販売が継続されれば、契約解除はできない
会社更生法または民事再生法が適用されたときは、あくまでも会社の事業継続が前提です。会社更生法では選任された管財人次第の面もありますが、とくに経営陣が従来どおり残る民事再生法であれば、販売中のマンションや建売住宅はそのまま販売を続けるケースが大半でしょう。ここで知っておきたいのは、会社側が販売の継続を表明しているかぎり、買主のほうから売買契約を解除することはできないということ。もちろん、会社側が契約解除に応じる意向を示した場合なら話は別ですが、そうではないときに、もしどうしても不安が募り契約解除を望むのなら、すでに支払った手付金を放棄しなければならないことになります。
「倒産したなら手付金を返せ」といいたいところでしょうが、契約の解除要求や手付金の返還要求が殺到し、それにすべて応じていたら、会社の再建もおぼつかなくなってしまいます。大きな不安を抱えながらであっても、無事に建物が完成して引き渡されることを願うしかありませんね。
ただし、工事が大幅に遅れる可能性もあるため、それによって買主側に大きな支障をきたす恐れがあれば、個別に話し合っていくことになります。
また、民事再生法などで経営陣はそのまま残っても、会社内部では大胆なリストラが敢行されていることも多いでしょう。お気に入りの営業担当者がいなくなり、その後任者が信用できないというケースがあるかもしれません。契約時に出した条件などがきちんと引き継がれていないこともあり得るでしょうから、新しい担当者の対応についての要望や、契約条件の再確認など、話し合いはしっかりと行なうことが必要です。
なお、倒産した会社に代わり、その工事を請け負ったゼネコンなどが売主として事業を引き継ぐケースもあります。この場合、契約条件などに変更がないのかどうか、相手側の説明をよく聞くようにしなければなりません。
一定額以上の手付金なら保証される
販売を継続しても大半が売れ残る懸念が強いとき、あるいは販売を継続することで赤字が拡大することが見込まれるときなど、会社更生法や民事再生法でありながら工事中止、販売中止となる場合があります。このような状況になったとき、あるいは会社が破産したときなどは、すでに支払った手付金の返還を求めることになりますが、その場合には手付金の額が問題となります。
支払った手付金が売買価格の5%(完成済み物件なら10%)または1,000万円を超えるときは、売買契約締結のときに手付金の支払いと引き換えに、「保証証書」または「保険証券」を受け取っているはず。これがあれば、とりあえず手付金の全額が戻ると考えてよいでしょう。
これは宅地建物取引業法に定められた保全措置で、買主に対して手付金(契約後に支払われた中間金なども含む)を返還しなければならない事情が生じたとき、銀行(銀行、信用金庫、国土交通大臣が指定する保証機関など)や保険会社がそれを保証してくれるものです。銀行などによる保証であれば「保証証書」、保険会社による保証保険であれば「保険証券」になります。
ちなみに、売買価格の5%(完成済み物件なら10%)または1,000万円を超える手付金を受け取ったのにも関わらず、保証証書などを買主に渡していない(保険証券の場合には電子的手段による交付も有効)のであれば、その売主会社は業務停止処分の対象となる重い宅地建物取引業法違反を問われることになります。倒産以前に大きな問題を抱えた会社だったということですね。
なお、販売中止の場合など売主の都合による契約解除とはいえ、手付の倍返しや違約金を要求することは、倒産のときであれば難しいと考えるべきでしょう。
一方、上記の保全措置の対象に満たない手付金(中間金を含む)しか支払っていないとき、たとえば売買価格が4000万円の物件を100万円の手付金で契約したような場合などには、その全額が戻ることを期待するほうが難しいかもしれません。
他の債権者(倒産会社に融資した金融機関や取引先など)よりも買主への手付金返還に優先権がありますが、お金が足りないからこそ倒産した相手先。とくにマンションなどで同じ立場の買主が多い場合は、手付金の返還が難しいことになります。このような事態に巻き込まれたら、できるだけ早く売主会社、管財人、破産管財人などとの話し合いの場を設けてもらうことも必要です。
自己資金が少なく購入代金の大半を住宅ローンでまかなおうとするとき、返済負担額の観点から資金計画の問題が論じられることも多いのですが、手付金の額が少ないことによって上記のようなリスクも生じるわけです。
注文住宅の場合は「住宅完成保証制度」を利用する手も
注文住宅など、建築業者との間で建築工事請負契約を締結する場合には、財団法人住宅保証機構による「住宅完成保証制度」を利用することもできます。これは建築工事中に業者が倒産などして工事の継続ができなくなったとき、他の工事引継ぎ業者をあっせんしたり、追加費用や損害の保証(限度額あり)をしてくれるというものです。ただし、この制度を利用するためには、発注先の建築業者が住宅保証機構の登録業者であること、工事開始前に保証の手続きをすることなどが必要です。
なお、通常の建売住宅ではこの制度を利用できませんが、建築条件付売地などで売主の不動産業者と建築工事請負契約を結ぶときには利用可能なケースもあります。倒産などの不安を感じるのであれば事前に確認してみましょう。
ここでは未完成物件の売主会社が倒産したときのことを中心に説明しましたが、不動産会社の倒産による影響はこれ以外にもいろいろと考えられます。完成済み物件の場合、あるいは物件引き渡し後の倒産、仲介会社の倒産、マンション管理会社の倒産などにおける注意点については、別の機会に説明することにしましょう。
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