不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

契約締結後に当事者の一方が亡くなってしまったら?

売買契約を締結した後、引き渡しまでの間に万一、契約当事者のどちらかが死亡してしまったとき、その契約はどうなるのでしょうか? あまり考えたくはない事態でしょうが、誰にでも起こり得るリスクです。(2017年改訂版、初出:2006年8月)

執筆者:平野 雅之


中古住宅や土地の売買では、契約を締結した後、物件の引き渡しまでには1~3か月程度かかることが通例です。その間に万一、契約当事者が死亡してしまったとき、その契約はいったいどうなるのでしょうか?



question
土地を購入して家を建てる計画で、いろいろと勉強をしているところです。そこでふと思ったのですが、契約を締結して手付金を支払った後、引き渡しまでの間にもし売主や買主本人が亡くなってしまったら、その契約はどうなるのでしょうか? 白紙解除として買主の遺族には手付金が戻ってくるのでしょうか?
(神奈川県横浜市 匿名 50代 男性)



answer
まさか、自分が亡くなることを想定しながら売買契約を締結する人はいないでしょうが、いつどのような事態が起きるか誰にも分かりません。

私自身は幸いにそのようなケースに遭遇することは今までありませんでしたが、知り合いの不動産業者の中には契約履行前に「売主が亡くなった」あるいは「買主が亡くなった」という経験をしている人も実際にいます。

暗い話題はなるべく避けたいところですが、住宅購入にまつわるリスクの問題として、契約当事者が死亡したときの対処方法について知っておいたほうがよいでしょう。

救急車のイラスト

いざというときに住宅の売買どころではないだろうが、万一のことはいつ誰にでも起こり得るもの

まず法律的に考えると、売買契約を締結した後、決済までの間に売主または買主が不幸にも亡くなってしまったとき、それぞれの権利や義務はそのまま相続人へと引き継がれます。

つまり、売主本人が死亡すれば、買主から売買代金を受け取る権利と買主へ物件を引き渡す義務が相続されます。

同様に買主本人が死亡すれば、売主へ売買代金を支払う義務と売主から物件の引き渡しを受ける権利が相続されるわけです。

しかし、買主が亡くなったケースで考えれば、そのような事態は想定せずに元気で暮らすことを前提として物件を選んだり購入を決めたりしたのであって、法律どおり杓子定規に判断するわけにもいきません。

いくつかのケースを想定し、それぞれの問題点や注意点を確認しておくことにしましょう。


売主が死亡してしまったとき

売主が亡くなってしまったときには、相続人がその売買契約を履行することが基本です。

このとき、評価方法の違いから「不動産のままで持っていれば相続税がかからなかったのに、契約を履行したために相続税が必要になった」という事態も考えられますが、それは諦めるしかないでしょう。

逆に契約を履行できるのにそれをやめようとすれば、手付金の倍返しや違約金の支払いが必要になりかねません。

一戸建て住宅

売主の相続人は契約を履行することが基本だが……。早急な相続手続きが必要

一方、買主は売買代金(残金)の支払い相手がどうなるのか十分な注意が必要です。売主の相続人がひとりであれば問題は生じませんが、たいていは複数の相続人が存在します。

そのうちの誰かひとりだけに売買代金を支払ってしまうと、物件の引き渡しをめぐってトラブルになる可能性もあります。

相続人の全員に対してそれぞれの持分に応じた売買代金の支払いをするか、あるいは全員から委任を受けた代理人に対して支払いますが、ここで代理権限の確認も重要になってきます。

売主側では早急に相続人を確定させ、相続放棄をする者があればその手続きもしなければなりませんが、もし、これらの作業が物件の引き渡し時期に間に合わない場合には、決済期日の延期もやむを得ません。

売主の相続人からそのような依頼があれば、買主は相手の事情を考慮して最大限の譲歩をするべきでしょう。

ただし、売主側に住宅の買換えが絡んでいる場合には話が複雑になってきます。

買換え先の売買契約が解除される可能性も高いので、事情によってはお互いの話し合いのうえで白紙解除とすることが妥当なケースもあるでしょう。上記の決済期日延期で買主に支障が出る場合も同様です。

なお、もしも売主が売買契約の対象物件の中で自殺や変死をしたような場合には、買主のほうから契約解除を申し出ることもあるでしょう。

このようなときも、やはり双方の合意による白紙解除を優先的に考えるべきであり、お互いに手付解除適用の主張や違約金の請求をしたり、法律の規定を盾にして契約の履行を迫ったりすることなどは控えるべきだと考えられます。


買主が死亡してしまったとき

買主が亡くなってしまったときには、たいへん複雑な要素も絡んできます。

まず、それが住宅ローンの承認を受ける前の時点であれば、当然ながら住宅ローンを申し込んだ金融機関から否認されますから、融資利用の特約を適用することによって売買契約を白紙解除することができるでしょう。

マンション

買主の相続人は、すぐに関係者へ連絡を取って話し合うことが大切

問題が起こりやすいのは、住宅ローンの承認を受けた後に買主が亡くなってしまったときです。もちろん金融機関は融資を実行しませんが、かといって融資利用の特約も適用できません。もともと融資利用の特約が売買契約書になかった場合も同様です。

このようなときは、あくまでもお互いの話し合いによって解決するしか方法はないのですが、買主の相続人に支払い能力がなければ、やはり合意による白紙解除を考えるべきでしょう。

ただし、新築物件の場合でオプションの追加やオーダーによる仕様変更などがあったときには、相応の支払いをしなければならないケースも考えられます。

買主側の事情を十分に考慮して、売主はできるかぎりの譲歩をするべきだとはいえ、買主の相続人に十分な支払い能力があったり、生命保険金などで売買代金を捻出できたりする状態なら、単に「買うのをやめたい」だけでは売主が納得しないこともあるでしょう。

法律の基本は「相続人が契約を履行すること」ですから、これを念頭において対応を考えなければなりません。

なお、やや専門的な話になりますが、法律の中では「事情変更の原則」による契約の解除を考慮する場合があります。

買主自身の死亡は事情変更の要素になり得るものと考えられますが、その結果として「契約の履行を求めることが信義則上 “著しく” 不当であること」が要件とされるため、判例などをみてもなかなか簡単にこれを適用することはできないようです。

買主の相続人に支払い能力があれば、なおさら難しいことでしょう。

それはさておき、住宅を購入するとき以上に大きな問題となりがちなのが、注文住宅を建てている途中でその注文者が亡くなってしまったときです。


注文住宅は白紙解除が困難

注文住宅を建てるとき、工事を依頼した相手先の支払い条件によっても大きく異なりますが、竣工・引き渡し前の時点で建築費の6~7割に相当する代金(着手金、中間金など)を先払いすることがあります。

もし、この段階で注文者に万一のことがあれば、相続人は非常に難しい選択を迫られることになるでしょう。支払い済みの金銭を単純に放棄するわけにもいかず、それが自己資金でなく借りたお金だったなら返済のことも考えなければなりません。

建築工事中の一戸建て住宅

建築途中に万一のことがあったら、白紙解除というわけにはいかない

さらに、その敷地を購入するときにつなぎ融資や他のローンを借りていた場合には、その分の団体信用生命保険(団信)もないため、相続人はそれらの返済も考えなければならなくなります。

いざというときに使えるはずの団信は、あくまでも住宅が完成し正式な住宅ローン融資が実行されてから適用されるものなのです。

新築住宅や中古住宅を購入する場合には、売主に譲歩してもらい合意による白紙解除とするか、最悪でも手付金の放棄などで済むことが大半でしょう。

ところが、注文住宅の場合には(建築工事がどの段階かにもよりますが)建築資材の仕入れ代金や、それなりの人件費がすでにかかっているため、どんなに理解のある工務店やハウスメーカーでも、まったくの白紙解除というのは難しいケースが多いのです。

残りの代金を相続人が支払って、そのまま住宅を完成させることができれば、そこに相続人が住むか、第三者に売却するか、といった選択肢も生まれます。

しかし、それができなければ最悪の場合、支払ったお金がまったく戻らないばかりか、土地や建物に関する権利をすべて放棄しなければならなくなってしまいます。

そのうえで、さらに職人の人件費分などを追加請求されることもあるでしょう。

万一の事態を想定すると、建築工事請負契約を締結してから竣工・引き渡し(住宅ローンの融資実行)までは、極めてリスクの高い期間だともいえますから、不慮の事故などに巻き込まれないよう十分に注意しなければなりません。


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