ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年12月の注目!ミュージカル

今年も残すところわずかですが、劇場街では『レベッカ』『オン・ユア・フィート!』『アメリカン・ラプソディー』等、注目舞台が続々登場、見逃せません。レポートやインタビューは随時追記していきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

2018年もあとひと月。くる年に思いを馳せる前に、年の瀬に開幕する待望の再演作、期待の新作もチェックしましょう。インタビューや観劇レポートも随時更新してゆきますので、お見逃しなく!
 
(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします。)
 
*12月の注目!ミュージカル
『レベッカ』←大塚千弘さんインタビュー&観劇レポートUP!
『オン・ユア・フィート!』←久野綾希子さんインタビュー&上田一豪さん&小澤時史さんインタビューUP!(2頁)&観劇レポートUP!(3頁
『道』←観劇レポートUP!(4頁
『サムシング・ロッテン!』←観劇レポートUP!(5頁
『High Fidelity』←飯野めぐみさん&大音智海さんインタビュー&観劇レポートUP!(6頁
『アメリカン・ラプソディー』←土居裕子さん&佐藤允彦さんインタビューUP!(7頁)                                      
 
*別途特集(予定)のミュージカル
『ノートルダムの鐘』←佐久間仁さん・清水大星さん・光田健一さんインタビューUP!
『スリル・ミー』←成河さんインタビューUP!
『ラブ・ネバー・ダイ』←製作発表レポート&鳳蘭さん・咲妃みゆさん・小野田龍之介さん・濱田めぐみさん・石丸幹二さんインタビューUP!
『パリのアメリカ人』←製作発表レポート稽古場見学&演出・振付クリストファー・ウィールドンさんインタビューUP!
『レ・ミゼラブル』←佐藤隆紀さんインタビューUP!
『ロミオ&ジュリエット』←インタビュー掲載予定
 

濃密な愛のミステリーが待望の再演『レベッカ』

プレビュー公演12月1~4日=シアター1010、12月8~9日=刈谷市総合文化センターアイリス大ホール、12月15~16日=久留米市シティプラザ ザ・グランドホール 12月20~28日=シアタードラマシティ、2019年1月5日~2月5日=シアタークリエ
 
『レベッカ』の見どころ
『レベッカ』

『レベッカ』2010年帝劇公演より。写真提供:東宝演劇部

2008年にシアタークリエのオープニングシリーズで上演、連日満員御礼となった大ヒット作が2010年の帝国劇場での再演を経て、8年ぶりに再登場。シアタークリエ10周年シリーズの最後を飾ります。
 
ヒッチコックの映画版でも知られる英国のミステリー小説を、『エリザベート』『マリー・アントワネット』のクンツェ&リーヴァイがミュージカル化、06年にウィーンで世界初演。英国貴族マキシムに見初められて結婚した“わたし”は、彼がコーンウォールに持つ領地マンダレイに移り住むものの、その邸宅は亡くなった彼の先妻レベッカの面影に満ち満ちていた。自分の存在意義を感じられず、自信を失う“わたし”だったが……。
 
ミステリーとしてのスリルはもちろん、ロマンティックな男女の愛、女性の成長物語という要素も盛り込み、リーヴァイのドラマティックな旋律で紡がれるミュージカル。今回の日本公演では、マキシム役の山口祐一郎さんはじめ約半数のメインキャストが初演と同一という、奇跡のようなキャスティングが実現。山田和也さん演出のもと、いっそうの深化と進化が期待される舞台です。
 

『レベッカ』観劇レポート:ドラマティックにして繊細、深い余韻が残る極上のミステリー

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

波音の中に響く女性の歌声。舞台上でフリーズしていた人々の群れが一人、また一人と動き始め、中央に現れた“わたし”が数十年前に焼け落ちた屋敷、マンダレイを思いながら歌う。“あの日、私は21歳……”。
 
遠い目をした彼女が帽子をとると、そこはたちまち1926年、モンテカルロの高級ホテルに。裕福なアメリカ人ミセス・ヴァン・ホッパーの付き添い役を勤めていた“わたし”は、このホテルで英国紳士マキシム・ド・ウィンターと出会い、結婚。新妻として英国南部コーンウォールの広大な領地へと向かうが、そこは前年に亡くなったマキシムの前妻、レベッカの気配に満ちていた。厳格な家政婦頭ミセス・ダンヴァースが仕切る空間に“わたし”は次第に息苦しさを覚え、追い詰められる。そんな折、レベッカの死因に一つの疑惑が持ち上がり……。
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

一人の女性の死の謎を巡るサスペンス劇であると同時に、孤独な男女の心の機微が、シルベスター・リーヴァイの流麗にしてドラマティックな音楽にのせて描かれてゆく本作。場面数・情報量(台詞、歌詞)ともにかなりボリューミーではあるものの、山田和也さんのテンポの良い演出のもと、観客は次に何が起こるかわからない展開にはらはらドキドキ。不器用なりに懸命に運命に立ち向かうヒロインを応援するうち、驚きの結末へといざなわれます。
 
上流のオーラを放つマキシム
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

寂しげで、どこか謎めいた紳士として登場し、次第に前妻レベッカの死について疑惑の目を向けられるマキシムを演じるのは、山口祐一郎さん。ホテルのロビーに現れただけで“わたし”はもちろん、そこにいる誰をもはっとさせる“品のある佇まい”は格別で、その後も抱擁やキスの際には(客席に対して)あからさまにではなく、後ろを向いてそっと、というのがエレガント。はじめは自分よりもだいぶ年下の“わたし”に対して庇護者のような感覚を抱いていたのが、あることがきっかけで彼女の本質に深く心を動かされ、自分もまた変わっていこうとするさまを起伏豊かに演じています。
 
そして今回“わたし”役をトリプルキャストで演じるのは大塚千弘さん、平野綾さん、桜井玲香さん。筆者は平野さん、桜井さんの回を観ましたが、平野さんは終始つつましやかなオーラで“わたし”の魅力を体現。マンダレイの管理人フランクが自信を喪失した彼女を励ますナンバーでの、“傲慢なところなどかけらもない““妻として望みうるすべて”という表現に説得力を与えています。後半、ミセス・ダンヴァースとの力関係が逆転するナンバー「それは私よ」での“だから私よ、ミセス・ド・ウィンターは私!”という、歌い方によっては嫌みに聞こえそうなフレーズも無心に歌唱。清らかな光を放ちます。
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

いっぽう桜井玲香さんは舞台女優としての初々しさがこの上なく“わたし”役にはまり、社交界の華だったというレベッカに対する劣等感、自分はマキシムの愛に見合わないのではないかという不安をリアルに表現。ミセス・ダンヴァースに“出ていきなさい”と迫られる2幕頭のナンバーで思わず過呼吸気味になったり、へたりこんでしまう姿も真に迫り、その後の展開とのコントラストが際立っています。
 
実力派スターたちの確かな表現
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

そして本作を“サスペンス劇”たらしめているのが、ミセス・ダンヴァースという存在。レベッカに幼少期から仕え、彼女の結婚に伴ってこの屋敷に移ってきたミセス・ダンヴァースは、レベッカ亡きあとも家政婦頭として屋敷を切り盛りしているが、新たな“ミセス・ド・ウィンター”の登場を許さず、ことごとく“わたし”を敵対視する。彼女と“わたし”の攻防が本作の大きな見どころとなっていますが、涼風真世さん演じるミセス・ダンヴァースは、重々しさの中でぐいぐいと相手に迫る口跡、歌声が圧倒的。“わたし”をあわや……というところまで追い詰めますが、形勢一転となって動揺する姿は思いのほか儚く、女性的。もしかしたらレベッカへの執着の中には性的な愛情も含まれていたのかもしれない、と想像させるダンヴァース像です。
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

対して今回が初役である保坂知寿さんのミセス・ダンヴァースは、凛とした中にスケール感と潔さが漂う人物。デスク上のレベッカの遺品への几帳面な触れ方などから、偏愛というより“レベッカに仕える者”としての矜持が行動の起点となっていることがうかがえ、いつの世にも存在する“旧世界に取り残された者”の哀しい美学を感じさせます。アウトラインは同じながら、趣の異なる二人のミセス・ダンヴァースはどちらも必見。
『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

『レベッカ』写真提供:東宝演劇部

またレベッカの従妹で“訳あり”の男ジャック・ファヴェル役の吉野圭吾さんは後半、恐喝まがいの申し出をする場面でコミカルなナンバー「持ちつ持たれつ」を一瞬も目を離せない美しい身のこなしで歌い、緊迫感の続く本作にミュージカルならではの楽しみをもたらします。“わたし”の雇い主ヴァン・ホッパー夫人役の森公美子さんは、“わたし”に口うるさく“品”を求める割に人一倍お下品である俗物を明るくデフォルメして表現し、マンダレイの管理人フランク・クロウリー役の石川禅さんは、マキシムや“わたし”に対する視線があたたかく、控えめながら信頼に足る人物を好演。マキシムの姉夫婦役の出雲綾さん、KENTAROさんの人の好さ、“何か”を知っているらしい男ベン役・tekkanさんの、ピュアな中にどこか不穏さを秘めた歌声、警察署長ジュリアン大佐役・今拓哉さんの風格と、共演陣の確かな演技も光ります。
 
一つの結末にたどり着きながらも、寄せては返す波音のように、いつまでも余韻の残る幕切れ。花も実もあるキャストが一丸となって演じる、濃密なミュージカルです。

 

「わたし」役・大塚千弘さんインタビュー

 思い出深い初演、再演
『レベッカ』

大塚千弘 徳島県出身。00年東宝シンデレラ審査員特別賞を受賞し芸能界入り。『ショコラ』等のTVドラマ、映画に出演する一方で『シンデレラストーリー』で舞台デビュー。その後『SHIROH』『ダンス オブ ヴァンパイア』『モーツァルト!』『レベッカ』『ゾロ・ザ・ミュージカル』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『三文オペラ』等様々な舞台で活躍。2011年、第36回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞(『レベッカ』『ソロ・ザ・ミュージカル』に対して)。扮装写真撮影:桑島智輝

――大塚さんにとって『レベッカ』はどんな作品ですか?
 
「ストーリーを引っ張ってゆく“わたし”という役をいただき、でずっぱりでナンバーも多く、しかも初演再演はそれぞれ3か月と4か月というロングラン。初めてのことばかりでプレッシャーもありましたが、得られたこともたくさんあり、特別な作品です」
 
――サスペンス劇でもあるので観る側にとっては緊張の連続ですが、演じる側としてもそれが続く演目でしょうか?
 
「お客様をどこまで“だませるか”がポイントの一つなので、繊細にやっていかないと台無しになってしまう。ミュージカルというよりお芝居の感覚のある作品ですね」
 
――精神的にも体力的にも大変な作品なのですね。
 
「そうですね」
 
――初演については、どんな思い出がありますか?
 
「もうすぐ22歳という時で、ちょうど役と同じ年齢だったこともあって、登場時の、おどおどした自信のないキャラクターについてはリンクする部分がありました。でもその後、(夫の)マキシムを守ろうと強い女性になっていく姿については、当時は自分なりに頑張っていたけど、思い返すと頑張りすぎていたかもしれません。祐さん(マキシム役の山口祐一郎さん)や(ダンヴァース夫人役の)シルビア(・グラブ)さんたちにもたくさん助けていただきました」
 
――シアタークリエのこけら落としシリーズ演目ということで、新しい劇場の特別な空気感もあったのでは?
 
「多くの劇場では舞台の手前にオーケストラピットがありますが、クリエにはそれがなく、オーケストラは後方で演奏するんです。そこで俳優から指揮者が見えるようにモニターがあるのですが、当初は(映像に)ずれが生じて、舞台稽古で調整した記憶がありますね。その後たくさんミュージカルがたくさん上演される中で、不具合は全く無くなりました」
 
――初演の大好評を受けて、はやくも2年後に再演がありました。

「劇場が帝国劇場に変わって、全く別空間になりました。キャラクター自体は既に体に入っていても、クリエの時ままの演技だと遠すぎて見えないということもあるでしょうし、お客様に届ける具合が違うというのはありましたね」
 
――そして今回、待望の再再演です。
 
「8年ぶりです。これだけの時間を経て出演できる、それもまた山口さんとご一緒できる。こんなことってなかなかないですよね。すごく稀なことに感じています」
 
――それだけ初演、再演での大塚さんの“わたし”像が皆の中に残っていたのでしょうね。
 
「それはよく言われますね。クリエ・ミュージカルコレクションで山口さんとデュエットすると“一曲だけでもお二人の『レベッカ』が聴けて嬉しかった”とお手紙をいただくこともありました」
 
大きな変化を遂げるヒロイン“わたし”
『レベッカ』

『レベッカ』2010年帝劇公演より。写真提供:東宝演劇部

――“わたし”ははじめは内向的な女性ですが、マキシムに見初められて結婚、彼の亡くなった前妻を巡る愛憎劇に巻き込まれ、大きな成長を遂げてゆきます。あまたのヒロインの中でも、これだけふり幅の大きな役も珍しいような気がします。
 
「そうですね。原作では彼女の内面についてとても細やかに書かれていて、それによると、はじめ“わたし”は被害妄想気味で、自分がしゃべってることに対して相手が何を思っているのか常に気にしています。私も子供の頃、周囲のことが気になったりした経験があるので、役を一から“創る”というより、自分の経験を活かしながら役を引き寄せて演じていますね」
 
――“わたし”は身寄りがなかったことで、“ここでこの人と関係性を切られたら居場所がなくなる”という危機感を常に持っていたのでしょうか。
 
「そうですね。お金を稼ぐために仕方なくヴァン・ホッパー夫人(森公美子さん)のもとで働いていたのが、マキシムと結婚してお屋敷で暮らすことになる。自分には似つかわしくない場所にいなくてはならなくなった時に、“あのメイドみたいな子供は誰かしら”と言われているような気がしてしまう。その背景には、自分を愛してくれる両親や家族がいなかった生い立ちにあるのかもしれません」
 
――それが強い意志を持つ“わたし”に変貌してゆくのは……。
 
「それまで、自分はどうしてもレベッカにはかなわないと思っていたのが、マキシムの秘密を共有したことがきっかけで、二人の間に揺るぎない信頼関係が生まれる。自分のことを必要としてくれている人がいる、という実感の中で、自信が生まれ、“この人を守りたい”と前に立ってゆく強さが育っていったのだと思います」

今回の『レベッカ』はもはや新作⁈

――お稽古も既に佳境とうかがっていますが、どんな舞台になりそうでしょうか?
 
「これまでとはあまりに違っていて、もはや新作です! というのは、ステージングに桜木涼介さんが入って下さったり、衣裳も前田文子さんが担当して下さって」
 
――山口祐一郎さんのマキシム像は変わってきていますか?
 
「初演の時は私が必死すぎて、余裕がない中でいろんな球を投げていたのを、山口さんが全部受け止めてくださるという感じだったと思います。

今回は3度目ですしこれだけ場数を踏んできた分、私も山口さんからのボールを積極的に受けとめていますが、山口さんはとても繊細にマキシムを作っていらっしゃいますね。時にこわれてしまいそうに感じる時もあります、あんなに大きい方なのに(笑)。
 
でもそれくらい細やかにやってくださることで、“わたし”が守ってあげないといけないという気持ちにさせてくださる。そういう部分はけっこうナチュラルにできています」

 
『レベッカ』ダンヴァース夫人役・涼風真世 扮装写真撮影:桑島智輝

『レベッカ』ダンヴァース夫人役・涼風真世 扮装写真撮影:桑島智輝

――マキシムの前妻レベッカを溺愛するあまり、“わたし”に冷たくあたるダンヴァース夫人役のお二人はいかがですか?
 
「涼風真世さんは再演からこの役をされていて、微笑んでいるように見えるけれど私が違う方向を向いている時にはものすごく残酷な目で見ている、という怖さがありました。山田さんはよく“ウェットな怖さがある”とおっしゃいますね。
 
いっぽう、保坂知寿さんのダンヴァ―ス夫人はちょっと違って、空間の使い方が素晴らしいというか、“レベッカ”というナンバーで“ここに生きているのよ、レベッカは”という時の表現がとても怖いんですよ。涼風さんは、かつてレベッカが愛していたカトレアの花をレベッカの身代わりのように表現しているのですが、保坂さんはレベッカがあたかもここにいる、まだ死んでいないというふうに表現されます。
 
『レベッカ』ダンヴァース夫人役・扮装写真撮影:桑島智輝

『レベッカ』ダンヴァース夫人役・扮装写真撮影:桑島智輝

涼風さんのダンヴァースはレベッカが死んでいることはわかっていても執着し続けているのに対して、保坂さんのダンヴァ―スは“本当にいるのかも”と思ってしまう。怖さの理由が全然違うので、両方観ていただきたいです」

――では大塚さんの“わたし”は今回、いかがでしょうか?
 
「今回、演出の山田さんが解釈を変えた部分があって、かなり印象が変わるような気がします。お客様が“わたし”に感情移入してはらはらどきどき、というベースは変わらないのですが、例えば既に音楽が表現している部分に関しては演技よりも音楽に身をゆだねることを優先する、ですとか。
 
私が散歩していてある人物に出会う場面で、前回まではそこで私もびくびくしながら歩いていましたが、音楽が不穏なので、今回は“わたし”はむしろ楽しくお散歩している。そこでマキシムが怒りだすことに対して、なぜ怒るのかわからないという部分がフォーカスされ、謎が大きくなる。よりめりはりがついていると思います」
 
――サスペンスと人間ドラマ、両面が楽しめそうですね。
 
「サスペンス部分については塩梅が難しくて、山田さんと調節しながらやっているので、お客様にスリリングに味わっていただけたら嬉しいですね。そして愛の強さも感じていただけたらと思います」
 
ミュージカルに対する姿勢が変わった『モーツァルト!』

――プロフィールについても少しうかがわせてください。大塚さんは郷里の徳島でローカルアイドルでいらっしゃったそうですが、アイドル志望だったのですか?
 
「小さいころから歌や踊りが大好きで、やってみせると母や祖母が喜んでくれるのが嬉しかったんです。具体的にアイドルを目指していたわけではなく、新聞で告知を見かけて、12歳でホリプロのオーディションを受けました。最終選考まで残りましたが、自分としてはガッツが足りなかった気がして。悔しく思っていたら、母が“東宝のオーディションもあるよ”と教えてくれました」
 
――そのオーディションでみごと審査員特別賞を受賞し、芸能界入り。ミュージカルについては、ご自身でやってみようと思ったのですか?
 
「はじめは映像のお仕事が多かったのですが、ある日『シンデレラストーリー』というミュージカルのオーディションがあるけど受けてみない?とお話がありまして。

必死に取り組んで合格しましたが、集まったキャストは異種格闘技のように多彩で、デーモン小暮さんにワハハ本舗の佐藤正宏さん、橋本さとしさんに池田成志さん……。ミュージカル界の方は井上芳雄さんだけで、作曲も武部聡志さんなのでポップなテイストでしたし、舞台ってこんなに楽しいんだと思いました。
 
その後改めてミュージカルに本腰を入れたい、と思ったのは『モーツァルト!』がきっかけです。コンスタンツェという役がとても素敵に思えたのと、リーヴァイさんの音楽が私の心の琴線に触れて、どうしてもやりたい!と思っていただけに、オーディションに受かったときはとても嬉しかったのですが、いざカンパニーに加わると、40人近いオーケストラがいらっしゃるわ、歌のうまい方がたくさんいらっしゃるわ……。

もっと歌がうまくなりたい、この中に立っても劣らないようにしたいと心から思い、レッスンに励みました」
 
役を演じる上で大切にしていること

――王道ヒロインのイメージの強い大塚さんですが、『パジャマ・ゲーム』の秘書グラディスのような、セクシーだけどそれがちっとも嫌みにならない女性のお役も印象的です。
 
「いわゆる“健全なセクシーさ”という感じでしたか?(笑)。 ピクニックの場面で私がぺっと吐き出したバナナを(上口)耕平君演じるプレッツが食べるくだりは、稽古中に耕平君とやりとりするなかで生まれたものでした。

演出のトム(・サザーランド)からは、“おバカにはならないでほしい”と言われていて、そこを守ったから健全なセクシーになったんだと思いますね。マリリン・モンローばりに(セックス・シンボル的な方向に)やっていたら、社長が信頼して唯一大事なカギを預かる秘書に見えなくなります。
 
私はいつも、役をやるときには大事にしなければならない要素を二つ三つ持って、あとは自由にやるというやり方をとっていて、そこを外さなければ、相手から投げかけられるものも日々違うので、返し方は自由にやっています。そうすることで自分としても演技が楽しめると思っています」
 
――どんな表現者を目指していますか?
 
「今回の“わたし”のような真面目な役から、『パジャマ・ゲーム』のグラディスのようにちょっと遊べる役まで、幅広くいろんな役をやりたいですね。それが俳優の一番の醍醐味だと思います。

自分と違う人物を楽しむためには、いろんな経験をして人間の幅を広げてゆくことが大切。“こういう芝居しかしません”というのではなく、“こんな役もできるんだ”と思っていただけたら嬉しいです」
 
――ひそかに今後、開拓していきたいジャンルはありますか?
 
「自分で言うのもなんですが、こう見えて私、子供の頃に器械体操をやっていたので、運動神経がわりと抜群なんです(笑)。意外と動けるので、がっつり動く演目をやってみたいですね。昔、小林香さん演出の『TATOO14』という舞台で23曲踊りましたが、そういう演目は楽しいですね」

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