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山崎蒸溜所100周年9/1929―1937までのサントリーウイスキー

創業101年を迎えたサントリー山崎蒸溜所であるが、100周年記事としてこのまますすめていく。前回で文豪・谷崎潤一郎の山崎散策から、戦後の吉田茂首相の山崎訪問までの25年間でサントリーウイスキーの世の中への貢献度が大きく変わったことを述べた。今回はその歩みを述べてみたい。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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苦悩を超えて、名品「角瓶」誕生

 
左/戦前の山崎蒸溜所貯蔵庫、右/戦前の瓶詰め、ラベル貼り作業

左/戦前の山崎蒸溜所貯蔵庫、右/戦前の瓶詰め、ラベル貼り作業


 山崎蒸溜所は101年目を迎えているが、100周年記事をシリーズとしてつづけていく。前回『山崎蒸溜所8/文豪・谷崎潤一郎と45代首相・吉田茂の山崎』では、1926年(大正15)の谷崎潤一郎の山崎探訪から1951 年の吉田茂首相の山崎蒸溜所訪問までの25年間で、日本の、サントリーのウイスキーの立ち位置、注目度が大きく変わったことを述べた。今回からはその間の事象を時系列で述べてみる。
 尚、「シングルモルトウイスキー山崎」は今年で発売から40周年(1984年発売)を迎えた。
 1929年(昭和4)、待望の本格国産ウイスキー第1号「サントリーウイスキー白札」(現サントリーホワイト/『サントリーホワイトを飲もう/2019年発売90周年』参照)が誕生。新聞広告のコピーは“断じて舶来を要せず”とあった。鳥井信治郎が命を賭けたウイスキーであり、発売時の高揚感は現代人の想像をはるかに超えたものであっただろう。
 1930年(昭和5)、「白札」誕生の翌年、「サントリーウイスキー赤札」(現サントリーレッド/『サントリーレッド、元祖家飲みウイスキーのススメ』参照)を発売。寿屋(現サントリー)の命運を賭けた製品でありながら「白札」「赤札」とも市場の反応は喜ばしいものではなかった。
 “焦げ臭い”“煙くさい”と敬遠されたとの評があるが、確かにそうであっただろう。しかしながらまず当時の世情として、ウイスキーという酒に消費者の大多数の関心がなかったことのほうが大きかっただろう。“ウイスキーって、何?”であり、清酒、ビール、焼酎で十分満足していた時代である。
 ウイスキーやブランデーを嗜む人間は限られた好事家、渡航経験のある者、舶来品に通じている者など、極めて少数派であった。
 そして1931年(昭和6)、資金が底をつく。いくらビッグブランドであった「赤玉ポートワイン」(現赤玉スイートワイン)という資金源あっても、大麦の調達ができず、仕込みができなかったのである。山崎蒸溜所の貯蔵庫には1931と印字された熟成樽はひとつもない。
 時代も暗雲が漂っていた。1927年(昭和2)には日本経済は金融恐慌に陥り、2年後の1929年には世界恐慌と不況が連鎖する。そしてこの1931年には満州事変が勃発している。経営者にとっては厳しい時代であった。
 しかしながら鳥井信治郎はただ手をこまねいていた訳ではない。モルトウイスキーの品質改良とブレンドに邁進する。
 そんなか1934年(昭和9)、禁酒法(1920—1933)が解禁されたばかりのアメリカへサントリーウイスキーを初輸出している。解禁とともに酒類の不足に陥ったアメリカからの懇請によるものだったが、世界市場に日本のウイスキー、サントリーウイスキーの存在を知らしめる歴史的な1ページを飾ることになった。
 1935年には戦前のバーブームが訪れている。都市化がすすみ、東京・銀座でバーが500軒を超す。そして翌年には二・二六事件が勃発。小春日和のような平穏な市民の日常がありながら、準戦時という言葉も耳にする奇妙な時の流れがあった。バーではサントリーウイスキーが少しずつ飲まれるようになっていく。
 そんな時代、山崎蒸溜所も稼働から10年以上の年月経ち、豊かな香味特性を抱いた原酒が揃うようになっていた。ついに鳥井信治郎の卓越したブレンド技術が名品を生む。
 1937年(昭和12)、「サントリーウイスキー12年もの角瓶」(後の「角瓶」)が誕生する。ここからサントリーウイスキーは美味い、との評判が広がり、「角瓶」の人気が高まっていく。
 さて、今回はここまで。次回は太平洋戦争と山崎蒸溜所について述べる。
(『山崎蒸溜所100周年10/1937―1950までのサントリーウイスキー』記事はこちら)
 

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