ハンドバッグの飾りを靴に応用

Late80’sビットモカシン
こちらは1980年代終盤のグッチのビットモカシンです。金属飾りが艶消しゴールドというのが、微妙な色合いが流行ったこの時代らしい! ヒールの高さも2cmと、70年代のものに比べ相当低いものが付いています。


ビットモカシンとは、甲の部分に馬具の轡はみ(Horse Bit)を模した金属飾りが付いたスリッポンのこと。他社からも似たようなものが数多く出ているのですが、オリジネーターであるイタリアのラグジュアリーブランド・グッチ(Gucci)のものが、やはり突出して有名です。なので今回の記事も、このグッチのものに特に限定して記載し、考察してゆくことにします。

グッチがこのビットモカシンを初めて世に出したのは、第二次大戦での惨敗からイタリアが漸く立ち直りだした1953年です。ただ、これは創業85周年記念絡みで2006年に発刊された社史的写真集”Gucci By Gucci”にて漸く出た公式見解で、それまでは欧米の著名な文献でも、同社創業直後の1920年代から1960年代中盤まで、誕生年は不思議なことに諸説が入り乱れていました。因みにこの写真集に依れば、同社のレディスのハンドバッグに付けられだした金属飾りを、メンズでは靴の飾りとして取り入れたとのこと。女性のハンドバッグに男性の靴と、心理学的観点からも極めて直截的な展開だったわけで、結構誤解されますが靴はメンズの方が先、婦人靴での登場は1968年まで待たねばなりません(実はこれも諸説あるのですが……)。

1921年の創業当初からイメージ戦略に大変長けていたグッチは、この靴も発売当初からフレッド・アステアなど当時の著名なハリウッド男優に履いてもらうことを通じ、「大人の男性が履いても、子供っぽく見えないカジュアルスリッポン」として、同社の大黒柱に育て上げます。人気が爆発したのは西ヨーロッパ以上にアメリカで、1970年代後半のニューヨークには、靴だけを扱う同社直営店もあったほど。彼の地では一種のステータスシンボルとみなされるようになったのです。そういえばその頃製作されたアメリカ映画「クレイマー、クレイマー」でも、ダスティン・ホフマン演ずる仕事一徹で女房に見捨てられた父親が子供と遊ぶシーンで履いていたのは、この靴だったよなぁ……


次のページでは、この靴が背負うことになった「宿命」について、少し深く考えてみます!