なかでも梅雨時、そして秋の長雨の季節になると発生する、※黒星病(ブラック・スポット、黒点病とも)は、露地植えバラの宿命ともいえる病気で、なかなか根絶することができない厄介なものです。今回はこの黒星病の防除法と、「脱・石灰硫黄合剤」について考えてみましょう。
※バラの病気について調べると、「黒星病」とあったり「黒点病」となっていたりしますが、ここでは「黒星病」の方を採用しました。なお、他の植物にも黒星病がありますが、バラの黒星病はバラ同士でしか感染せず、他の黒星病とは区別されます。
<目次>
バラの黒星病ってどんな病気?
【発生時期】発病には雨などの水滴と20度前後の温度が必要で、梅雨時や秋の長雨など長時間葉が濡れた状態になったときに多く発生します。
【症状】
葉(稀に葉柄や茎にも発生)に淡褐色~黒色の斑点ができて広がり、次第に葉が黄色く変色して、やがて下の方の葉からポロポロと落ちてきます。酷い時には葉が全て落ちて丸坊主になり、樹勢が衰えて枯死に至ることもあります。
【原因】
バラの黒星病の病原は、糸状菌というカビの仲間です。菌は、水滴によって葉に入り込み、発病します。 一度発病すると、病葉の菌は落ちた葉にも存在してそのまま越冬するため、翌年もそこから菌が飛散して伝染します。
バラの黒星病の予防・発病後の対処方法
【予防策】雨の跳ね返りによる感染を防ぐため、株元にマルチングを施します。
風通しが悪いと雨後に葉が乾きにくいので、込んでいる枝を間引くなどして、風通しを良くします。
水やりをする場合は、葉に水がかからないようにします。また、株元からの水はねにも注意しましょう。
ハダニ防止で葉にシリンジする場合は、短時間で乾く程度に加減します。
肥料はチッ素を控えて、リン酸、カリの多い肥料を与えるのも効果があるとされています。 また、耐病性のある品種を選ぶことも予防策となります。
【発病後の対策】
病葉には菌が存在するので、全て取り除きます。落ちた葉からも雨の跳ね返りなどで菌が飛散するので、全て掻き集めて処分します。
マルチングの上に病葉が落ちた場合は、マルチ資材を取り替えて、株元を常に清潔に保ちます。
バラの黒星病の予防・治療のための薬剤
現在バラにおける黒星病の防除には前項で挙げた方法の他に、薬効の認められる農薬を散布して予防と治療を行うという方法が一般的です。特に梅雨時は病害虫が発生しやすいので、7日~10日に1回くらいの割合で散布すると効果的とされています。
参考までに、以下にバラの黒星病防除によく用いられている薬剤を挙げてみました。
▼希釈タイプ
薬剤名 | 希釈倍率 | 使用回数 |
---|---|---|
オーソサイド水和剤 | 800倍 | - |
サニパー | 600倍 | 8回以内 |
サプロール乳剤 | 1000倍 | 5回以内 |
ジマンダイセン水和剤 | 400~600倍 | 8回以内 |
ダコニール1000 | 1000倍 | 6回以内 |
トップジンMゾル | 1000倍 | 5回以内 |
ビスダイセン水和剤 | 400~600倍 | 8回以内 |
ベンレート水和剤 | 2000~3000倍 | 6回以内 |
マネージ乳剤 | 500~1000倍 | 6回以内 |
マンネブダイセン水和剤 | 400~600倍 | 8回以内 |
▼そのまま使えるタイプ
薬剤名 | 備考 |
---|---|
オルトランC | "オルトラン+スミチオン+サプロール |
の殺虫殺菌エアゾール剤" | |
トップジンMスプレー | "殺菌スプレー剤 |
(使用回数5回以内)" | |
ベニカX | 殺虫殺菌のエアゾール剤 |
ベニカXスプレー | 殺虫殺菌のスプレー剤 |
ベニカDX | 殺虫殺菌のエアゾール剤 |
※エアゾール剤は充填された液化ガスの圧力で内容物を噴霧するもので、植物に近いところでスプレーすると冷害を起こすことがあるので、必ず30センチ以上離してスプレーするように注意しましょう。
バラの黒星病における薬剤使用の注意点
前項で挙げた薬剤は毒性において「普通物(毒劇物に該当しないものを指す)」となっていて、正しく使用すれば問題ないものとされていますが、人によっては皮膚のかぶれや過敏反応を起こすこともあります。皮膚についたり目に入ったりすることがないよう、ゴーグルやマスク、帽子、手袋などを着用し皮膚が露出しないようにしましょう。使用の前には各薬剤の説明書・注意書きをよく読み、その用法・用量(希釈倍率も含む)・回数に従って使用します。なお希釈液は、その都度使いきれる量だけ作るようにします。
薬剤散布にあたっては飛散防止のため無風の日か、目安として風速3m/秒(木の葉が揺れたり、顔に風を感じる程度の風)以下で行います。また、薬害が出やすい気温の高くなる時間帯は避けましょう。
黒星病の予防には、雨の前後に殺菌剤を株全体にムラ無く散布します。
なお同じ薬剤を連続して使用していると、病害虫に耐性(抵抗力)ができて、薬剤が効きにくくなることがあります。サプロールはこの耐性がつきやすいのですが、耐性がつきにくいダコニールと交互に使用することで、耐性がつきにくくなります。
石灰硫黄合剤の危険性を解説
2002年のガイド記事【きれいなバラを咲かせたい!】の中で、石灰硫黄合剤についてご紹介しました。多くの園芸本の中にも、殺虫・殺菌を目的とした冬期の石灰硫黄合剤散布について記載されています。私自身もそれにならって冬期の消毒に何年か使用しましたが、そこで感じたのは「この薬剤はそう簡単に気軽に使えるものではないな……」ということです。まず石灰硫黄合剤の特性として、強アルカリ性であることが挙げられます。このため薬剤が付着した金属は腐蝕してしまいます。もちろん金属製の噴霧器は使えませんし、散布した薬剤が金属部につかないよう、他の薬剤以上に風向きなどに注意が必要です。
当然のことながら、自分自身に薬剤がかからないようにすることも忘れてはいけません。必然的に、他の薬剤散布のとき以上に重装備となります。刷毛による塗布でも、気を抜くと飛び散ることがあるので、散布同様に注意が必要です。
また、その独特の臭いにも問題があります。一度でも使用したことのある方ならおわかりと思いますが、「硫黄」の名がつく通り、よく言えば温泉の匂い、悪く言えば卵の腐ったような……そんな臭いです。住宅密集地での散布は、ヘタをするとご近所迷惑になりかねません。
それともう一つ、これはユーザーの方からいただいたご意見ですが、「バラへの石灰硫黄合剤の使用は、適用外使用ではないのか?」という点です。
農薬は、安全性など試験を行った上で、その成分や毒性のほか適用する作物名、病害虫名、目的などを農林水産省に登録することと定められています。登録されていない薬剤は「無登録農薬」といい、販売・使用が厳しく規制されています。
また登録農薬において、登録された適用作物以外に農薬を使用することを「適用外使用」といいます。
2003年に改正農薬取締法が施行され、農薬製造・輸入・販売・使用者すべてを対象に農薬使用基準の遵守が求められるようになりました。その中に「適用農作物等の範囲に含まれない食用農作物等に当該農薬を使用しないこと」という一文があります。
バラは一般的に非食用とみなされますから、いまのところこれによって直ちに罰則が科せられるようなことはありませんが、今後どうなるかはまだわかりません。こういった点からも、手間はかかるかもしれませんが、そろそろ「脱・石灰硫黄合剤」を考えてみてもいいのではないかと思った次第です。
なお先ほど挙げた一般的に用いられている農薬については、全てバラの黒星病が適用となっています。ただし、農薬に関しては環境ホルモン等の懸念も有り、やはりできるだけ使用は避けたいというのが多くの方の本音ではないかと思います。
農薬を使わないでバラの黒星病を防除できる?
さて、ここまでバラの黒星病に対する防除法などをご紹介してきましたが、知れば知るほどに「できれば農薬は使いたくないなぁ」という思いが募るガイドですが、皆さんはいかがでしょう。また、バラ通で知られる方にバラ栽培について伺ってみると、多くの方が「オススメ!」と口にされるものに「緑豊」と「碧露」があります。この二つについては【農薬ギライのためのバラ作りのページ】の中でも紹介されていますが、植物自身による自己防衛の力を活用した「植物保護液」で、化学農薬に変わる漢方農薬とも言われています。この商品はその殺菌・殺虫効果により、黒星病だけでなくバラに発生する様々な病害虫防除に適用できるとされています。
化学農薬ではなく抗菌・殺菌・害虫忌避・殺虫などの効果が期待できるものとしては、この他に「木酢液」、海草が原料の「ピカコー」、カニ甲羅が原料の「キトサン液」、「ニーム・オイル」といった名前を挙げるバラ通もいます。
「緑豊」以下これら商品に関しては、私自身まだ検証ができていないのでここでのコメントは差し控えます。ある程度の結果が得られましたら、またの機会に取り上げたいと思います。
バラの黒星病に限らず、病害虫の最大の予防策はやはり日頃の観察にあるのではないかと思います。早期発見が肝心なのは、人も植物も一緒というわけですね。
また、無農薬にこだわりすぎて病気が蔓延してしまうのは、薬を飲まずに風邪をこじらせ大病になるのと似ています。時と場合によっては、農薬の力を借りて病気を初期段階でシャットアウトする事も必要でしょう。この辺は、臨機応変に対処したいですね。
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