一番大事にしている想い、そこに至る過程 |
今やパン職人で西川さんの名を知らない人はいないでしょう。
かつて、フランスの新聞記者でグルメ評論家のフランソワ・シモン氏が雑誌BRUTUS誌上で日本のバゲット、パン・ド・カンパーニュ、クロワッサンのランキングをした時、コム・シノワが3部門全てで関西の1位に選ばれたこともありました。
西川:僕はひとが言うほどすごくないですよ。
いろいろな食材の使い方とか想いとか、 今まで会った人たちの影響受けているだけで、自分のものはまだ作ることができていないから。
何十年もかかってやっと自分らしいものが生まれてくるのだと思います。
生まれてこない人もいるでしょうけれどね。
こうばしいパンビオロジックは自家製のぶどう酵母のカンパーニュ
清水:わたしたちにはコムシノワらしいと思えるものがある気がしても、まだなのですね。今はひとつの過程ですか?
西川:過程です。徐々に作られてきているとは思います。
今朝来て見てもらった菓子パンとかありますよね?あれ、どんどん変わってるんですよ。 デザインとかじゃなくて、その根本的な菓子パンに対する想いとか、どんどん変わってます。
今一番大事にしているのは、いつまでも美味しく食べられるもの、 長く付き合ってもらえるようなパンを作らないとな、ということです。
清水:すぐ商品が変わってしまうのではなく、ずっと定番としてあるということですか?
皮がさっくりして中は柔らかいバゲットコム・シノワ
西川:人みたいなものですよね。人で言えば、成長していくに従って住む場所、着ているもの、環境は違ってくる。 でもその人の持っている人間性は変わらない。大金持ちになっても素朴な人、というところが変わっていない。 根本の性格が変わらないから、いつまでもつきあっていける、というような。
バゲットだったら、いつまでも楽しんでもらえるようなバゲットの味とか食感とか、そういうものを磨かないかんな、とね。
ようは最終的に出てくる言葉が、「わたしはこのパンに育てられた」みたいな。「わたしはここのこのパンで育った、昔から食べていた、今も食べている。」というような。そういうパンをつくらなあかんな。
コム・シノワオリジナルの天草みかんジャムは濃いみかんの味。
(トーストはフロイン堂の山食)
わたしはこの取材前に訪れた岡本のフロイン堂のことを思い出しました。
手でこね薪で焼く正真正銘「手作り」パンの店は三代続いています。
西川さんはそこでパン焼きを勉強させてもらったことがあるのだそうです。
清水:フロイン堂さんのような?
西川:そうです。まったく。ただね、昔のまま続くということではなく、今の時代に合わせて少しずつ変えてきたパンです。
子供の頃食べた思い出が蘇ってくるような、そういうものをね。
Vol.1
Vol.2
1.料理人の中ではぐくまれたもの
2.一番大事にしている想い、そこに至る過程
3.バランスを意識して変わり行くパン
Vol.3