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父の日ウイスキー/息子に託すブレンダー魂

もうすぐ父の日。皆さんに知っていただきたい物語がある。父と息子がふたりで創造したウイスキーの話だ。読まれてもし興味を抱かれたのなら、その気品ある香味を、是非とも試していただきたい。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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父が子に伝えるウイスキーの香味

椎尾神社の鳥居と桜
椎尾神社の鳥居と桜。ローヤル香味開発のイメージとなった(撮影/川田雅宏)
「もの言わぬ原酒と会話できるようにならないと、一人前のブレンダーとはいえぬ」
それが老爺の口癖である。だが老爺はブレンドについて何も教えはしない。だから息子も教えられて覚えるものではない、と若い頃から理解し、貯蔵庫に入り原酒を知り、研究室で試行錯誤を繰り返してブレンドを追求してきていた。
その時、80歳を超えた老爺には熟成香に満ちた暗い貯蔵庫を歩きまわり、ひと樽ひと樽を吟味し、モルト原酒をサンプリングする体力は残っていなかった。麗しいウイスキーを生む気力と香味イメージ、そして類い稀な嗅覚だけが彼の拠り所だった。だが体力がなくてもそれで十分といえた。
長時間にわたるブレンド作業は若い肉体をもってしても過酷だ。息子は老いた父の最後の仕事になることがわかっていた。息子は父に代わり現場の責任者であるチーフブレンダーとともに良質のモルト原酒を集め、厳選、さらに吟味する。
老爺が開発しようとしている香味イメージは、蒸溜所敷地内奥にある神社の鳥居にかかる桜が風に舞う姿、桜吹雪であった。
息子は吟味した原酒から試作品をつくり、父親に提示する。父は天与の才とまで謳われた嗅覚、官能能力でテイスティングする。そして息子に厳しい指示を出す。父に妥協はない。息子は父が満ち足りた顔を見せるまで、繰り返し試作をつづける。父は息子のその執念に自分の跡を継ぐ、二代目マスターブレンダーの姿を見出していたのだが、一切口には出さない。
テイスティンググラスを手にノージングした父の厳しい表情がついに一転し、好々爺の優しい目となる時がきた。老爺はしみじみと呟く。
「ええなぁ、桜吹雪が目に浮かぶ香りや」

ボトルデザインにも意図があるローヤル

サントリーローヤル
サントリーローヤル 700ml/43%/¥3,000
ブレンデッドウイスキー、ローヤルはサントリー(当時寿屋)創業60周年の翌年、1960年にそれを記念する作品として誕生した。日本の本格ウイスキーの創始者で、ジャパニーズウイスキーの香味を探求しつづけた鳥井信治郎の遺作だ。角瓶、オールドを誕生させた名ブレンダーの最後の傑作である。
ユニークなボトル形状は酒の字のつくり、酉をかたどったもの。酉は干支の10番目のトリだが、この字には酒器や酒壷の意味もある。上部のカーブを描くガラス笠コルク栓部分は、山崎蒸溜所敷地内にある椎尾神社の鳥居を表現している。信治郎の鳥井と神社の鳥居をかけたものだ。
61年、信治郎は社長とマスターブレンダーの座を息子、佐治敬三に託す。そして1962年、ウイスキーに賭けた生涯に満足したかのように、鳥井信治郎逝く。享年83歳。

ローヤルは甘く華やかな香り、柔らかい口あたりが特長。いま山崎ホワイトオークのパンチョン樽原酒と白州竹炭濾過原酒をキーモルトに、上質な気品あふれる味わいを継承しつづけている。
もうすぐ父の日。ローヤルの一瓶には信治郎と敬三のこんな父子物語がある。

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