防犯/防犯小説

パートの仕事を休んででかけた先は… 人妻が落ちた真昼の奈落?第3回(3ページ目)

万引きを見られた女性に勧められた禁断の仕事。パートの仕事を休んで出向いた先は、とある駅の近くのマンションだった。その日、別の女性の代わりに客の相手をしたことから…

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

報  酬

一万円はご祝儀!
一万円はご祝儀!
竹内は奈美恵が差し出す洋服を順に身につけると、財布から一万円札を取り出した。「これはキミのもの。支払は別にちゃんとしてあるからね。また会えたら頼むよ」「あ、あの…恐れ入ります」「アハハ。いいって。早くしまって。じゃ、また」個室から風のように竹内が出ていった。

しばらくすると宮下がやってきた。「美恵子さん、お疲れさま。どう?」「どうって」「いい人でしょ?」「はぁ。そうですね。なんかやさしくて…」「ご祝儀くれたでしょ?」「ええ。これどうしたらいいんでしょう?」「何言っているの。それはあなたのものよ。よかったわね。それじゃ、シーツを替えて」とベッドメイクと室内の整理整頓の仕方を教えてくれた。

その後、事務所で現金1万5千円を受け取った。わずか1時間で2万5千円の収入だった。パートの時給900円だと27時間分。ほぼ一週間分の金額だ。「どう? 悪くないでしょ。やれそうかな?」「あー、はい。そうですね」「そうよかった。じゃ、いつでも来られるときに来てくれる? 電話で呼び出したりは絶対にしないから。無理は言わないからね」「はい。あのー、たとえば火曜日と木曜日って決めて来てもいいんですか?」「あら、もちろんよ。そのほうが固定客もつきやすいし。そうする?」「ええ」「じゃあ、待ってますね。今日はどうする? もう帰る?」「ええ。何か少し疲れてしまって」「そうよね。初めてじゃ」「じゃあ明後日また」「そう。じゃ、よろしくね」

まだ日の高い街中に出てみると、やけに景色がまぶしく感じられた。(私が今、何をやってきたかなんて誰にもわからないわ。何も証拠も残っていないし。でも、この2万5千円は現実。すごいわ。まぁ1万円は特別としても、考えたら誰かからこんな1万円なんてもらったことないもの)帰りの電車の中で、携帯電話の電卓機能を使って計算していた。(一日に二人で2万5千円から3万円。週に2日で5万から6万か…)月に4週として20万円以上になる…。単純計算をしてみて驚いた。半年で百万円は軽いだろう。月に百万円も稼ぐ人がいるとは言っていたが、実際にはそれほど稼ぐ人はいないようだった。

いくら不況知らずとは言っても客が来なければお金にはならない。それでも「お茶をひくことは滅多にない」と宮下も桜子も言っていた。「お茶をひく」という言葉の意味がよくわからなかったので首をかしげると宮下が説明してくれた。昔、遊里・花街で、暇な遊女などに茶の葉をひかせたところから、遊里・水商売などで客がなくて暇な状態を指すのだという。「ひく」は「挽く」という字だとも教わった。宮下は元々、そういう商売をやっていたようだ。自分で「私は昔で言う“やり手婆”よ」と笑っていた。妓楼で、遊女の教育・監督、客との応対など一切を切り回す女性のことで、多くは古手の遊女がなったという。

知らなくてもいいことを知ってしまったと思ったが、何でも知識だと思うことにした。夫以外の男性との交渉は思ったよりあっけないと感じた。何がなんだかわからないまま、気がつくと終わっていた。シャワーを浴びてサッパリすると、何もなかったかのようだった。もっと重く、後悔や罪悪感にとらわれると思っていたが、どうということはなかった。(誰にも知られなければなかったことと同じ…)そう考えると、暗いイメージよりむしろ、スポーツ感覚とでも言えそうだった。(それでお金になるなら。女ならではの仕事だし。でも、パートの仕事は絶対に続けよう)と心に誓った。

それからスーパーの仕事を週3日にしてもらい、火曜日と木曜日は宮下のところへ通った。根が真面目で、仕事には一生懸命取り組む奈美恵だった。他の主婦たちのように来たり来なかったり、といったことはしなかった。キッチリと曜日を決めて、仕事をこなした。どんな仕事でも地道に続けることがいい結果を生むと信じている。そうして半年経ってみると、奈美恵の口座の金額は百万円を越えていたのだった。夫は月に二度の帰宅が一度になり、仕事が忙しいからと月に一度も戻ってこないときもあった。

帰ってきたときにはできる限り尽くした。夫の好物を食卓に並べて、笑顔で家族団らんを心がけた。夫との関係に支障が生じるかと心配したが、何も変わらなかった。あまり奈美恵を求めなくなったことに対しても疲れているのだろうと思い、自分に少々の負い目を感じていたので責めることはしなかった。(もう少し、そうね。二百万円くらい稼いだら辞めようかな。いざというときにそれだけあればかなり違うわ。あの子の進学のためにも役立てるはず。へそくりだって言えば夫にはわからないだろうし)

スーパーの仕事も順調だし、子どもたちも元気に学校に通っている。夫の仕事もとくに問題があるようなことは聞かない。見た目には何も変わっていない。お金が入ったからといって、ぜいたくをするわけでもない。自分の洋服や化粧品も、いつもよりランクを上げたりもしない。地道が一番なのだ。表面的には何も変わっていないことが奈美恵の自信でもあった。だが、崩壊の日は突然やってきた。地震と津波がやってくるように……。


最終回アップしました!【連載第4回】 人妻が落ちた真昼の奈落~第4回

【連載第1回】 人妻が落ちた真昼の奈落~第1回 
【連載第2回】 人妻が落ちた真昼の奈落~第2回 
【連載第3回】 人妻が落ちた真昼の奈落~第3回 
【連載第4回】 人妻が落ちた真昼の奈落~第4回 


その他の連載記事もぜひご覧ください♪

【編集部おすすめの購入サイト】
楽天市場で防犯グッズを見るAmazon で防犯グッズを見る
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます