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山崎蒸溜所100周年15/1980年代ウイスキー受難の時代に未来への布石

1970年代半ばから水割りブームを生み、驚異的な人気を誇った「オールド」だが1984年後期から売り上げが落ち込む。そこからウイスキー全体の売り上げが鈍化してしまう。ウイスキー受難の時代に1984年シングルモルトウイスキー「山崎」、1989年ブレンデッドウイスキー「響」を誕生させる。そして山崎蒸溜所の大改修をおこない、1989年に新たな設備での製造がはじまる。未来への布石が打たれていた。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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1980年代半ばからウイスキー受難の時代に突入

左・シングルモルト「山崎」(1984発売/発売時ピュアモルト)/右・ブレンデッドウイスキー「響」

左・シングルモルト「山崎」(1984発売/発売時ピュアモルト)/右・ブレンデッドウイスキー「響」


 1980年代について語ってみよう。1970年代から80年代はじめまではウイスキー全盛の時代だった。とくに1970年代半ばから“消費者が待ちかまえていた”と言われるほどに「オールド」ブームは加速する。それほど日本は豊かになっていた(『山崎蒸溜所100周年14/1970年代後ワイトスピリッツ・ブームを凌駕したオールド』参照)。
 そのぶん、また日本人の活動は活発になる。海外旅行に目を向けはじめる。お金と時間の余裕のある人たちはヨーロッパやアメリカへと出かける。若者たちの多くは安くて短時間で行ける南の島へと出かけたのだった。
 1970年代後半から80年代はじめにかけて若者たちが南太平洋の島々で飲んだカクテルが日本国内でも人気となり、トロピカルな内装のカフェバーが登場し、トロピカルカクテルのブームが起こる。 
 一方で、すっきりとした味わいの焼酎甲類がお洒落なボトルに詰められ人気となる。酒類の多様化の先駆けだったように想う。
 それでも1984年まではウイスキー全盛時代だった。山崎、白州の両蒸溜所は24時間フル稼働をつづけていた。とくに「オールド」の水割りが驚異的な人気を誇った。単一ブランドとしては当時の世界史上空前の1,200万ケース売り上げを記録している。ところが1984年の後期から売り上げが落ちていく。それ以降、「オールド」という一つのブランドの落ち込みだけでウイスキー全体が負の連鎖に陥ってしまう。
 

受難の時代に、未来を見据えた新たな布石

  驚異的「オールド」人気がつづいているなか、佐治敬三はモンスターとなったブランドの人気はいつかは沈静化すると1970年代後半に述べている(『サントリーローヤル/甘く華やかなコク、不朽の名作』参照)。世の中が豊かになり、生活の多様化がすすめばどんなウイスキーが求められるだろうか。ウイスキー復活には時間はかかるだろうが、足元を固め、高品質で日本的な上品さのある香味を伝えつづける必要があると敬三は考えたのである。
 その答えがモルト原酒100%ウイスキーであった。時間をかけモルト原酒を厳選し生まれたのが「シングルモルトウイスキー山崎」(当初はピュアモルトウイスキー)。なんと1984年の発売となった。ブレンデッドの時代が長くつづいていたが、水や気候風土、職人たちのモルト原酒づくりの真摯な姿勢を伝える新たな時代の基盤を築こうとしたのだった。
 さらには長期熟成の時代、エイジング(熟成年数)を意識する時代、プレミアムウイスキーを愛する時代が到来するのではないか、と読んだ敬三は新たな挑戦へと向かう。
 山崎、白州の最良の長期熟成モルトに知多蒸溜所の高品質グレーンウイスキーをブレンドし、世界にジャパニーズブレンデッドの素晴らしさを伝えるブランドを生み出そうとした。それが1989年、創業90周年の年に誕生し、いまでは世界的評価の高い日本を代表するブレンデッドウイスキー「響」である。
 鳥井信治郎から築き上げ、長年にわたり磨き上げてきた香味が凝縮され、モルト原酒が響きあったジャパニーズブレンデッドの誇りたつブランドの誕生だった。
 そして同じ頃、山崎蒸溜所の大改修をおこなう。1989年に新設備での製造がはじまる。これが21世紀に大きな成果となって表れ、サントリーウイスキーは世界に大きな価値を持って認められることになる。(『山崎蒸溜所100周年16/新たな脚光を浴びたISC2003「山崎12年」金賞受賞』はこちら)
 

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