V字回復ともにシングルグレーン、ワールドウイスキーの誕生
左・山崎蒸溜所蒸溜室/右・山崎ウイスキー館テイスティングラウンジ
シングルモルトを飲み比べて楽しむ人たちが増え、ウイスキーはV字回復となる。
そして2014年、アメリカ・ビーム社を傘下に置き、ビームサントリー社(現サントリーグローバルスピリッツ社)が誕生した。サントリーは世界的企業への大きな一歩を踏み出し、ウイスキーに関してはジャパニーズ、スコッチ、アメリカンだけでなく、アイリッシュ、カナディアンの5大ウイスキーの蒸溜所を保有することになった。
日本市場では、ハイボール人気は爆発的なものがあった。角ハイにつづき、トリスハイボール、ジムビームハイボールと味わいの世界が広がっていく。
シングルモルト人気も高まりつづけるなか、2015年にはシングルグレーンウイスキー「知多」を発売。知多蒸溜所が生む多彩なグレーンウイスキーをブレンドした、世界に類を見ない熟成感がありながら軽快な飲み心地のある、料理との相性もいいスペシャルな味わいの誕生だった(『ウイスキー知多のうま味、魅力を評価しよう・その1』参照)。知多ハイボールも大人気となる。
さらには2019年、ウイスキー史上初となる自社保有の5大ウイスキー蒸溜所の原酒をブレンドした「サントリーワールドウイスキー碧Ao」を誕生させ(『「碧Ao」サントリーワールドウイスキー新発売』記事参照)、大きな話題を呼んだ。
そして2023年、山崎蒸溜所100周年の記念すべき年に山崎、白州両蒸溜所の大改修がおこなわれた。山崎はフロアモルティングを新設、パイロットディスティラリーの改修。白州はフロアモルティングの新設、酵母培養プロセスの導入が主な改修となった。
新たな100年を地道に積み上げる、伝統を継承しながら革新を加えていくサントリーのウイスキーづくりの真髄がここにある。愛着をもって次世代へ繋ぐために、地道に、ひたすら地道に仕込み、長く見守る仕事である。
ウイスキー事業は消費者の嗜好の変化だけでなく、現在はSDGsをはじめとした地球温暖化への対応など、常にさまざまな問題に立ち向かわなければならなくなった。しかもウイスキーは新たな問題を解決しようとしてもすぐに結果を出せない嗜好品である。何しろ貯蔵熟成のプロセスを経るために誕生に年月がかかる。
そういう面では現在のハイボールブームは地球温暖化とうまくリンク(『地球温暖化とウイスキーや他の酒への影響』記事参照)している。この猛暑に見舞われつづけたならば、いつまでも深く熟成したモルトウイスキーをストレートやロックでじっくりと味わう世界がつづくとは限らない。いまは軽快な味わいとスーッと喉を駆け抜けるスピード感が求められているのではなかろうか。ハイボール、水割りといったスタイルはいまの時代と合致している。
さて、10年後は20年後はどんなウイスキーが求められているのだろうか。クラフトディスティラリーが乱立しているが、自己満足で終わらないようにと願う。格好つけても売れなくてはダメなのである。またスコッチの亜流でもダメなのである。一人でも多くのウイスキーファンに愛されるようにするにはどうすればいいのだろうか。
時を要する酒である。しかしながら一瞬で飲まれてしまう。ウイスキー製造に携わる人々は、その一杯の満足感、一瞬の満足感のために思考しつづけなければならない。
ウイスキー事業は極めて難しい。日本で、山崎で、ウイスキーづくりを開業して興隆させた鳥井信治郎の功績をもっと評価していいのではなかろうか。彼がベースをつくったからこそ、いまのジャパニーズウイスキーがある。
飲み手のわたしたちは自国に誇れるウイスキー蒸溜所があることに感謝すべきだ。しかもジャパニーズは5大ウイスキーのひとつとして認められる存在である。もっともっとウイスキーを愛して、ジャパニーズウイスキーの価値を高めていただきたい。
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