に変革できるのか」を学生時代には自分なりに考えていました。
そのとき、最終的に社会を変えるには一人ひとりの意識の変容が必要だという結論に達したんです。それを実際の世の中で確かめてみたくて、企業というものの変革に携わるコンサルタントに興味を持ったわけです。
――実際にコンサルタントをされてどうでしたか?
高野:すごく面白かったですね。ただ、いくらこちらがいい提案をしても、結局は企業の人がその提案をやる気にならなければ、結局何も実現していかない。「それは話としてはわかるけれど……」となってしまうと、当たり障りのないプランに変わってしまい、結果が出なくなってしまうこともあったり。
そうしているうちに、やっぱり一人ひとりの意識、特に変わっていこうという個人の意識が重要だと改めて思いました。人は変わっていくことに恐れがあるし、第一、面倒くさいじゃないですか。そういった心の動きにかかわって、そこから扱っていかないことには、何も変わっていかないなあと実感としてわかったんです。それが20代後半でした。
転職、そしてアメリカでハコミセラピーと出会う
いろいろ悩んだのですが、改めて自分のテーマである「社会変革」に立ち戻ろうと思い、会社を辞めました。そのときに友人の紹介で、あるCI(コーポレート・アイデンティティ)のコンサルティング会社の社長と知りあいました。
その人はCIで会社のアイデンティティを確立するだけでなく、PI(パーソナル・アイデンティティ)とのすり合わせが必要だと言っていました。つまり、会社のビジョンに加えて、個々人が持っているビジョンを明確にして、二つのビジョンを確認しながら整合性を取るということです。
――そこで企業変革と個人の意識の変革がまた結びついたわけですね。
高野:ええ。それでその会社に就職したんですが、社長がさまざまな心理学に造詣が深い方で、いろいろな情報を得ることができました。アメリカの心理系の大学院についても関心が深まってきました。私は商学部出身だったので心理学をきちんと勉強したことがなく、しっかりと心について学ぶために留学することに決め、30歳の誕生日にアメリカに旅立ったのです。
――大学院では何を学ばれたんですか?
高野:専攻はカルチャー・シナジーといって、違う文化がぶつかったときに、そこに衝突や対立を生むのではなく、違いを生かして何かを生み出そうというものです。最終的には5年間在学して、心理学の博士号(Ph.D.)まで取りましたが、併せて「組織開発(OD)」の"certificate"も取得しました。また、その間にハコミセラピーと出会い、大学院と並行して学びました。そして10年前に帰国し、ハコミセラピーの実践と紹介を行ってきました。現在では、ハコミセラピーのセッション及びセラピストの養成、コミュニケーションやファシリテーション関係の企業研修などを中心に活動しています。
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ハコミセラピスト・高野雅司さん
心理学博士(Ph.D.)、ハコミ公認トレーナー。一橋大学を卒業の後、コンサルティング会社勤務を経て、私費留学のため渡米。カリフォルニア統合学研究所(California Institute of IntegralStudies)にて東西心理学部を卒業し、博士号を取得すると共に「組織開発と変容」課程も終了。また、ハコミセラピーの公認プロフェッショナル・トレーニングも修了し、その後は臨床経験を深める。1997年に帰国し、現在は心理臨床の現場で活躍するとともに、異なる価値観を持つ個人/集団間の創造的な対話を促進するためのコミュニケーション研修やコンサルティング活動なども行う。また、自己表現に不慣れな多くの日本人に適した、繊細かつ内省的な心理療法としてのハコミセラピーの紹介と普及にも力を注いでいる。
著書/訳書に、「ハコミ・セラピー」(星和書店/共訳)、「魂のプロセス」(コスモスライブラリー)、「トランスパーソナル心理療法入門」(日本評論社/編共著)、「プロセス指向心理学入門」(春秋社/編共著)など。