ブレンダーについて話そう。
昨年秋、わずかひと月ほどの間に3人のマスターブレンダーにインタビューする機会を得た。非常に意義ある時間だった。
その3人とは、ジョニー・ウォーカーのジム・ビバレッジ氏、バランタインのロバート・ヒックス氏、そしてサントリーの鳥井信吾副社長という、スコッチとジャパニーズを代表するマスターブレンダーである。
ジム・ビバリッジ氏とロバート・ヒックス氏の詳細に関しての記事は、1月24日発売の雑誌『Esquire』で発表するので、そちらをご覧いただきたい。ここでは3人の印象について語る。
まずジム・ビバリッジ氏。世界で最も売れているジョニー・ウォーカーのマスターブレンダーだ。
ジョニ赤が単一銘柄ではNo.1だが、12年もののジョニ黒にも根強いファンがいる。ビバリッジ氏はそれらの伝統的な香味の品質維持を担いながら、『ジョニー・ウォーカー・ブルー・ラベル』を開発した。
非常にシャイであるが、スコティッシュ特有の芯の強さを感じさせる人だ。一見、化学者風だが、話を聞くとその通りだった。
企業本体のディアジオ社、グレノチル研究所で分析化学者として彼はスタートを切る。モルトや穀物アルコールの特性の研究に従事した。そしてウイスキーの神秘を解明しようと、蒸溜所とブレンダー室で長い年月を過ごす。
とくに蒸溜と熟成の研究プロジェクトで工程開発チームと共同作業を進めることで、ブレンディングの資質を開花させた。
物静かな学者タイプのビバリッジ氏が、新世代ブレンダーとして注目を浴びているのはこうした経歴があるからだ。
学者タイプを強く意識させたのは、こちらが突っ込んだ質問をするとすぐにペンを取り、図を描いて極めてわかりやすく説明する姿にあった。
たとえば熟成のメカニズム。フレーバーと樽貯蔵年数の相関関係をグラフ化し、熟成によってどうフレーバーが変化するのかを教えてくれる。こんなに端的に伝えてくれた人は彼がはじめてだった。
ビバリッジ氏が手がけた『ブルー・ラベル』は、非常にレアな、古酒ともいえるモルトをブレンドしたもので、日本では確か定価¥18,000ではないかと思う。洋なしの香りから焼いたリンゴのような香りに変化し、やがてナッティで深く樽熟成したバニラ香が感じられる。その複雑なフレーバーの層は柔らかな酔い心地へと導く。
原酒のブレンド数は16と少ないが、いかに長熟で高品質なモルトを使っているかがわかる。