酒棚にN.Y.を思い返す
『鮮や吟蔵』の住所は代々木だが、訪ねるならJR新宿駅南口から向かうと非常に近い。ビルの3階。エレベーターの扉が開くとそこがもう店内だ。一歩踏み入れると、いきなり酒棚と長い直線的なカウンターが目に飛び込んでくる。とくに酒棚はインパクトがある。
上/酒棚が圧巻なカウンター。下/垂水温泉水とシングルモルト。水の足しようによって味が変化する。 |
そこはウェイティングバーとアフターディナーの本格バーのふたつがあった。日本ではちょっとお目にかかれないようなスシ・ロールなんぞ食べた後、アンドリューというマネージャーが「とにかくバーを見てくれ」と無理矢理席を立たせ、私を案内した。
たしか地下だったと思う。黒で統一されたオーセンティックなつくりのそのバーのボトル棚は、なんとすべて日本酒の一升瓶で埋まっていた。アンドリューは「どうだ」と言わんばかりの得意気な顔を日本人の私に向けた。
ニューヨーカーたちは、カウンターやソファー席でウイスキーやワインを愉しむように日本酒を飲み、語り合っていた。その光景を思い出したのだ。
ただし『鮮や吟蔵』の酒棚には日本酒はない。酒棚に120本以上はあろうかという一升瓶はすべて焼酎で、日本酒は純米のカップ酒が12種あるのみ。焼酎の品揃えは現在170本以上を数えるというからなんとも凄い。
垂水温泉水でウイスキーを愉しむ
そんな中でシングルモルトウイスキーがポジションを獲得しているから面白い。カウンターの真ん中あたりにシングルモルトが置かれているのだ。「ワインブームからこっち、頭の中で飲む人が多くなりました。おいしい食を愉しみながら、いろいろなお酒を試してみていただきたいし、またひとつの酒の味を追求してみてもいい」
そう語るマネージャーの船木孝宏氏がウイスキーをすすめる。船木氏はかつてバーテンダーをしていた。だからシングルモルトの香味の世界もよく知っている。固定観念をここでは捨て、酒と食の愉しみを広げて欲しいと願っているようだ。(次頁へつづく)