クリプトスポリジウム症とは?
その名は「クリプトスポリジウム症」
クリプトスポリジウムって?
ちょっと難しい話になるのですが、クリプトスポリジウム(以下「クリプト」)とは原生動物(原虫)の仲間でクリプトスポリジウム科の単細胞生物たちのことを指し、多くの動物に寄生する生活を営む生物です。特にクリプトスポリジウム属Cryptosporidiumの仲間はヒトを含む哺乳類から魚類にいたるまで広く寄生することが知られています。◇クリプトの生活
クリプトは寄生している宿主生物の胃や腸の表面で生活をしているのですが、普段は分裂などの無性生殖を行って増殖をしています。しかし、ときとして有性生殖を行い固い殻を持った「オーシスト」を作り、これを宿主の便とともに宿主の体外に排出させます。排出されたオーシストは固い殻に守られながら外界の環境に耐え、別の宿主動物の口から侵入し、胃や腸に到達するとオーシストから出て、寄生生活を再び始めます。こうしてクリプトはオーシストを使って生活の場所を広げていくわけです。例えて言うならばオーシストはクリプトの「卵」みたいなものですね。
◇クリプトに寄生されると...
さて、クリプトに寄生された宿主はどうなってしまうのでしょうか。感染したクリプトは主に胃や腸の表皮で寄生生活をするために「腸炎」や「胃炎」が発症します。下痢や嘔吐、体重の減少などを起こし、ヒトの場合でも免疫が低下していると死に至ることもあります。世界中で年間に数億人が感染していると言われ、国内でも過去10年間に1万数千人以上が患者として治療を受けているそうです。エイズ患者の死亡例もあるそうです。
クリプトスポリジウムのスゴさ
クリプトは「たかが寄生虫」と侮れないスゴさを持っています。◇強烈な感染力!!
ヒトに寄生するクリプトの報告によると、クリプトは、たった1~数個のオーシストを摂取してしまうだけで病気を発症してしまうそうです。しかも感染者の便の中には、もっとも多いときで、1mlの下痢便の中に数百万個のオーシストが排出されると言うから驚きです。
◇特効薬なし...
実は、現在までにクリプト症に有効な治療薬は開発されていません。対症療法程度の投薬がされるだけで、あとは自然治癒を待つことになります。免疫力が決め手になるわけです。
◇無敵のオーシスト!!
クリプトの感染はオーシストによってなされますが、このオーシスト、固い殻に守られ、まさに無敵と言っても過言ではありません。家庭はもちろん、病院等で使われる消毒液も効かないし、水道水の塩素消毒も全く無効です。
彼らの弱点は70℃の高温と乾燥だけなのです。
爬虫類のクリプトスポリジウム
このクリプトですが、1977年にはじめてヨコシマガラガラヘビ、コーンスネーク、テキサスラット、トランスペコスラット、サンジニアボアなどのヘビからはじめて発見されCryptosporidiumu serpentisと名付けられました。さらに1998年にはシュナイダースキンク、マブヤトカゲの一種、ヒョウモントカゲモドキ、サバンナモニター、タベタヌムカメレオンらからもC.saurophilumと命名されたクリプトが見つかりました。◇こんな両爬たちにクリプトが...
上記以外に、日本国内でクリプトが見つかった両爬は以下の通りです。
・トゲオイグアナ
・エリマキトカゲ
・ニシアフリカトカゲモドキ
・オビトカゲモドキ
・グリーンイグアナ
・ブルスネーク
・ニホンヤモリなど。
◇クリプトに感染した両爬たち
クリプトに感染した両爬はどんな症状になるのでしょうか。
代表的な症状は
・ヘビの胃炎
ヘビの場合は胃炎になり、食欲を失って衰弱してやがて死に至ります。ただし、症状は慢性的で数ヶ月から数年にわたって症状が持続することもあるということです。またカメレオンからも胃炎が報告されているそうで、症状はヘビのそれに似ているようです。
・トカゲ類の腸炎
トカゲ類のクリプト感染は、致死率も高いことから近年、特に注目されています。下痢や嘔吐をくり返し、衰弱し死に至ります。
ヒョウモントカゲモドキの例では、彼らの特徴でもある尾の脂肪がほとんど消失し、通常の半分の太さにまでなったそうです。
・イグアナのポリープ
グリーンイグアナでは耳口にクリプトが多数寄生したポリープも報告されています。
クリプトスポリジウム、実は人畜共通感染症なのです
基本的に、健康ならば両爬に寄生するクリプトが、ヒトに感染することはないようです。しかし、エイズなどの免疫不全症などの患者からはヘビのクリプトC.serpentisとトカゲのクリプトC.saurophilumが見つかっている例もあるというから、油断ができません。もちろん、仮にヒトに感染しなくても、大切な両爬たちが感染してしまったら大変なことになります。私たちは、どうやってクリプトの恐怖から彼らや私たちの健康を守ればいいのでしょう?◇感染の仕組みを理解して防御!!
残念ですが、感染して発症した個体はなかなか有効な治療がありませんので、とにかく他の個体に感染させないことを重視します。理想的には、新しく購入した個体は他の個体と接触させる前に「検疫」をすればいいのですが、現実的には難しいです。
クリプトの感染は糞便の中のオーシストによって行われるわけですから、
・まめに糞便を取り除く
・糞便を扱った後は、よく手を洗う
・様子がおかしくなった個体は隔離する
・発症個体のケージを熱湯で消毒する
あたりが私たちにできることでしょうか。ヒトに感染させないためにも病人や幼い子供、お年寄りなどの免疫力が低い人がいる家の場合も同様の気遣いが必要になるでしょう。
◇飼育個体の遺棄・脱走にも注意
また感染している個体が外にクリプトを運び出してしまった場合に、自然の個体群に対するクリプトの感染を懸念する意見も出ています。多くの種類を飼育している環境で飼われている個体を自然に戻したりすることには注意が必要でしょう。脱走させるなどと言うのはもってのほかです。と、自分に言い聞かせたりします...
両爬飼育に寄生虫はつきものですし、何よりあまり神経質になるのも考えものですが、知識は必要かもしれません。飼育されている両爬たちの住みよい環境を作ることを心がけ、ストレスをためさせないように飼育して、免疫力を高めさせるような飼育をして、少しでも発症させないような工夫をしたいものです。
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