熟成にはピークがある
ブレンダーは一樽ずつ集められた原酒サンプルをチェックする(撮影/川田雅宏) |
旨いっていう基準には個人差があり、また見方というか味わい方で旨味の基準は変わってくる。同じ旨いでも、少量で十分であり、杯を重ねるにはしつこいってのもあれば、毎日飽きない旨さもある。
ウイスキーに関していえば、貯蔵熟成期間に比例して熟成進度は増し、味わいはまろやかになり深みもでてくる。ただ熟成にはピークがあり、それを過ぎれば少しずつまろやかさや深みは失われていく、というか損なわれていく。香味バランスが崩れていくのだ。
かつて酒齢を人間にたとえて語ったことがあるが、若くてキックの利いたしなやかな味わい、年月を経た円熟味、老いてリッチな伸びはないものの枯れた味わいと、それなりに面白味、旨味は異なる。悪くいえば、若さは荒々しさになるし、老いはしなびた精気のなさを感じさせる。
一般的にみれば、12年が分岐点となるだろう。ブレンダーは6年、10年、12年といったふうに一樽一樽の原酒をチェックしながらピークを見極める。それは原酒のつくり込みや樽材や樽の大きさ、貯蔵庫の環境、新樽か何回目の使用かなどいろんな条件が作用して熟成のピークは一様でないからだ。12年を目安にまだまだ熟成が進む樽の原酒を見極め、18年、25年、30年ものといった長期熟成製品が生まれる。
ただそれらは、ブレンダーだけでなく貯蔵を見守る庫人(くらびと)たちの厳しい管理があってのことで、超長期熟成原酒というのはつくり込んだ原酒の数%の世界であり、まったくもって稀少なものである。
つまりウイスキーの品質や旨さに関して、長く寝かせればいい、ってことはなかなか言いづらい。10年でピークを迎えるものもあれば、12年、15年が盛りのものもある。
かつてわたしはザ・マッカランの12年より10年の若さのほうを好んだ時期がある。ちょっとカツンとくるほうがおいしく感じたのだ。あるいは12年を飲み過ぎて、飽きてしまっていたともいえるだろう。そのうち10年からも遠ざかってしまった時期もあった。赤ワインを飲み過ぎていて、タンニンをぐぐっと感じる味わいを敬遠していたのかもしれない。
旨さの感じ方ってのは一様じゃないんだな。
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