圧倒的な存在感の鶏スープ
「そろそろ水炊きをお持ちしてよろしいでしょうか?」お座敷係さんのそんな合図で、鍋が運ばれてきました。水炊きといえば、通常お湯に鶏肉や野菜を入れポン酢でいただく料理ですが、鍋を満たしているのは乳白色のスープ。これこそ、この店を名店たらしめている要の味なのです。
まずは、そのスープを一口。まるで鶏の滋養と栄養と旨味をギュッと凝縮させたかのような味わいに感動すら覚えました。ミルクのようなクリーミーなコクがありながら、味わいには濁りがまったくありません。胃の隅々にまでじんわり染み込んでいきます。
このスープはみちのく阿武隈の大地で放し飼いにされた鶏を大鍋で5時間以上かけて炊き上げたもの。厨房には専用の大釜がありました。蓋を開けるとモウモウと立ち上る湯気。強火で炊き上げることにより、骨の髄からも旨味を絞りとるのです。
鶏とスープをダイレクトに味わう
さて、この鍋。具はぶつ切りにされた鶏肉のみというシンプルなもの。野菜類はいれないの? ふと疑問を感じて社長の落合さんにお話をうかがいました。「野菜を入れても美味しいとは思いますが、野菜の味がスープに移ってしまいます。ウチではやっぱり鶏の旨味とスープの味をダイレクトに味わって欲しいのでこのスタイルを守っているんです」なるほど、直球勝負ってわけですね! まろやかな酸味のポン酢に落として、鶏肉にかぶりつきました。舌の上でホロリとほどける柔らかさがありながらも、弾力もたっぷり。放し飼いにして、しっかりとした筋肉がついた鶏でなければこの食感は生み出せません。そして、驚いたのは肉からにじみ出る力強い旨味。肉がスープを吸い込んで、その旨味が相乗効果で膨らんでいます。この味は他の店では食べられません。この鍋を一口食べれば、老舗と言われる所以がきっとお分かりいただけると思います。
さて、シメはこの鶏スープを使った雑炊。
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