次にロバート・ヒックス氏。30年以上の経験と実績のある、当代随一のブレンダーといわれている。
この人もちょっと見はとっつきにくそうだが、実はとても和やかで気さくだ。会話も愉しい。
『バランタイン17年』の原酒のひとつひとつについて語ってくれる時のたとえが面白い。わずかしかブレンドされない隠し味の『ラフロイグ』を家を暖める“暖炉”と表現したり、ポテトを茹でる時の“ひと塩”と言ったりもする。
ブレンド経験のないシロウトに、身近なものにたとえて語ってくれる。
ヒックス氏は叩き上げだ。製造工程のあらゆる部署で仕事をし、ウイスキーづくりを経験した上で、先代のマスターブレンダー、ジャック・ガウディ氏の弟子となった。
15年ぐらい前、私はガウディ氏のことをいろいろと書いた思い出があるが、ここにきて師弟両者を見つめることとなった。おふたりの仕事ぶりを垣間見ると、ウイスキーづくりがいかに長期的スパンで取り組む仕事かを再認識する。
ウイスキーづくりの職人たちは未来を見つめた仕事をしている。仕込みから蒸溜まで、数日間で終わる仕事だが、製品になるのは何年も何十年も先だ。
ブレンダーも次代のブレンダーのために仕事をしているといっていい。蒸溜したてのニューポットをどんな樽に詰めて、どの貯蔵庫で熟成させるか、原酒管理にも目を光らせる。
既存製品の香味の維持、新製品の開発といういまの仕事だけではないのだ。
『バランタイン17年』はヨーロッパ市場で絶大な人気を誇る。日本でも確固たる地位を獲得しているが、この品質設計をヒックス氏は“フレーバー・パッケージ”という言葉で語る。
どういう意味を持つのか。1月24日発売の『Esquire』を読んで欲しい。
昨年秋、ヒックス氏が開発した『バランタイン12年』が発売された。それも味わってみて欲しい。