別れたい…
どうして連絡してくれないの? |
携帯電話のメールで週末の予定を確認しあっていたのだが、翌週、謙一からメールの返事はなかった。それでも土曜日は食事を用意して待っていた。謙一が来ないことで、さすがにおかしいと逸美も気がついて携帯電話に電話を掛けるとつながらなかった。
日曜日になっても連絡は取れなかった。こうなったら週明けの月曜日に会社に電話をしてみるしかない。イライラしながら月曜日になるのを待った。それまで一度も会社に電話をかけたことはなかった。携帯電話のメールで十分だったし、男の仕事先に電話をかけることは迷惑になると思っていたからだ。
「白崎と申しますが、高井さんをお願いします」
しばらく待たされてから、
「恐れ入ります。高井はただ今、会議中でして、後ほどこちらからお電話すると申しております」
と返事があった。だが、夕方まで待っても連絡はなかった。
謙一はこうやって無視し続ければ、いくら鈍感な逸美でも自分が避けていることが分かるだろうと思っていた。そうして、女の方からあきらめて自然に別れることになるだろうと思っていたのだ。だが、逸美はまったくそうは考えていなかった。連絡が取れないことイコール謙一が自分と別れたいと思っているとは全然思いつかなかった。
(どうしたのかしら。仕事が大変なのかも。体調がすぐれないみたいだったし。風邪が悪化したのかな。でも、実家だから家にまでは行けないし。ああ、もっと早くちゃんと家の人に紹介してくれていればよかったのに。私の家族にも会いたがらなかったし。男の人って気後れするのよね。今度会ったら、絶対に紹介するように言わなくちゃ)
数え切れないほどの逸美からの連絡を催促するメールと着信履歴を見て、謙一はようやくこれまで通りには行かないことに気がついた。逸美はほかの女とは違う。優柔不断で責任を持ちたくないとここまでやってきたが、さすがにこのままでは済まないと思うようになり、いやいやながら、逸美に会うことにした。
逸美からのメールの返信に、次の土曜日に会うことを知らせた。自宅に行くことはもうイヤだったので、喫茶店を指定した。人目があれば修羅場にもならないだろうと思ったのだ。すぐに電話がかかってきたが、出ないようにした。
(気が重いが、最後に一度会って別れよう。一時間ほどで済むだろう。それで別れられるはずだ)
しかし、そう簡単に行かないような予感をすでに謙一は自覚していた。
別れたい謙一は逸美にどう切り出すか? スムーズに別れることは出来るのか?
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