防犯/防犯小説

見られてしまった“万引き”が思わぬ方向に… 人妻が落ちた真昼の奈落?第2回

単身赴任中の夫が帰宅しないことになった日、奈美恵は口紅を万引きしてしまった。それを見ていた女性に声をかけられて、後悔していた。だが、連れて行かれた先で話は思わぬ方向に発展していく。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

※この連載記事は、実際に起きた事件をベースに構成してあります。【全4回】

連載第1回 人妻が落ちた真昼の奈落~第1回 を先にご覧ください。

<前回のあらすじ>
スーパーでパートの仕事をしている36歳の主婦・奈美恵。単身赴任中の夫が予定通り帰宅しなかったその日、発作的に口紅を万引きしてしまった。それを見ていたらしい女性に、一緒についてくるように言われて、後悔している奈美恵は黙々と従うことに…。


通報せず

行く先はコーヒーショップだった
行く先はコーヒーショップだった
女性は奈美恵の腕を後ろから抱えるようにして歩き出した。

「こっちよ」

てっきり管理事務所のような所に連れて行かれるかと思っていたのに、駅ビルの一階にあるコーヒーショップに入っていった。

「ここがいいわね。いい席が空いていてよかったわ。ここなら話も聞こえないでしょ」

一番奥のボックス席の向こう側に座って、奈美恵にも座るように促した。奈美恵は入り口のほうに背中を向けることになった。相手しか見えないのだ。女性の席からは店内を一望できる。ウェイトレスが水の入ったグラスを持って注文を聞きに来た。

「あなたは何? コーヒーでいい? じゃ、ホットふたつね」

テキパキと注文して、奈美恵は言葉を出すヒマもなかった。

「ねぇ、あなた、あの○○スーパーで働いている人でしょう? 見たことあるのよ」
「・・・・・」

自分の職場まで知られているとわかって、下を向きながら頷いた。

「あのぉ、私…」
「あ、いいのよ。いいの、いいの。わかっているから。大丈夫よ。見たことは誰にも言わないから。たいしたことじゃないわよ」
「えっ? でも、あの…」
「あなた、お子さんは?」
「二人」
「そう。ご主人は?」
「単身赴任で今は、××市に」
「あらぁ、そう。じゃあ、一人で寂しいわねぇ」

「あの…」
「たまたまね、知っている顔だな~と思って、ウィンドウ越しに通路から見ていたのよ。わからなかったでしょ? でも、ダメよ。もし捕まったら大変よ」
「え、あの、警備とか保安係の人じゃないんですか?」
「私? 違うわよ。だったらこんな所に連れてこないでしょ。私は通報するつもりはないの」
「じゃ、なんで」
「奥さんを見込んで、お話したいことがあるの」
「はぁ?」
「ねぇ、そんなケチな万引きなんてしないで、自分のお金で買えるようになりたくない?」

万引きと言われて、胸がギュッと痛んだ。やはり悪いことはできないものだ。誰にも見られていないと思っていたのに、やはり見られていた。だが、通報しないということはどういうことなのか?



2p.いい仕事?
3p.需要と供給
4p.迷 い

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