※この記事は、最近起きた事件をヒントにした創作です。【全6回】

・愛と故意のラビリンス~第1回
・愛と故意のラビリンス~第2回
・愛と故意のラビリンス~第3回
・愛と故意のラビリンス~第4回を先にご覧ください。

<これまでのお話>
逸美からのメールや電話を無視していた謙一だが、一度は会って別れをはっきりさせなければならないと気づく。致し方なくメールで土曜日に会うことを伝えてた。

意外な反応

喫茶店で会う
喫茶店で会う
メールの返信直後の電話が一度あって以来、約束の土曜日までに謙一の携帯電話に逸美からのメールと着信はピタリと来なくなった。このことはかえって謙一にとっては理解できなかった。あれほどメールが来ていたのに、メールがないとむしろ不安になった。

どういう意味があるのだろか気になったが、すでに別れを決意していることをあるいは逸美もさすがに気づいたのだろうと思った。これだけ連絡をしないまま日にちが経っているということは、いい加減あきらめたのではないだろうか? 案外、これで別れることも簡単に行くかも知れない。

約束の土曜日、待ち合わせをした喫茶店に謙一が時間通りに行くと、逸美はすでに来ており、謙一の顔を見ると、ニッコリと微笑んだ。
「久しぶり」
「どうも」
注文した飲み物がテーブルに置かれても、二人は黙っていた。謙一は窓の外ばかり見て、逸美から何か言うのを待っていた。だが、逸美も窓の外を見て黙っているので、しかたなく切り出した。

「しばらく連絡しなかったこと謝るよ」
下手に出るしかないと思いそう言うと、逸美はパッと明るい表情になって答えた。
「いいのよ。お仕事とか大変だったんでしょ?」
「ああ、まあ仕事もそうなんだけど」
「大丈夫。私、ちゃんと理解しているから。男の人はお仕事が第一ですものね」
「いや…」

なんと言っていいか、二の句が継げなかった。
「私ね、考えたのよ。男の人ってお仕事で突然何があるか分からないじゃない? それなのに女がうるさくしたらダメよね。私、反省したのよ。あんなにメールとか送ってごめんなさい」
「いや……」
「私ね、これも大事な試練だと思うようにしたの。だって、結婚したらきっともっといろんなことが起きるかも知れないじゃない? 今回のことはあなたが私にそういうことを教えてくれたのよね」
「……」

謙一は混乱していた。ニコニコしながら明るくそういう逸美に言うべき言葉が見つからなかった。
「大丈夫よ。私、ちゃんとあなたに迷惑をかけないように頑張るわ」
(違う!)と大きな声で言いたかったが、何も言えず押し黙った。
「ねえ、お食事の下ごしらえをしてきたからうちへ来ない? すぐに用意できるから」
「いや…」
そうしてまた元の関係になってしまえば、同じことの繰り返しだ。謙一は必死に考えた。なんで逸美は、分かってくれないんだ? どう言えばいいんだ。やはり別れたいとハッキリ言わないと…。

「悪いんだけど…」
「なぁに?」
「もう君とはこれきりにしたいんだ」
「これきりって?」
「別れたい」
「えっ」
逸美は、まじまじと謙一を見た。

「そんな…。だって何も別れる理由はないじゃない。私たちうまく行っていたじゃない?」
「だから、その、いや、君は女性としては素晴らしいとは思うんだ。だから、僕なんかよりもっといい人が」


→・必死になる……p.2
→→・頼んで逃げる……p.3