爬虫類飼育の際にはダニ対策を
今回の両爬飼育入門は、爬虫類の飼育に、文字通り「つきもの」である不快な「ダニ」に関してです。
ダニと爬虫類
爬虫類の飼育では、どうしてもダニの存在を無視することはできません。ダニはいろいろな形で、私たちの頭を悩ませますが、飼育に関しては次の二つの場合に特に気になってしまいます。・吸血性のダニ
時期にもよりますが、野外で採集したヘビなどには、ガッチリと食らいついて血を吸い、大きく膨らんでしまったダニがくっついている場合があります。また陸生あるいは半水生のカメなどにも多く見られます。沖縄の野外でセマルハコガメやリュウキュウヤマガメなどを観察すると、もうそれこそビッシリとダニがくっついていることがあり、軽いめまいに襲われてしまうようなこともしばしば...
・床材から発生するダニ
夏のように高温多湿の時期になると、不潔にしている床材はダニの温床になります。もちろん小さいので通常は目に見えませんが、黒っぽいヘビなどでは体表にいっぱい小さなダニがはっているのがはっきりと目で確認できるようなことがあります。
もう、ここまで書いて、体がムズムズしてきちゃいました...ダニについて調べれば調べるほど「人の毛穴に生息して皮脂を食べているダニがいる」とか、不愉快な事実が明らかになるし。
何にしても、とにかく爬虫類飼育ではいるよりは、いない方が気持ちいいことは間違いありません。
ダニ対策のためにまずはダニの生態を知ろう
爬虫類飼育において、ダニが私たちの敵とするならば、敵のことは多少知っておく必要があります。が、とにかくダニは種類も多く、その生態は多様であります。もちろん、爬虫類とダニの関係の研究も進んでいないため、これまた調べれば調べるほど、頭が混乱してしまいますので、とにかく簡単にダニという生物についてご紹介しておきましょう。
ダニの生物学的な分類上は「クモ形動物綱ダニ目」に属する動物たちを指し、日本では1700種以上(おそらく倍以上の種類がいる)が記録されています。
ご存じのようにとても小さな生き物で、最大でも数mmの体長しかありません。
土の中を中心に、地上のあらゆる環境に生息していて、中にはほとんど真空に近いような環境でも生きながらえることができる種類もいるとか。
ダニと言えば「刺す」あるいは「血を吸う」と思われがちですが、それは一部であり、その食性は植物食、雑食あるいは他のダニを捕食するように多様に分化しています。
・吸血性のダニ
吸血性のダニは、人体や畜産業に対して直接被害をもたらすわけですから、比較的研究もされています。特に人体に直接的な被害をもたらす可能性があるダニは数十種程度だと言われています。
その中でも、もっとも知られているのがマダニの仲間(マダニ亜目)のダニたちです。
そう、イヌなんかについている「豆」と見まごうばかりの、あのでっけー奴です。
野生の爬虫類に寄生しているのもコレです。
コイツらは屋外の草むらなどに住んでいて、獲物をじーっと待っています。
そこに動物が通りかかると、くっついてきて、あとは血を吸いやすそうな場所を探して、皮膚の上を徘徊していきます。吸血に都合が良さそうな場所を見つけると「皮膚を切り裂いて、自分の口を傷口に差し込んで」吸血を始めます...ひゃぁぁぁぁ...
ただしマダニ類は「卵」「幼虫」「若虫」「成虫」の4ステージがあり、卵以外のそれぞれのステージで一回ずつしか吸血しません。つまり幼虫が吸血したら、そのまま地面に落ちて脱皮をして若虫になり、若虫が新たな宿主を見つけて吸血。吸血し終わったら、また落ちて脱皮をして成虫に。成虫が新しい宿主から吸血したら、また落ちて交尾および産卵をして一生を終えます。つまり一生のうち3回しか吸血しないということです。
ただし、マダニ以外の吸血性のダニでは、何度も吸血するようです。
たとえば、イエダニは本来の宿主であるネズミ類から離れて人に寄生することもあるそうですし、鳥に寄生するワクモは、明るいうちは隠れていて、夜な夜な鳥にアタックをかけるとか...ひゃぁぁぁぁ...って、うちのラットは大丈夫なのか...ラット飼育やめようかな...
ツツガムシ病で有名なツツガムシの仲間は、マダニの仲間ではなくケダニ類です。ツツガムシは幼虫の時に一回だけ吸血をするそうです。
・吸血しないダニ
こちらは前に書いたように、さまざまな生態です。
とにかく家の中だけでも、たくさんのダニがいます。雑食性のチリダニやホコリダニの仲間が多く餌になるような有機物が多く、湿度が高い場所に発生します。
ちなみに我が家では、夏になると特にマウスの飼育ケージに夥しい量の、この仲間のダニが大量に発生します。もうね、ほんとにたくさん。思い出すのも鳥肌モノです。
ダニに噛まれたことによって発生する害
さて、害虫の代名詞のようなダニですが、感覚的なモノは別にして爬虫類飼育では具体的に、どのような害が考えられるでしょう。・吸血による衰弱
マダニ類の成虫では、ダニの体重の200倍もの血液を吸血すると言われます。万一、小さな個体にマダニの成虫が大量に寄生した場合は貧血状態になり、衰弱することが十分考えられます。
・吸血による病気の感染
ダニの吸血は、吸血した血液を濃縮して体内に貯蔵するため、一回ダニの体に入った血液の不要な成分を、ふたたび宿主の体内に戻す(ひゃぁぁぁぁ...)そうです。
さまざまな病原生物を体内に有しているダニならば、このときにそれらの病原生物が宿主の体内に侵入してしまい、宿主が病気に感染することになります。
爬虫類の病気とダニがもっている病原生物の関係は、多くは研究されていませんが、以前記事にした「クリプトスポリジウム」のような原虫類がダニによってトカゲに感染した報告もあります。
恐ろしいのは、WC個体に寄生していたダニを気づかないまま飼育者が自分の飼育環境や生活環境に運んで来てしまって、そのような病原生物を他の飼育個体や人間に接触させてしまうことです。
本当に、これで壊滅的な被害にあった友人が私にはいます。
また、家庭に乳幼児や高齢者がいるような場合にも注意をする必要があるでしょう。いわゆる「ズーノーシス(人獣共通感染症)」のおそれもあることは否定できません。
今回の記事を書くのに、いろいろな方に情報をいただいたのですが、アフリカの草食獣に見られる、ある病気の病原体であるリケッチアの一種が、アメリカに輸入されたヒョウモンガメに寄生していたマダニの一種から発見された報告もあるそうです。
ちょっと怖い...
・アレルギー症などの発生
これも有名な話ですが、非吸血性のチリダニやホコリダニなどは、その糞や脱皮殻、死体などが家庭のホコリに混じって、アトピー性皮膚炎やアレルギー性のぜんそくなどの原因になります。
爬虫類飼育の床材、糞、脱皮殻、飲み水など爬虫類のケージは「高温」「多湿」「ダニの餌となる有機物が豊富」とダニの生息に非常に適していますので、これらのダニの大量発生につながります。
私は花粉症なので、多少ともアレルギーによる病気の大変さは理解しています。このようなアレルギー症にならないためにもダニは発生させない方が良いに決まっています。
と言うわけで、ダニは、もちろん自然では重要な生態系の一員であるわけですが、少なくとも爬虫類飼育では「百害あって一利なし」です。駆除や発生を抑えることができるのならば、そうした方がいいでしょう。
次は、ダニの駆除に関して考えてみましょう。
なお今回は、よくヤモリや昆虫にくっついている真っ赤な小さなダニ(たぶんタカラダニの仲間))に関して、情報が得られませんでした。つまり吸血しているのか、ただくっついているだけなのか。
何か情報があったらぜひ教えて下さい。
ダニの駆除には食酢?
ダニ対策には食酢!?
また、ここから先は私個人や友人の少ない経験を元にした情報ですので、これらの方法によるダニの駆除に関しては、みなさま自身の責任の元でおこなって下さい。
また、ダニの駆除に関しての御意見などもいただければ幸いです。
・吸血性のダニが寄生していた場合
WC個体では、よくあることですので、WC個体を入手した後は、必ずダニが食いついていないかチェックしましょう。
爬虫類の場合は
・排泄孔周辺
・鱗と鱗の間
・目の周囲
・わきの下
・四肢の指の間
などが特に多く重点的にチェックします。
さらにカメの場合は
・甲羅と皮膚の境い目付近
・尾、頭、四肢の収納部分の奥
などは目につきにくく、カメ自身が自分で取ろうと思っても、どうにもならない場所はダニが多くついています。
さて、チェックによってダニが食らいついているのを発見した場合はどうすればいいでしょう。
もちろん近くに動物病院があれば、そこに相談するのが一番です。
私の友人は、食らいついているダニを見つけたときは「食酢」を使って取り除いています。
以下に、その手順をご紹介しましょう。
1.水200ccに食酢5ccを溶かす(酢酸の濃度としては0.1~0.2%程度)
2.そこにダニに寄生された爬虫類を泳がせる
3.ぬるま湯で洗う
4.それで落ちない場合は1.の薄めた食酢を綿棒につけて、それをダニにつける
これで、多くのダニは落ちるようです。
ただし、顔の周辺についているダニにはこの方法は控えます。顔の近くに酢酸を近づけるのは爬虫類には良くないでしょう。
消毒用アルコールを使う方法もありますが、化学の教員である私の個人的な意見としてはアルコールよりも酢酸の方が毒性が少ないので、爬虫類に対する負担は酢酸の方がいいかな、と思います。
もちろん、これでもとれないダニもいます。
そんなガンコなダニは、これはもう直接つまんで取ったり、一匹一匹を殺してとるしかありません。
ピンセットの先を火であぶって、ダニをそれでつまんで引っ張ります。
「ダニを引っぱって取ってはいけない、頭の部分が皮膚の中に残るから」と言われますが、ダニが自分から放すのを待っている余裕はありません。それはつまり吸血が終わるのを待つことですから。ですので、なるべく慎重に、かつ速やかにピンセットで引っぱって取るのがベターでしょう。
もちろん、このときに焼けたピンセットで爬虫類にやけどを負わせないように細心の注意が必要です。
また焼いた針を使って、ダニを突き刺して殺すのも手っ取り早い方法です。
一例ですが、総排泄孔に食らいついてピンセットでもつまめない場所にいたダニにスポイトでウィスキーをたらしたら、簡単にとれた、という話も聞きました。
ダニを取った後に傷口が残りますが、そこに決して酢やアルコールをつけたりしないように。すごく痛がります。できれば万能薬・テラマイシンなどの抗生物質を塗るといいでしょう。
・ケージ内にダニが大量に発生した場合
吸血性かどうかは別にして、夏の高温時にはケージ内にダニが大量に発生した場合は、飼育個体のダニ駆除とケース内のダニ駆除を同時にしなくてはいけません。
飼育個体に関しては、先述の薄めた食酢で体を洗えば、それこそ気持ちいいくらいに落ちます。
ケース内は、よく洗う。コレにつきます。
熱湯、アルコールを使ってよく消毒します。できれば、直射日光にさらすとより効果的でしょう。もちろん、ケース内のシェルターや水容器などのアクセサリーもよく消毒します。床材を毎日取り替えるのも言うまでもありません。
意外に忘れやすいのがフタです。なぜかフタの一隅に大量のダニが発生することもあります。忘れずに洗いましょう。
これを数日、繰り返すことによってかなりのダニを駆除できます。
また床材はあらかじめ日光で消毒しておく必要もあります。
ダニ対策の最終手段……薬品の使用
はっきり言って、ダニの駆除に薬品を使うのは「禁じ手」であると考えた方がいいでしょう。なぜなら、絶大すぎる効果があるからです。
効果があると言うことは、その分、毒性が強いと言うことですし、何より爬虫類用の薬品ではないからです。ですから使用は勧められませんが、参考までにベターな使用法をご紹介しておきます。
なお、爬虫類用ではポゴナ・クラブから「レプタイルリンス」というダニ駆除用の商品が出ていますが、私はまだ使用したことがないのでレビューは控えさせていただきます。
ダニの駆除で有名なのがイヌネコ用のフロントライン(R)と家庭用害虫駆除剤のバポナ(R)です。
・フロントライン(R)
フロントライン(R)は、イヌネコ用のノミやマダニを駆除するための有名な薬品です。液体状でスプレー式のものを爬虫類飼育に使用される方がいます。薬効主成分であるフィプロニルは無脊椎動物の中枢神経に強く作用する成分ですので理屈上は爬虫類に害はないはずではあります。ただし、動物用医薬品に指定されていますので、処方は獣医師にしか許されていませんので、動物病院でしか入手できません。
・バポナ(R)
バポナ(R)は、室内のあらゆる害虫の駆除に使用される薬品です。
劇薬であるの有機リン系の薬品ジクロルボス(DDVP)というのが主成分です。このジクロルボスというのは強力な農薬なんですが、発ガン性などの報告もあり、使用には細心の注意が必要です。使用にあたっては法律上「空気1m平方中に0.25mg」という規定もあります。
ただし、確かに効きます。ダニがあっという間にいなくなるは事実です。
バポナ(R)はこの薬効成分を樹脂状に固めたプレート状で販売されています。これをハサミなどを使って(ハサミは使用後、十分に洗うこと)スティック状に切ります。
これを写真のフィルムケースに入れて、フタをし、フィルムケースの側面などにクギ等を使っていくつか穴を開けます。
こうやってフィルムケースの中に入れたまま、ダニの発生しているケース内に転がしておけば、薬効成分が揮発してケース内に拡散し、ダニを退治します。
バポナ(R)は医薬品(劇薬)ですので、薬局で氏名等、定められたことを書かなければ購入できません。また未成年は購入できません。
基本的にこの2つの薬品は無脊椎動物全般に対して作用をしますので、無脊椎動物を飼育している飼育者は使用をしてはいけません。死んじゃいます。
餌用にコオロギを飼育している場所でバポナ(R)を使って、コオロギが全滅したという話は伝説のように、有名な話です。
とにかく、この2つの薬品は爬虫類飼育のダニ駆除に脈々と使われ続けているのは事実なんですが、これが原因で死んでしまったと思われる例もありますので、安易な使用は控えましょう。
(R)フロントライン及びFRONTLINEはメリアルの所有登録商標です
(R)バポナはアース製薬株式会社の所有登録商標です
正直に言うと、爬虫類を飼育していれば、どのような形であれダニは発生してきますので、吸血性のダニ以外は、あまり神経質になる必要はないと思います。
とにかくダニが発生しないようにするためには、清潔な環境で飼育をしていくことです。
ダニの発生は、ダニが悪いのではなく、ダニを発生させてしまう飼育者が原因だと私は考えています。
つまりダニが発生したら
「おーい、ちょっと手を抜いてんじゃないの~?」
と、爬虫類たちが私たちに言っているんだと思いましょう。
はい。
【関連記事】