証拠隠滅
しばらく目立たない道を走りながら、遠回りに自宅へ向かった。家に帰りついた男は、急いで自室にはいるとポケットからデジカメを取り出した。「くそうっ!」
大声でそう叫んで、セレクターボタンを押した。
(せっかくの大量の画像がもったいない! しかし、人生が破滅することとどっちが大事だ?)
一瞬の躊躇のあと、思い切って、「全画面削除」のボタンを押した。
(もし万が一、自宅まで警察が来たらどうする? 家宅捜索でもされたら、まずい。証拠だ。証拠隠滅だ。全部消さないと。消せば大丈夫だ。証拠がなければ、私は大丈夫だ。くそっ。なんでこんなことに!!)
机の引き出しを荒々しく開けると、過去の盗撮画像がすべて入っている2枚のメモリカードを出した。デジカメにカードを入れ替えて、2枚とも「全画面削除」のボタンを押してメモリをすべて消去した。パソコンに残した画像もすべてゴミ箱に入れて消去することを忘れなかった。
あとは10本ほどある盗撮記録の8ミリのビデオテープである。ラベルのタイトルはまったく関係のない真面目なものにしてある。しかし、念のため、大きめの封筒に入れて机の引き出しを引き抜いた底板にガムテープで貼り付けると引き出しを元に戻した。
すべての作業を終えると、肩で息をしながら机に両手をついて首をがっくりと落とした。
(大丈夫だ。これでもう。私は捕まらない!)
「フフ。ハハハハッ」
と、笑い声をあげた。
(私はあの店に買い物に行ったんだ。こうやって買った物もここにある。あそこにいたのは事実だ。ヘンな女が私のことを他の誰かと勘違いしたんだ。私は急いでいたし面倒は嫌いだし、明らかに私ではないと思ったからこそ、あの場を去ったのだ。そう言えば、証拠はないんだから、捕まるはずはない。ガタガタ言ったら、証拠を見せろと言ってやればいい。
だいたい、私がそんなことをするはずがないじゃないか。世間で尊敬されているこの私が。私にそんなことを言ったら、逆に「名誉毀損」で訴えたっていい。証拠だよ。問題は証拠だ。それがなければ私を捕まえることはできない。メモリカードはまっさらだ。ハハハハハッ)
大きな深呼吸をして、気分を落ち着けると急に空腹を覚えた。ダイニングルームに行ってみると、妻や息子はとっくに食事を終えていた。不仲な妻は、自分のほうを見ようともせず、給仕をしようともしない。息子は自分の姿を見ると、いかにもイヤそうな顔をして、自分の部屋へと引っ込んだ。
妻も無言で自分の部屋へ行くとドアをピシャリと閉めた。寝室を別にしてからかなりの時間が経っているのだ。男は買ってきた酒のつまみを皿に出し、冷蔵庫から取り出した缶ビールを飲み始めた。テーブルの上に夕刊を広げて読み出す。まるで何もなかったかのような静かな時間だった。
しかし、最初のビールの缶を飲み終わらない内に、玄関ドアのチャイムが鳴った。男はギクリとなってそのまましばらく動けずにいた。
【連載第5回】出会い系サイト~破滅の連鎖に続く
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