ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

『ラブ・ネバー・ダイ』めくるめく愛憎劇をひも解く

あの『オペラ座の怪人』の“10年後”を描いた究極の愛憎劇が、5年ぶりに再演。A・ロイド=ウェバー渾身作の魅力を、出演者インタビュー、製作発表&観劇レポートで多角的にご紹介します。記事は順次追加掲載してゆきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

ミュージカル界を代表する作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーが“もっとも個人的な思いをこめた作品”と語る『ラブ・ネバー・ダイ』。絢爛豪華な美術と音楽、実力派が揃ったキャストが大きな話題を呼んだ日本初演(前回公演の観劇レポートはこちら)から5年、再びこの大作が登場します。

2010年の世界初演から今も進化中の本作の魅力とは? 製作発表レポートにはじまってキャスト・インタビュー、観劇レポートと、『ラブ・ネバー・ダイ』がさらに楽しめる記事を随時更新してゆきますので、どうぞお楽しみに!

(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローいただけますと、記事更新時にお知らせします)
『ラブ・ネバー・ダイ』2014年公演より。撮影:渡部孝弘

『ラブ・ネバー・ダイ』2014年公演より。撮影:渡部孝弘

《目次》

『ラブ・ネバー・ダイ』とは?

 ミュージカルの金字塔『オペラ座の怪人』(1986年初演)の続編として、作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーが脚本家ベン・エルトンらと組み、創作。パリ・オペラ座に住まう怪人の悲恋の“その後”が、10年後のNYを舞台に繰り広げられます。

2010年のロンドンでの世界初演後、演出、振付等を変えて翌年、オーストラリア・メルボルンで新版上演。多彩な曲調を盛り込んだロイド=ウェバーの楽曲に加え、20世紀初頭のリゾート、コニー・アイランドの猥雑にして幻惑的な空気感を再現したヴィジュアルが、大きな話題となりました。(日本公演はこのメルボルン版に準拠しています)
    怪人、クリスティーヌ、彼女の恋人ラウルに親友メグ・ジリーとその母、マダム・ジリー。主要なキャラクターは前作同様ですが、本作にはもう一人、クリスティーヌの息子グスタフが登場。彼の存在がストーリー上、重要な意味を持ち、その美しいボーイ・ソプラノが大きな存在感を放つ舞台となっています。
 

『ラブ・ネバー・ダイ』2019年版製作発表レポート(2018年11月19日)

 “肉厚の歌声”に酔いしれるひととき
『ラブ・ネバー・ダイ』2019年度版製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』2019年度版製作発表にて。(C)Marino Matsushima

オーディエンスとプレスで満席の場内。待望の再演とあって期待感が満ちるなか、PV上映に続いて楽曲が披露されます。トップバッターは怪人(ファントム)役のお二人。しっとりとしたピアノの前奏が響く中、市村正親さんがステージ中央に進み出て「君の歌をもう一度」を歌い始めます。途中で下手から現れた石丸幹二さんが歌い継ぎ、最後にお二人でサビを。力強くも艶やかなwファントムの歌声にいざなわれ、場内はたちまち『ラブ・ネバー・ダイ』、略称『LND』の世界へ。
 
続いてはクリスティーヌ一家がNYを訪れ、(怪人を除く)一同が再会を喜ぶナンバー「なつかしい友よ」。クリスティーヌ役の濱田めぐみさん、平原綾香さん、ラウル役の田代万里生さん、小野田龍之介さん、メグ・ジリー役の夢咲ねねさん、咲妃みゆさん、マダム・ジリー役の鳳蘭さん、香寿たつきさんが“懐かしい”と笑顔を見せながらも、同時に“何か、変ね”と違和感を抱く。複雑な人間ドラマを予兆させるナンバーが、この日限りの8人編成で肉厚に展開します。
 
次にグスタフ役の大前優樹さん、加藤憲史郎さん、熊谷俊輝さんが「心で見つめて」を披露。父親に愛されているのか自信が持てないグスタフにクリスティーヌが“本当の愛”を語るデュエットを、この日は3人で順に歌います。ボーイソプラノ3人の可憐な歌声にしばし、心洗われるひととき。
 
そして締めくくりはクリスティーヌの「愛は死なず」。平原さん、続いて濱田さんがこの“ミュージカル史上最も高音域のナンバー”かもしれない(?)楽曲を、声量豊かに、たっぷりと歌唱。5年前の初演でこの役を演じおおせ、その後も着実にキャリアを積み重ねてきている二人とあって、舞台装置のないシンプルな空間で歌う姿がなんとも輝かしく映ります。
 
内容に踏み込んだコメント満載のキャスト・トーク

歌声の余韻に浸りながら、続いて挨拶・質疑応答がスタート。

はじめに主催者を代表して堀義貴・ホリプロ社長より「2014年の日本初演では、初日前日にリハーサルを観たアンドリュー・ロイド=ウェバーが“オーケストラの譜面を書き直したい”と言いだし、もっと作品をよくしたいという思いを感じました。その後ドイツ、全米ツアー公演を経て楽曲にも変更が重ねられ、今回は『オペラ座の怪人』ファンもさらに楽しめる内容となっています」と、音楽面のアップデートについてのお話が。(この点について製作発表後、キャスト・インタビューでうかがいましたので後日アップ記事にご注目ください)
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。ファントム役の市村正親さんは「うちの息子も(グスタフ役で)オーディションを受けました」とジョークを飛ばす一幕も。(C)Marino Matsushima

キャスト挨拶は、『オペラ座の怪人』事件後NYにわたり、リゾート経営者として財を成しながらもクリスティーヌを思い続けるファントム役から。

日本初演でもこの役を演じた市村正親さんは「『オペラ座の怪人』『ラブ・ネバー・ダイ』という順でこの役を演じた俳優は世界で僕だけだそうです。来年古希を迎えますが、“長く生きていてよかった”と思いますね」と笑顔を見せ、今回初参加で、『オペラ座の怪人』ではラウル役を演じていた石丸幹二さんは「『ラブ・ネバー・ダイ』前回公演を拝見して、ラウルがまさかこんなことになっているとはと衝撃を受けました(笑)。今回、思いがけずお話をいただき、私の技術で大丈夫だろうかと不安でしたが、今日こうして船出したことで、市村さんの姿を見ながら漕ぎ出していこうと思っています」と決意を語ります。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より、クリスティーヌ役の濱田めぐみさん。(C)Marino Matsushima

いっぽう、『オペラ座の怪人』事件後ラウルと結婚、息子グスタフを育てながらオペラ歌手として活躍するクリスティーヌ役の濱田めぐみさんは「私の中ではクリスティーヌの“母”の部分が強いので、母性を出せたら。歌の面でもレベルアップしたものをお届けしたい」、同じく平原綾香さんは「私はオペラ歌手ではないのでチャレンジングな役ですが、自分も(歌に関しては)独学なので、クリスティーヌにちょっと似ている部分があります。メロディは美しくドラマはドロドロという作品ですが(笑)、初めて観た時には席から立てないほど(感動で)泣いてしまいました。ぜひ何回でも観てください」と力強くコメント。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より、ラウル役の田代万里生さん。(C)Marino Matsushima

クリスティーヌと結ばれるも賭博で身を持ち崩すラウル役の田代万里生さんは、「日本初演の時には、成田からヘリコプターでロイド=ウェバーがやってきて、彼はまだまだ現役なんだ、生きた音楽を生み出しているんだと感動しました。ラウルは自分にとって初の父親役で、今回また(初演とは違う)景色を見られるのではと楽しみです」、同役を初役で演じる小野田龍之介さんは「“愛は死なず”という曲はもともと、僕が以前出演した『ザ・ビューティフル・ゲーム』用にロイド=ウェバーが書いた楽曲で、美しい曲だなと思っていました。けれどそこからカットされたということで、いったいどんな作品に移されたんだろうと思っていたら、この壮大な音楽の作品で。市村さん、石丸さんと(役柄上)対決できることは光栄。丁寧に演じたいです」と興味深いエピソードを披露。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。メグ・ジリー役、夢咲ねねさん(C)Marino Matsushima

コニー・アイランド・リゾートでショー・ガールをつとめながらファントムを支えるメグ・ジリー役の夢咲ねねさんは「今は(歌稽古で)楽譜と毎日戦い、頭を悩ませています。『オペラ座の怪人』では描かれなかったメグの感情を深く掘り下げられたら」、咲妃みゆさんは「尊敬してやまない夢咲ねねさんと同じ役を演じさせていただけるということで、未熟者ですが心を注いで取り組みたい」と初々しく挨拶。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。マダム・ジリー役・鳳蘭さん。(C)Marino Matsushima

ファントムをNYに逃がし、見守るマダム・ジリーを引き続き演じる鳳蘭さんは「歴史に残るミュージカルに続いて出演出来るのは光栄。上から目線ではないですが、この子たちの5年後の成長を楽しみに」と笑わせ、香寿たつきさんは「鳳さんと同じ役ということで初演は本当に楽しかった、5年間のいろいろな経験を今回に生かしたい」と抱負を。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。左からグスタフ役の大前優樹さん、加藤憲史郎さん、熊谷俊輝さん。(C)Marino Matsushima

クリスティーヌの息子グスタフを演じる大前優樹さんは「ロイド=ウェバーさんの曲が大好きなので選ばれて嬉しいです、頑張ります」、加藤憲史郎さんは「歌もお芝居もとても難しいのですが、自分なりのグスタフを演じたい」、熊谷俊輝さんは「僕は舞台で演技をするのが初めて。素晴らしい出演者の方々からいっぱい吸収したいです」とはきはきと挨拶。
 
質疑応答では、市村さんが再演の抱負を問われ「(曲が変わったことで)今、わくわくどきどきしながら一生懸命(改変部分を体に)入れています」、ラウル役を経て怪人を演じることについて石丸さんが「これを知っていたら(『オペラ座の怪人』での)ラウルの役作りが全然違っていたのに(笑)。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

でも、10年という時を経て皆が変わっていくのに、ファントムは変わらない。それは何なのかを追究したい」と語り、感情移入ポイントについて問われた濱田さんは「愛といってもファントム、ラウル、グスタフそれぞれに対してクリスティーヌは異なる愛を持っていて、この5年間で(それらを演じる)手掛かりがつかめてきたような気がします。人の心がいかにうつろいやすいものか。“共依存”など、いろんなキーワードが浮かんできます」と内容を掘り下げて語ります。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。クリスティーヌ役・平原綾香さん。(C)Marino Matsushima

いっぽう平原さんからはまず「(実は)ファントムを演じたかった」との爆弾発言(?)があり、市村さんが「俺はクリスティーヌ?」と返す一幕が。その心は、「(ファントムには)一番共感できるんです。クリスティーヌにはもう少ししっかりしなよ、と思ったりして。好きだからこそ壊してしまいたいというファントムの想いには共感できる。(『千と千尋の神隠し』の)カオナシと千尋のよう。ファントムの愛はエゴだけれど、本当の愛はそうじゃないと気付かせるのがクリスティーヌなのかなと思います」とのこと。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。ラウル役・小野田龍之介さん。(C)Marino Matsushima

続いてジリー親子を演じる4人が全員宝塚OGということで、鳳さんが「実際は“祖母と母と娘たち”という感じですが、必死に若作りして頑張ります」と場を沸かし、香寿さんは「(娘役の二人から)iPhoneの操作を教えてもらったりしています。(先輩とは言っても)ご迷惑をかけないように」と笑顔で語り、夢咲さん(鳳さん・香寿さんは星組の元トップスターで、自分も星組出身のため特別な気持ちがあるそう)、咲妃さんのコメント(“同じ釜の飯”を経験した方との共演を有難く思っているそう)からもお二人への敬愛ぶりがひしひしと伝わります。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。メグ・ジリー役・咲妃みゆさん。(C)Marino Matsushima

グスタフ役の3人は今回、楽しみにしていることについて「『メリー・ポピンズ』でご一緒した(濱田)めぐみさん、(平原)綾香さん、小野田さんが一緒なので楽しみ」(大前さん)、「前回公演では兄(加藤清史郎さん)がグスタフ役の一人だったので、当時からやってみたかった。今回は(『メリー・ポピンズ』で)家庭教師だった人がお母さん、召使いだった人がお父さんということで驚いています」(加藤さん)、「初ミュージカルということでいろいろチャレンジになるので楽しみ」(熊谷さん)とコメント。
ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。(C)Marino Matsushima

『ラブ・ネバー・ダイ』製作発表より。マダム・ジリー役・香寿たつきさん。(C)Marino Matsushima

最後に石丸さんから「ご期待以上の舞台を」、市村さんから「平成最後の公演、ぜひ素晴らしいものに」と抱負が述べられ、和やかな空気のもと、イベントはおひらきとなりました。

公式HP
*次頁から鳳蘭さんはじめ、キャスト・インタビューを掲載していきます!
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