蛇・爬虫類の脱皮の理由!
爬虫類の脱皮の理由
今回は、特に爬虫類飼育では重要なバロメータになる「脱皮」に関して考えてみます!
蛇や爬虫類の脱皮とは? 爬虫類の皮膚
まず、爬虫類にとって脱皮とは何かを確認してみましょう。爬虫類の脱皮は、一般的なイメージとして「成長して体が大きくなったから、皮膚がきつくなって、それを脱ぐ」という感じですが、ちょっとソレとは違います。
一番わかりやすく言えば、私たちの「垢(あか)」と同じです。つまり我々人間が「成長するから、垢を落とす」わけではないのと同じように、両爬も必ずしも「成長するから脱皮する」ということではありません。
私たち人間も含めて、動物の皮膚は「真皮」と「表皮」に分かれています。
表皮は、外界からの刺激から体を守るためにあるもので、特に両生類と爬虫類では「乾燥」に耐えるかどうかで表皮の構造に違いがあります。
この表皮は、硬質のタンパク質である「ケラチン」を分泌してます。表皮の一番外側の細胞はケラチンを大量に含むことで死んで、ケラチンの層を作って表皮を覆ってその下の真皮を守ります。このケラチンの層が角質層です。ちなみにケラチンは、私たち人間の毛髪や爪にも多く含まれています。
このケラチンの分泌は、カメやワニの場合は継続的に行われていますが、両生類やトカゲ、ヘビの場合、分泌に休眠期間があります。
つまり
「ケラチン分泌」→「角質層形成」→「ケラチン分泌休眠」→「ケラチン分泌」→「角質層形成」→・・・
となるわけです。ですから、古い角質層と新しい角質層は連続しないため、間に空間ができてしまいます。その空間から古い角質層が浮いてとれるのが「脱皮」というわけです。
カメやワニは、ケラチンの分泌の休眠期間がないため、ヘビやトカゲのような脱皮にはならないのです。
ただ、カメの場合はケラチンの分泌量に季節による変動があるため、甲板にいわゆる「年輪」ができる場合が多く、年齢を知ることに利用されます。
ただし、いつまでも古くなった角質層に覆われているわけにもいきませんから、ときどき甲板やワニの場合はウロコがポロリとはげ落ちるわけです。もちろん、健全な証拠ですので心配する必要はありません。
私たち人間の「垢」も表皮の古い角質がはげ落ちてきたものですから、両爬の脱皮とそういう意味では同じということになります。
このように、「古いモノと新しいモノが入れ替わる」という体の現象を「新陳代謝」と言いますが、両爬の脱皮はまさに「新陳代謝」というわけです。ですから正常な脱皮は、正常な新陳代謝をしている証拠、という意味で、両爬の脱皮は健康のバロメータと言えるわけです。
サキシマスジオの脱皮 |
爬虫類の脱皮の頻度
よく、受ける質問なのですが、脱皮の頻度というのは何か決まりがあるのでしょうか?おそらく、彼らの中の何らかの因子の都合という決まりはあるのでしょうが、まだよくわかっていません。
したがって、結論を言えば、脱皮の頻度にルールはありません。
ただし、その個体に適した環境で理想的な成長ができる飼育をしてあげると、ヘビやヤモリの仲間は、比較的決まった周期で脱皮することが多いようです。
よく聞くのは、幼体時のヘビで2週間に1回の割合で脱皮するとかです。
逆に、パイソンの成体などのように大型の個体の場合は1年に1回しか脱皮しないようなこともあります。
ですから、脱皮の頻度というのは、それほど気にするコトではないように思えますが、不健全な脱皮を、不定期に行うよりも、健全な脱皮を定期的に行っている方が、こちらの精神衛生上もいいわけです。
やはり普段の観察から、脱皮の記録をつけて、その個体の個性を把握しておくことは良いに越したことではありません。
爬虫類の脱皮不全
このように、飼育においても重要な脱皮ですが、しばしば私たち飼育者を冷や冷やさせるのが「脱皮不全」です。つまり、理想的でない脱皮のことです。
どのような脱皮が理想的かは、以降で詳しく説明するとして、一般的な脱皮不全は
・ヘビの場合・・・脱皮した皮が細かい断片になっている。また、その断片が脱皮後の体表にくっついたままになっている。
・ヤモリの場合・・・目の周囲に脱皮した皮の断片が残っている。体全体を脱皮した皮が体表から浮いてかぶさっている状態が続いている。指先に脱皮した皮が残ってしまっている。
・トカゲの場合・・・指先に脱皮した皮が残ってしまっている。
・両生類の場合・・・脱皮した皮が、糸のようになり、いつまでも体に引っかかっている。
このような脱皮不全を見たら、二つの側面から、この事実を受け止める必要があります。
つまり、
・飼育環境が原因となって脱皮不全になり、脱皮不全から個体の健康に影響が出る
ということと、逆に
・個体が病気などになっていて、それが原因で脱皮不全になった
の二つです。
もちろん、両者は「環境が不適切だから、体調を崩して脱皮不全になる」ということもあり明確に区別ができるわけではありません。
前者の場合は、「捨て去るべきものが、捨て去られないので体に影響が出る」と考えれば良いでしょう。
ヘビやヤモリの場合には、いつまでも脱皮の皮が付着していると、その部分の血行が悪くなったりして、そこから皮膚がただれたりしてしまうようなことがあります。また、そこから次の脱皮不全になってしまうことも多いです。
さらに、四肢や指先に脱皮の皮がくっついたままだと、それがリング状に残って、その部分から先が血行不良になって壊死してしまうことがあります。
ヤモリ以外のトカゲは、数本の指がそれでなくなっても、あまり影響がないようですが、ヤモリの場合は、指先の指下薄板(いわゆる「吸盤」)は非常に重要ですから、それの欠損はかなりのストレスになります。
また壊死しなかったとしても、指下薄板に脱皮の皮が残ると、その機能が失われてしまって壁を登ることができなくなって行動が制限され大きなストレスになります。
また両生類は皮膚呼吸も行っていますので、それが妨げられてしまいます。さらに脱皮した皮が腐敗しますので、生体に大きなダメージを与えることになります。
一方、後者の場合は、脱皮不全は彼らのSOSサインととることができます。
もちろん、すでに病気等になっているわけですから、かなり衰弱していますので、手遅れである場合がほとんどです。
特にヤモリや有尾類は、脱皮不全の症状の後に絶命してしまう例が多く見られます。
では、次にグループ別に、簡単に「理想的な脱皮」を見ていきましょう。
爬虫類のグループ別の理想的な脱皮
・カメとワニ・・・先述したようにカメやワニは全身の皮がベロリと剥けることはありません。カメの場合は甲板の一枚一枚が、ワニの場合はウロコがポロポロと取れて、水底に沈んでいるような状態は正常な状態と言えるでしょう。
ワニの鱗の脱皮殻 |
頭の先から尾の先までキレイにヘビの形になっているような脱皮の皮が理想的です。
まず脱皮の一週間前くらいからエサを食わなくなりじっとしていることが多くなります。それと同時に、目が白く濁り、全身につやがなくなり、乾いたような感じになります。
脱皮前の目の白濁 |
ヘビやヤモリは「まぶた」がない代わりに、目にコンタクトレンズのような大きな透明の鱗が被さっています。もちろんこれも脱皮しますので、脱皮殻にはまさにコンタクトレンズのような透明な鱗があります。
ヘビの頭部の脱皮殻・目の一枚鱗に注目 |
この経過は、ぜひ覚えておきましょう。
・ヤモリ・・・多くのヤモリは、まず全身にうっすらと膜をかけたような感じになって、色がくすみ、つやもなくなります。
その後、すぐに所々に亀裂が入り、脱皮の皮が浮き上がってきます。
ヤモリは、それを口を使って引っ張ったりしてどんどん取り去っていきます。古い皮は食べてしまうヤモリもいますが、多くはその皮は放置されます。
前述したように、ヤモリも目に鱗がありますので、脱皮殻にはコンタクトレンズのような鱗が確認できます。
・トカゲ・・・種類やグループによって脱皮の様子は異なりますが、あまりハッキリとした前兆はないのが普通です。
小型のスキンクの場合は、ヘビのように頭の先から全身の皮を一気に脱いで、脱ぎ散らかした靴下みたいな脱皮殻になることが多いようです。
それに対して、アガマやイグアナ、カメレオンの仲間は、ヤモリのように全身の皮が浮いてポロポロと細かい断片になって古い皮がとれていくのが普通です。特に、ヨロイトカゲなどのようにクレストやトゲ状の突起が多い種類は、そこにいつまでも脱皮の皮がくっついている残っていることも多いようですが、あまり問題はないようです。
私がオーストラリアの野生状態で捕まえたフトアゴヒゲトカゲも脱皮の皮がところどころにくっついたままでしたので。
トカゲ(グリーンアノール)の脱皮 |
カエル(アズマヒキガエル)の脱皮・自分の脱皮した皮を食べている |
さて、それでは、次にこのような理想的な脱皮をさせるためには、どうすればいいのかを考えてみましょう。
爬虫類にイイ脱皮をさせるために
もちろん、理想的な脱皮をさせるためには、何よりもその個体が健康でいられるように飼育をしていくことが重要なのですが、ここでは特にそれは大前提であるとして、脱皮のための環境作りを考えてみましょう。・カメ・・・カメの脱皮を「古い甲板の剥離」と考えるならば、水生のカメの場合は水深に注意をしてあげましょう。
脱皮の時の問題だけではないのですが、水深が浅すぎて、背甲の一部が常に水中に没せずに空気中に出てしまっている状態では、その部分が乾いてしまって古い甲板が張り付いてしまうようなことがあります。
・ヘビ・・・これを書くために、この記事を書いているようなものですが、ヘビには脱皮をしやすいような環境を準備してあげることは重要です。
ヘビは、脱皮をするときに吻端の皮を何かに引っかけて皮を脱いでいきます。ですから、飼育下でもそのような「脱皮のとっかかり」になるようなものを飼育容器内に設置する必要があります。
自然では木の枝、岩やコンクリート表面などを利用していますから、飼育容器内に流木、植木鉢の割ったものなどを置くといいでしょう。もちろん、あまり小さいモノでは役に立ちませんから、シェルターなどと兼用で設置するのが普通です。
植木鉢を利用したシェルター |
しかし、あまり水容器に入らない個体や、水容器を設置しても脱皮不全になってしまうような場合は、フタに穴を開けたタッパーウェアの中に湿らせてよく絞ったミズゴケを詰めた「ミズゴケタッパー」や「ウェットシェルター」を利用すると良いでしょう。
・トカゲやヤモリ・・・あまり特別な環境の設定は必要ないことが多いようですが、マメに霧吹きなどをして湿度を維持することが必要な場合が多いようです。また当然ですが、紫外線が必要な種類は、十分な紫外線を当てましょう。
・両生類・・・とにかく、清潔な環境で飼育をしてあげれば普通に脱皮をしていきます。
爬虫類の脱皮を手伝う
さて、トカゲの場合は前述したように、いつまでも脱皮殻が皮膚にくっついていたりして、気になって仕方ありませんよね。また、脱皮不全のヘビの皮をむく経験の持ち主ならば、はがすときの得も言われぬ快感は、ある意味「やみつき」になってしまうものです。
このように、人間の手で脱皮に手を貸す行為は、どうなんでしょうか?
もちろん、健康な時に人間が手を出すことは厳に慎むべきでしょう。下手なことをすると、彼らの皮膚に重大なキズを負わせてしまう危険性もありますから。
ただ、明らかに脱皮不全である場合は、速やかに皮はむいてあげる必要はあります。
基本的に、小さいモノをしっかりとつまめるピンセットや毛抜きなどで、脱皮殻をつまんで引っ張り、剥くことになります。この時に、あまり一気にやると、脱皮殻にくっついている皮膚まで傷つけることがありますから、ゆっくりとかつ速やかに剥きましょう。
皮膚からはがれるときに、不自然な抵抗がある場所や、そこを引っ張ると個体が過敏に反応してしまうような場所は無理をしてはいけません。機会を改めて行うべきです。
また、食用油などを、少したらしたりすると剥けやすくなることもありますが、剥がし終わったら拭き取ることも忘れないようにしましょう。
非常に、悩むというか勇気がいるのは、「ヘビやヤモリの目」でしょう。前述したように、ヘビやヤモリの目は大きな透明な鱗が被さっていて、これも脱皮します。
脱皮を手伝う場合は、これも剥ぐ必要があります。特に、ヘビの場合は目の鱗だけ脱皮不全になることがあります。
これも、ピンセットなどを使って剥ぐのですが、とにかく眼球を傷つけないように注意深く行いましょう。多くの場合、脱皮不全で目にくっついている古い鱗は、その周辺の皮も「ささくれ」のように目の周囲に残っています。これを上手につまんで引っ張ると目にくっついている古い鱗も取れます。この時の快感って言ったら、そりゃもう...
なお、爬虫類の脱皮不全防止用のスプレーなども販売されていますので、そんなのも利用するといいかもしれません。
爬虫類の脱皮殻の処理
さて、最後になりますが、脱皮した後の皮はどうしましょう?両生類や、ヤモリはその皮を食べてしまうことがありますが、ほとんどの爬虫類は脱皮した後の皮はそのまま放置されてしまいます。
脱皮殻は、古いとはいえ「タンパク質」ですから、そういうものを好む「ダニ」「カビ」などの温床になってしまいますから、速やかに捨てましょう。いや、私はなかなか実行できないんですけど...
特に、ヘビの脱皮殻は水容器に入ったままだと、あっという間にカビが生えます。さらに、時間が経つと、そこら中に張り付いて、かなり強くこすらないと剥がせなくなってしまいますから注意が必要です。
え?詳しいな、って?...スミマセン。ヘビの脱皮殻を片付けない悪いヤツです。私は。
脱皮殻は、新聞紙などにくるんで捨てることも忘れてはいけません。ゴミのビニール袋にそのまま入れたりすると、外から見えてしまって近所の方とのトラブルにつながります。
なお、ヘビの抜け殻は、一般の方が「縁起物」として欲しがることがあります。と言うか、売っている場合なんかがあります。何にしても、こんなに助かることはありませんから、そういう方にはバンバンあげましょう。
ただ、そんなん財布に入れたって、金なんか貯まりません。と言うか、むしろ私なんてコイツらのおかげで、お金は出ていく一方かと...
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