「鬼滅の刃」キャラクターの和柄の名前・意味を解説
「鬼滅の刃」人気で登場人物が着ている衣装の和柄に興味を持つ方が増えています。和文化研究家として、日本の伝統的な文様が注目されるのは嬉しいこと。今回は、「鬼滅の刃」主要キャラクターの着物の和柄について解説します。
<INDEX>
- 竈門 炭治郎(かまどたんじろう):市松文様
- 竈門 禰豆子(かまどねずこ):麻の葉模様、市松模様
- 煉獄 杏寿郎(れんごくきょうじゅろう):火焔文様
- 冨岡 義勇(とみおかぎゆう):毘沙門亀甲柄と赤錆色の片身替わり
- 我妻 善逸(あがつまぜんいつ):鱗文様
- 胡蝶 しのぶ(こちょうしのぶ):蝶
- 鱗滝 左近次(うろこだきさこんじ):波文様、瑞雲柄
- 伊黒 小芭内(いぐろおばない):縞模様(縦縞)
- 産屋敷 耀哉(うぶやしきかがや):ぼかしの羽織りに桧垣文様の帯
1. 竈門 炭治郎(かまどたんじろう)の和柄:市松文様
竈門 炭治郎の衣装は、黒と緑の「市松模様」。碁盤目状の正方形または長方形の格子の目を色違いに並べた模様で、古墳の埴輪にもみられるほど古代より存在します。もともと「石畳」「霰(あられ)」などの名称でしたが、江戸時代中期に歌舞伎役者の佐野川市松が、白と紺の石畳の袴をはいて流行したことから「市松模様」「市松格子」などと呼ばれるようになりました。
その柄が途切れることなく続いていくので、永遠や繁栄の意味をもちます。
2. 竈門 禰豆子(かまどねずこ)の和柄:麻の葉模様、市松模様
竈門 禰豆子は、「麻の葉模様」の着物に「市松模様」の帯をしめています。麻の葉模様は麻の葉を図案化したものです。平安時代の仏像の衣服にも使われており、仏教美術にも多用され、江戸時代に歌舞伎や浮世絵から庶民にも流行しました。麻の葉模様には魔除けの力があるとされています。また、麻は丈夫で成長も早いことから、魔から子どもを守り健やかに成長することを願い、赤ちゃんの産着や子どもの着物によく使われています。市松模様は竈門炭治郎で説明した通りです。
3. 煉獄 杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)の和柄:火焔文様
煉獄杏寿郎の衣装は、燃え上がる炎をかたどった「火焔(かえん)文様」。古来、火は神聖視されており、悪霊防御に用いられてきました。縄文土器にも炎が多用されており、火焔型土器と呼ばれています。火焔文様は、人々の煩悩を鎮めたり、災いを払ったりする呪術的な意味をもつので、仏像の光背や仏教美術にもたくさんみられます。ずっと一定の形にとどまらない炎は、人間の喜怒哀楽や生命力をかもしだすのにうってつけなので、歌舞伎でも多用されています。
4. 冨岡義勇(とみおかぎゆう)の和柄:毘沙門亀甲柄と赤錆色の片身替わり
冨岡義勇の衣装は、「毘沙門亀甲」をアレンジした柄と赤錆色の無地で仕立てた片身替わりです。毘沙門亀甲とは、正六角形のつなぎ模様が亀の甲羅に似ていることから「亀甲」という文様があり、この正六角形の亀甲を下に二つ、上に一つつなぎ合わせた「三盛(みつもり)亀甲」を1つの単位として連続させた文様です。四天王のひとりで非常に強い毘沙門天の甲冑(かっちゅう)にこの文様が用いられているので、「毘沙門亀甲」と名付けられました。毘沙門亀甲柄は、長寿吉兆で縁起の良い亀甲と、必勝・疫病退散・無病息災・金運財宝などのご利益がある毘沙門天のパワーがある吉祥文様です。
5. 我妻 善逸(あがつまぜんいつ)の和柄:鱗文様
我妻善逸の衣装は、「鱗文様」をアレンジしたものです。鱗文様は、正三角形または二等辺三角形を上下左右に連続して配した柄で、蛇や竜、魚の鱗に似ていることから「鱗文」といいます。弥生時代の土器にすでに三角形の連続模様がみられ、死者を守護する願いを込めて埋葬品などにも使われてきました。また、死者の霊は蛇の姿で現れると信じられたことから、鱗は強い呪術性をもつとされました。
鱗文と呼ばれるようになったのは鎌倉時代で、魔除けや呪いの力を持つとされ、武具や戦の衣装に好まれました。室町時代には、能や歌舞伎で女の執念を象徴する柄として蛇の化身や鬼女の衣装に用いられています。江戸時代には、脱皮をする蛇や蝶になぞらえ、厄を落として再生するという意味で厄除けの文様とされました。鱗文は竜蛇信仰とも結びつき、海難除けにも使われています。
6. 胡蝶 しのぶ(こちょうしのぶ)の和柄:蝶
胡蝶しのぶは、蝶を模した衣装を着ています。蝶は、もぞもぞと動くイモムシ(幼虫)がまるで死んでしまったかのように動かないサナギになり、美しい羽をもった蝶(成虫)になって羽ばたいていきます。その劇的な変化から、輪廻転生、死と再生、復活、変化などの象徴とされました。仏教では、蝶は極楽浄土に魂を運んでくれる神聖な生き物であり、輪廻転生の象徴であることから、仏具に蝶の装飾が使われることが多いです。武士の間では、不死・不滅の象徴として好まれ、家紋に蝶を用いた家もあります。また、優美なその姿から能装束や着物の柄としても取り入れられました。
蝶の中でもアゲハチョウは格別で、古来「常世神(とこよのむし)」として崇拝されてきました。アゲハチョウは「揚羽蝶」と書き、ものごとが良い方向に変化する、上昇に向かう縁起が良いものとされています。
なお、蝶のイメージが死や霊に関連するため場合によっては不吉とみなされたり、花から花へ次々と飛び回るので浮気者に例えられたりすることもあります。
7. 鱗滝 左近次(うろこだきさこんじ)の和柄:波文様、瑞雲柄
鬼殺隊員の候補となる剣士を育てる「育手」で炭治郎の師匠である鱗滝 左近次(画像:鬼滅の刃公式Twitterより無料配布)/波文様/瑞雲柄
鱗滝左近次の衣装は、「波文様」と「瑞雲柄」です。 波文様とは、半円形を重ねたものを鱗状に並べて波を表した文様です。波文様にはバリエーションがあり、さまざまに変化する波にあわせて、青海波、大波、小波、波頭、白波、立浪、荒波などの名前があります。波文様は、無限に広がる波に未来永劫や永遠の平安の意味が託されています。
瑞雲柄とは、おめでたいことがある前兆として現れる瑞祥という雲を文様化したもので、中国の神仙思想(しんせんしそう。不老不死の仙人の実在を信じ、自らも仙人になろうと願う思想)に影響を受けています。古来、雲は気象を左右する不思議なものであり、様々な形に変わる雲に吉凶の意味を持たせてきました。瑞祥は、大変良いことの兆しとして現れる雲で、縁起が良い吉祥柄です。
8. 伊黒 小芭内(いぐろおばない)の和柄:縞模様(縦縞)
伊黒小芭内の衣装は「縞模様」の縦縞です。縞模様(縞柄)とは、2色以上の異なる色で平行もしくは交差する線で構成した柄の総称です。格子も縞模様の一部で、大別すると縦縞・横縞(英語でいうストライプ)と格子縞(英語でいうチェック)に分けられます。16世紀の中ごろから南蛮貿易を通じて東南アジアの島々から舶来した布を「島もの」と呼んでいました。やがてこの模様を「島」、のちには「縞」と呼ぶようになったといわれています。「縞」という呼び名になる前は、「筋(すじ)」「間道(かんどう)」と呼ばれており、正倉院や法隆寺などにそれらの品がみられます。古くから縞模様はありましたが、江戸時代後期に大流行し、かつお縞、金通し縞、子持ち縞、千筋、万筋、よろけ縞など、多様な縞模様が庶民に愛用されました。
9. 産屋敷 耀哉(うぶやしきかがや)の和柄:ぼかしの羽織りに桧垣文様の帯
産屋敷 耀哉は、ぼかしの羽織りに「桧垣文様」の帯をしめています。桧垣文様とは、桧の樹皮を細く削って斜めに組んだ垣根(桧垣)を図案化した文様です。規則的に並んでいることから、礼を尽くす、礼儀という意味があります。
【関連記事】